Paraphoto 特定非営利活動法人 国際障害者スポーツ写真連絡協議会

9月27日 (16:13)

Paraphoto Article

北京パラリンピックへ 隗より始めよ

なごやん

ウィルチェアラグビー日本代表は、25日、最後の試合となる 7-8位決定戦をドイツと戦った。

前日の5-8位順位決定ラウンド、ベルギー戦で、予選のオーストラリア戦に続いて、またも終了直前に勝ち越しゴールを決められ、涙をのんだ。最終クオーター残り4分過ぎまで、常に2点差をつけ、1点差に追いつかれるという展開。このままミスさえしなければ確実に勝てた試合だった。
しかし、ミスが出てしまった。しかも2本連続・・・
特に、35-35 の同点に追いつかれてからの残り2分少しのターンオーバーが痛かった。ほぼ2分間、ずっとボールをキープされて、残り4秒で勝ち越しゴールを決められ、タイムアップ・・・

ウィルチェアラグビーは、バックコートの時間制限はあるが、フロントコートに時間制限がない。いくら時間をかけて攻めても良いわけで、ある意味オフェンス側が非常に有利なスポーツだ。2点負けていても、次のクオーターで自チームのポゼッションから始まったり、後半開始のティップオフ(バスケットのジャンプボールと同じ)が有利な状況なら、最後のポゼッションを時間を使い切ってゴールを取り、次のクオーターの最初のオフェンスで同点に追いつけばいい。
逆に言うと、ターンオーバー一つ一つが、ゲームの勝敗に非常に重大な影響を持つ。「ミスをした方が負ける」「ターンオーバーさせれば勝てる」 ことが顕著なゲームだ。特に土壇場で、いかにミスをしないかがポイントだ。
バスケットボールのように、「オフェンスに時間制限を付けたらどうだろう」と時々思うことがあるのだが、元々「ラグビー」自体にその時間制限はないわけだから、当然といえば当然かも知れない。だけど、ゲームの仕組み、とくにトランジションはバスケットやアイスホッケー、ハンドボールに近いものがあるし、1分とか1分半の少し長めの時間制限があっても良いような気がする。よりエキサイティングな試合にするには一つの手かも知れない。

話を戻すが、とにかく、勝てる試合を終盤にバタバタとミスが出て負けるのは、ほんとうに悔いが残ってしまう。
ミスした選手には「次がんばればいい。気持ちを切り替えて、明日全力を尽くすことだけを考えて!」と試合後に声をかけた。

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ベルギー戦 試合終了の瞬間 悔しい


そして、この日のドイツ戦。

エースの #7 伊藤は、結局、審査未了になって、今大会の出場が無理になった。#15 川村も 4.0 になって事実上出場できない。ローポインターのエース #5 荻野も 1.0 に上げられてしまったままだ。ベルギー戦と同じく、かなりきつい急造ラインで戦わなければならない状況は変わることがなかった。

試合は #2 守、#4 島川、#5 荻野、#9 田村 の、元々のローポインター2人、クイックネスのある2人を組み合わせたラインではじまった。途中、2点差に離された展開になり、ドイツがボールコントロールをして残り10秒で2点差に開くゴールを決めたが、残り1秒で田村が死力を振り絞ったゴールを決め、何とか1点差で終える。

2Qは、日本のポゼッションから始まり、すぐに #4 島川がゴールを決めて同点。ドイツがエースの #8 Picht を抜いたラインできたていたが、#5 荻野、#2 守が効果的なブロックを重ね、同点の状況が打開できないと見るや残り5分で投入してきた。

2点差に開かれたところで、後半に備えて #4 島川、#5 荻野、#2 守を休ませ、#8 三阪、#9 田村、#1 高橋、#11 仲里の機動力のある、軽めのラインに切り替える。1Q と同じように、ドイツが残り 11秒で2点差に開くが、#9 田村からのパスを受けた #11 仲里が走って残り3秒でゴールに飛び込み、1点差。しかしドイツはタイムアウトを取り、ゴールラインへのパス一発で残り1秒のゴールを決め、19-21 の 2点差で前半を終えた。

このあたりは、残り秒数でどんなディフェンスをするか試された時間帯だったが、結局両チームともオフェンスが勝って点の取り合いになった。

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沖縄から来た #11 仲里への応援。
「チバリヨー」は沖縄の言葉で「がんばれ」の意味

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スピードを生かして得点を重ねる #4 島川
今大会で最速のプレーヤといって間違いない

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バックピックやアシストブロックは非常に効果的

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2Q 残り3秒の #11 仲里のゴール



3Q はドイツがティップオフに勝って3点差に開き、#9 田村と #11 仲里のホットラインでパス一発のゴールも決めたが、さらにパスミスから4点差に開かれたところで日本は #9 田村を休ませ、#4 島川を戻す。
ここからが我慢の時間帯だった。引き離すドイツ。追いすがる日本。スピードのある #4 島川が入ってきたので、ゴールラインディフェンスを中心に切り替えたドイツ。日本のオフェンスの時間が長くなってくるが、我慢して我慢して何とか引き離されない。最後に #8 Picht のターンオーバーを奪い取り、残り 2秒で2点差をキープするゴールを #4 島川が決めた。

そして、運命の 4Q。

両チームともオフェンスが読まれ始めてきて、ボーラーがディフェンスのダブルチームで詰まり始める。珍しく #9 田村から走っていた #5 荻野にパスが出て得点するなど、必死のプレーが続いて、日本が1点差で追いすがる。ドイツは相変わらずエース #8 Picht のプレーを中心に受けて立つ。
そしてのこり5分過ぎ、ついに、#9 田村がスティールでボールを奪い取る。すぐに #4 島川にパスを出して、ついに 36-36 の同点に追いつく。
さらにドイツ #6 Bach が球をこぼすパスミス。残り3分でついに日本が 39-38 と1点アヘッドする展開に持ち込んだ。

このまま何とか、勝ち越した状態でタイムアップするようにコントロールしたい。もちろん、ミスは即、負けにつながる。絶対ミスできない。
・・・だが残り2分、40-40 の同点。スローインを受けた #9 田村が、大柄で手が長い #8 Picht らに狙われ、コーナーに追いつめられてパスをカットされ、痛恨のターンオーバーを喫してしまった。

 ここからドイツはボールコントロールにはいり、時間を使い切って勝ち越しゴールを決めに来る。ターンオーバーを奪わない限り、日本の勝ち目はない。#4 島川、#9 田村が必死にボーラーにアタックする。しかし、無情の笛がなり、#9 田村にペナルティー。ペナルティーボックスに入って、4人対3人とアウトナンバーされ、万事休す。続いて #4 島川もファウルを犯して、二人並んでペナルティーボックスに入ってしまった。4人対ローポインターの2人。

ウィルチェアラグビーでは、パワープレーで得点を防ぐことが非常に難しい。アイスホッケーはパワープレーからの得点は4割も取れないと思うが、ウィルチェアラグビーはほぼ確実に得点できる。
残り5秒で #14 Holzem に 40-41 となる勝ち越しのゴールを楽々と決められて、そのままタイムアップ。

対オーストラリア、ベルギーに続いて、無念の1点差負け。今日は終盤追いつく気迫を見せたが、またもや土壇場でボールを奪われ、勝ち越しゴールを決められる展開を作られてしまった。

コート上でがっくりと肩を落とす選手たち。
ついにアテネで、勝利を掴むことはできなかった。

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3Q、2人にタックルされて、後ろ向きになりながら
ゴールを決める #11 仲里

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ゴールを決めるローポインターの #5 荻野

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同点にされ、ドイツのボーラーに襲いかかる
#4 島川と #5 荻野。しかしペナルティをとられる

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試合後、悔しそうな表情を見せる #9 田村

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試合にエントリーできなかった #7 伊藤と #15 川村の
ユニフォームを見せる #11 仲里と #9 田村


GER 41 JPN 40 - final
(athens2004.com 試合結果、Play by Play など)


試合後、何人かの選手に話を聞いた。

#8 三阪
「最後は、みんなで戦った結果だし、これが今のジャパンの力なのだと思う。もう(この瞬間から)北京へのスタートは始まっているので、また一からチームを作り直してやっていきたい。
 このアテネでのことは、良い意味でも悪い意味でも、一生忘れることはない。今度は良い思い出を残せるようにしたい。」
#9 田村
「もう、1点差ばかり続くと、『悔しい』なんて通り越しちゃう。でも確信できたのは、日本と世界の力の差は縮まっていると言うこと。間違いなく勝てるはず。なにが足りないかというと、それはやっぱりメンタルと、土壇場のゴールを奪い取る戦術・・・つまり経験不足だと思う。もっと試合の経験をこなして、こういう場面で勝てるようになりたい。北京に向けてがんばりたい。
 僕も、ここに来るまではレギュラーでもなく、#4 島川の控えだった。審査での持ち点変更の影響で、スタメンで出させてもらうことになった。勝てなかったけど、自分にとってもジャパンにとっても、成果はあったと思う。自分も、ここでの経験を通して成長できたと思う。
 次は絶対に勝てるようにがんばる。まずは(11月の)日本選手権かな。」
#11 仲里
「今持っている力は全部出した。前半終了間際に決めたゴールは、行くしかない、絶対決めてやると思っていた。勝てる方向に持っていくつもりでがんばったが、ミスも出てしまった。悔しいけど、悔いはない。次の北京に向けてがんばりたい。
 (沖縄から両親が応援に駆けつけて)支えてくれた人に、自分のプレーする姿を見てもらえて、本当によかった。この経験を生かして次につなげたいし、ウィルチェアラグビーを盛り上げていきたい。」
#4 島川
「また一点差・・・まあ、詰めが甘いってこと。点差をはね返す力はあったけど、土壇場で何度もやられるのは、やっぱり詰めが甘い。経験も足りないし、メンタルも弱いってこと。
 アテネが終わったら、その後どうしようかと思ってたけど、(未勝利という結果に終わって)このままじゃ終われないんで、行くところまで行くしかない。
 一枚相手の方が上だなという試合もあったけど(アメリカ、ニュージーランド)、勝てる試合(オーストラリア、ベルギー、ドイツ)を落としてしまい、本当に悔しい。掴んだものも多いけど、このままじゃ終われない。
 会社に一番お世話になっているし、帰ってから「8位だった」とは言いづらいけど、支えてくれた人たちには本当に感謝している。
 もっと良いプレーヤーになる可能性のある人も多いはずだから、今後は、国内では普及活動に時間を割いていきたいし、チャンスがあれば海外でもプレーしてみたい。やっぱり、海外の選手と車椅子を交えないと、わからないことが多いから。人生って短いし、やれるときに、やれることをやっておきたい。」
#3 福井
「土壇場で勝てなかったのは、(持ち点変更の影響で)あまり練習をしてないラインで戦ったと言うこともあるけれど、やっぱり経験の差も少し出たと思う。
 結果は残念なものになったが、次回につなげられる課題が明確になったし、特に1点差で負けた3カ国には、次やったら絶対勝てるという手応えを感じた。
 今回、アテネで戦ったという姿を見てもらったことで、ウィルチェアラグビーをプレーしたい、手伝いたいという人が増えてくるとうれしいし、地域の現場などですそ野を広げていくことが大事だ。それがあって、最終的に、こういう国際大会でメダルゲームに絡んでいけるチームを連盟として作っていけると思う。地域などいろいろな場で、若い芽を育てていきたい。
 次は、とりあえず日本選手権(11月・千葉)を盛り上げたい。そして、アジアでは韓国も中国も動いてきているし、次の北京を目指してがんばっていきたい。」
この経験をバネに成長していく。この詰めの甘さを克服していく。国際経験を積んでいく。コーチング、レフェリングの技術を向上させていく。持ち点審査基準など、国際レギュレーションへの変化への対応力をつけていく。普及活動からすそ野を広げていく。若い人を育てていく。地域との結びつきを強めていく。

アテネでの戦いは終わったが、この瞬間から、すでに新しいスタートが始まっている。#3 福井が言うように、我々の課題はとても明確だ。

少し休んだら、早速とりかかろう。
もっと足元を見よう。宝物は、足元に転がっているはず。「隗より始めよ」だ。
そして新たなる高み、北京パラリンピックを目指そう。

これからも一緒に歩いていこう。

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