馬術は唯一馬という生き物と共に行われる競技です。馬は単なる道具ではなく、パートナーとしての役割を担っています。生き物同士がどのようにお互いの気持ちを理解し、どのようにお互いに折り合って行くかが馬術の醍醐味です。馬との良い関係が作られると、馬は乗り手の指示に耳を傾けます。
競技では障害者用に調教された馬を使う訳ではありません。健常者とは全くバランスが異なり、指示の出し方も違う乗り手に出会った時、馬はとっても戸惑い、時には乗り手に反抗します。馬の気持ちを考え、そういう状況を解決するのが乗り手の力量です。決して強引に馬に言う事を聞かせている訳ではありません。人馬一体ということはこういう事なのです。
シドニーでは馬術競技日本代表は3名。グレードIIが1名、グレードIIIが2名でした。グレードIIは常歩(なみあし)と速歩(はやあし)、グレードIIIは常歩、速歩そして駈歩(かけあし)の歩様で演技を行います。
アテネでの馬術日本代表はグレードIaの鎮守美奈さんたった1名。。このグレードは常歩のみで競技を行わなければなりません。速歩と駈歩があれば前進気勢(馬がどんどん前へ行こうという気持ち)をつけることが容易になりますし、見ていてスピード感もありますが、常歩ではこのことがとても難しくなります。観戦者の方々に予備知識がなく、あるいは馬場馬術の経験がなければ、「一体何をやっているんだろう、馬がただ歩いているだけではないのか」というような印象を与えるでしょう。
ところが、プロ級の選手が出てくるグレードIVで要求される最高レベルの内容を常歩のみで演技しなければなりません。
世界選手権、パラリンピックと回を重ねる毎にどんどんレベルが上がっています。私が、否日本が初めて見学した英国での第3回障害者馬術世界選手権大会を考えると、現状とは雲泥の差があります。今回、参加選手の顔ぶれはシドニーとは大幅に変わっているかも知れません。
渡辺 廣人
【このコラムは日本パラリンピアンズ協会により寄稿されました。】