「今すでに、代表24人は、それぞれの結果に振り回されることが、チームとして、日本としていいことではなくて、24人がそれぞれ良い結果を出せる環境がベストだという発想になっていると思います。個々に練習していますが、向こうへ行ったら3週間近い共同生活のすえに9日間のレースがあるということですからね」
河合さんの話はいつも、自分の練習に集中することと、チーム全体への想いが同時にある。バルセロナ、アトランタ、シドニーを経験し、合計14個のメダルを獲得した金メダリスト・河合純一のひとつの姿と思う。合宿の中日、河合さんと、河合さんを13年間サポートするコーチ、寺西真人さんの二人にお話しを聞かせてていただいた。
---- 河合さん自身がチームにしていることは何ですか。
河合「ぼくは・・何もしてはいないけど。そうですね、チームの練習は泳力とか、泳速、障害などによって3班にわかれて、1日2時間・2時間と練習しますから、そのグループごとでのコミュニケーションはラクにできます。逆にそのほかのグループってよくわかんないというのがあったので、そのグループのほかに、ABCとシャッフルしたグループをつくって、朝の散歩とか、つどいをしたり、応援合戦をしたりしています。ABC対抗で盛り上がる。エールのかけあいをする。早い話、どれだけ大きい声だせるかってことをやっているんですね」
---- そのチーム分けを河合さんが?
河合「みんな『ちゃんと分けたね』とか言うんですけど、名簿順にしただけです。ただ、選手・スタッフが一体になって楽しめることがないと・・ということで、年末の合宿の最終日にリレー大会をやりました。この時は5グループにわけて。その頃から、合宿1回に1時間くらいはスタッフが選手の話をきいたり。年末はユース組はフェスピック・ユースで香港に行ってましたけど、アダルトチーム(20歳以上はアダルト、ときまっているわけではないが)で。ぼくには、選手とコーチの中間をつなぐ役割があると思う」
---- 他の競技と水泳の違い
寺西「水泳と陸上は多障害が一緒になっている。そういうところで、私は日頃ブラインドの人と一緒にいて、ブラインドのことはできても車椅子のことはわからない。同じチームでもおどおどしてしまう。それだと車椅子のっている人が身構えてしまうから、そういうことのないようにと思う」
河合「水泳の選手団の中にはいろいろな障害の方がいて、しかも、競技するとき、生身の身体だけでする。例えば、陸上だと、レーサーで走っていて、ブラインドと練習すると危ないし、あまり一緒にやらないと思う。水泳はレーンさえわかれば一緒に出来る。それが、水泳の特長ですね」
<海外の状況>
---- バルセロナ、アトランタ、シドニーと参戦して、これまでの競技から、今回の国際的なブラインドスイマーの傾向は?
河合「今は、ブラインドでは、ウクライナ、ベラルーシが強い。昔はイギリス、スペインだった。たまたまなのか、そういう環境ができちゃってるのか。どういう環境がそうさせているか、興味ある」
---- イギリス・スペインが強いのはなぜ?
河合「イギリスは福祉国家だし、スペインは宝くじの販売権がブラインドで力がある。イギリスは、王室がブラインドをバックアップしている。そういう機関からの支援の流れがあります」
---- 陸上もイギリスですからね。北欧も福祉国家ですし、やはりヨーロッパが強いのかな。
河合「10年前、障害者スポーツができる環境というのが先進国である、というのが当たり前でした。いまでも、ある面ではそういうところあるんですが、ウクライナとか中国とか、発展途上国ですけれどもそういう国々が頑張ってきていると言う中に、社会というか、その国の競技スポーツをする状況がどうなっているのか、ということが、興味のあるところです」
---- ギリシャはなにか聞かれていますか。
寺西「まあ、ホームは強いでしょう。バックアップいっぱいあるし。・・・でも、日本でやるっていったら、バックアップいっぱいしてくれるのかな? 」
<河合純一、アテネ後は? >
---- 先ほど、年齢のこととか、おっしゃっていましたが。水泳の選手は年齢が若いチームが有利なようですね。
河合「2008年が北京じゃなく大阪だったら、僕もそこまでがんばろうかということもあったんですが・・・」
---- それはどういうイミですか???
河合「わかんないですけど。どうですかね。終わって、飲んでから考えます。飲みながら、考えます。(笑)」
寺西「これからは、学校辞めて、プロ選手にならないかぎり、仕事持ちながらじゃ難しくなっていくでしょうね。メダルひとつだけとか、参加だけとか、そういうことはできるでしょうが、本人のプライドが許さないでしょうから。そうなると少し考え方を変えていかなければならないでしょうね」
---- 今回もそうでしょうけれど、競技力っていうのが全世界的に高まってきていているわけですよね? その中で、今回もさらに厳しい目標に挑戦していかなければならないと思うんです。それを、競技者として難しいハードルになって良くなっているととるか、自分にとって競技が厳しくなっていると考えるのか、そういうことでしょうか。
河合「先進国がやや伸び悩んでいるわけですよ。というのは、福祉が充実しているという程度のスポーツ環境では、もうパラリンピックというスポーツで勝つことが困難になっている時代だと。これは、僕のシドニー後の直感なんですよ。仕事でスポーツをしないかぎり、余暇活動の、それをちょっと頑張っている、ということでメダルがとれる大会は、シドニーがほぼ最後だったんじゃないかと思います。もうあそこでも限界値だったと思います。例えば、シドニーの時に、8時間以上仕事をして金メダルをとった選手が一体何人いたか。それをリサーチしたら、どんなことになっていたか。・・まあたぶん、セミプロに近い、それに近い状態で練習できる選手でなければ、金メダルとっていないと思います」
寺西「車椅子のテニスでも、シドニーがかかっているときに公務員やめて、選手やって、世界ランキングに入っている人がいるし、水泳の成田、車椅子の土田もプロのレーサーとして練習時間を確保している。まあそのぐらいでないと、トップになれない。河合も学生の身分に一時的にもどってやっている」
---- 陸上の車椅子レースの選手は、日本の選手にもプロの方がいますね。
河合「そうなってきているわけです。そういう状態に近い環境をつくれる国っていうのがありますわね。そういうところでは、競技者として、生活を保障しながら、おまえはスポーツしろよ、ということで、国の充実度を示す指標としてパラリンピックのメダル数がとれるようになってきているというのが今の国際的な見方ですよね」
寺西「選手側も、スタッフも、何十時間も労働したうえで練習するようじゃダメなんですよ。24時間専門的に競技に接していないと。もう僕なんかも限界感じちゃっていて」
---- 河合さんがプロ化していくかどうかというところにきているわけですか?
河合「ぼくがですか? ぼくはないと思いますけど。つぎの世代だと思うんです。まあ、プロ化が必ずしもいいわけではないのですけれども、ただ、そのくらい一生懸命というか、練習時間がないと勝てない。ということです。ただ、プロ化する財源がどこにあるか、っていうことのほうがもう重要なわけですよ」
---- オーストラリアの車椅子レースの大会とか、アメリカとか、賞金がでるのはあたりまえのようなところがありますよね。日本にはそういうのがない。あってもあまりオープンにされない。どうすれば変わるのかな、って思いますけれども。
河合「片側でリハビリであったりとか、福祉的に障害者スポーツを抱え込もうとしているところと、もう片側で健常のスポーツ側で引きいれようとしているところがあって、綱引きをしている。それだけでは何もかわんないですよ」
---- 新しい大会をやってみるとか。
河合「そう。何をするにも、いままでの枠をとっぱらってやるしかないわけですよ。もう、伝統とかそういうものを壊すようなところがないと何もかわらないんです。そういうことは誰もしたくないっていうところがありますからね。スポーツ界、障害者と健常者の中で感じます。そういう意味では、今回この施設(国立スポーツ科学センター)を使えたというのは障害者のスポーツの中で初ですよ。発展だし、これがきっかけになっていく可能性は十二分にある」
---- スポーツは、結果とプロセスどっちも大事
寺西「水泳はまだ恵まれているんです。委員会合宿の補助費がでる。配分がそれぞれちがって、水泳はメダル数が多いからそれなりに強化費がでる。選手の立場無視していうと、日本は、メダルとってなんぼです。追いかけてくれる人はいるが、選手を育てようとおもったら、メダルとれ。と」
河合「どっちがさきかわからないですけどね。予算が付いているから強化できてメダルがとれるのか、メダルがとれる選手がいるから予算かついてさらに強くなるのか。ただ、いまの日本の流れがですね、メダルをとってきたら、なんです。それでお金ないからうちは強くできなかったっていう競技団体の人がいるんですけれども、どこかそれが「パイオニア」っていうか。そういうところはもう苦しむしかないんですよね。水泳がアトランタの前にお金もらってたのか、バルセロナの前にお金もらっていたのか、というと、ないんですよ。それは今と同じなんですよ。同じであって、いまの現状だけみて、文句だけ言う人がいると、うまくいかない。結果を出すしかない。シビアな世界です」
寺西「理由をつけて文句つけているまえに練習せい、金は天下の回りもの、とか言ってないとダメなんですよ。ぜんぜん回ってきませんけどね(笑)。まあ、そうこうしているうちに、ヤマハさんとか、いろんな企業がそれぞれ応援してくれるようになってきた。応援というか、バックアップの風も感じています」
---- この3日間、たのしそうに練習してましたね。
寺西「苦しい顔しても二時間。笑ってやっても二時間。同じ時間がすぎるのであれば、楽しくやろう。楽しく少しでも。練習っていうのは、何をやっても苦しい。自分が学生だった頃も、よくコーチに『おまえやってみろ! 』と思った」
河合「子供教えていたので、厳しいメニューとかつくるのすきですけど。やるのは大変。きついことも経験しないと。きついことは、やっているうちにふつうになってくる。それが大事なんです」
寺西「凝縮すると人生! 」
河合「冗談です」
寺西「選手にはできるだけ面白い話しをしてリラックスさせる。これは営業です」
河合「ラクなことはないんです。ラクであろうと苦しかろうと・・・・それがわかっている人しかいないと思う、今は」
寺西「それに、ブラインドって言葉が暗いんで。あかるく!」(笑)。
河合「いい場所で合宿できているのも何より。やな連中ですけど。全日本の水球のメンバーがいたり、具志堅さんがいたり。サッカーの稲本さんもいたり。そういうなかでぼくらもやっているということ。そういう意味でいい合宿じゃないかと思いました」
---- アテネでもよろしくお願いします。自炊しながら取材しますので。
河合「おにぎりのさしいれよろしくね」
(写真上から:河合純一選手(B1)、寺西真人コーチ、練習風景1、練習風景2、国立スポーツ科学センター宿泊施設内にてインタビュー。)
【取材:佐々木のぶえ 写真:森田和彦】
記事に関するご意見・感想はこちらへ
→ info@paraphoto.org
/ BBS
|