パラフォトニュース
記事掲載日:2004/05/08

「柔の道を行こう!」 視覚障害者柔道レポート 3 

【アテネパラリンピック選手強化合宿 in 徳島県鳴門市の取材を終えて〜余談】

●「スポーツを伝えること」への戸惑い


「パラリンピックに出場するのは、これで何度目になりますか?」
「アトランタ、シドニーで、アテネ。それくらい調べてください」
「すみません」
鳴門市での合宿で、ある代表選手にインタビューした時、こんなやりとりがあった。

インタビュー取材の場合、取材相手に関して事前に基本的な事柄を把握しておくことは当然のこと。そんな基本的なことを選手から指摘されたのは、選手に対して大変失礼なことで、取材する側としては恥ずかしいことだった。「こういうことは二度とないように気をつけなければいけない」と思いながら、一方で、私は少し悩んでいた。スポーツを伝えることに、ひとつの戸惑いがあったからだ。

本当のことをいうと、この選手が3回目のパラリンピック出場であることを、私は事前に知っていた。知っていたにも関わらず、私は、その選手を目の前に、結果として、そんな質問しかすることができなかったのだ。

パラリンピックは、障害者スポーツの国際大会で、日本代表になるのは国内でトップレベルの選手たちだ。どんな選手でも、目標はひとつでも多く試合で勝つことであり、最終的にはメダルの獲得だろう。

視覚障害者柔道の強化合宿で、NHKをはじめとした大手メディアの取材の様子を眺めているうちに、私は「答えが分かりきった質問は、したくない」という思いにかられていた。たとえば、『アテネでの目標は?』という質問。『メダルの獲得』と答えることが予想できる。
選手たちは、入れかわり立ちかわりでやってくるメディアに、何度も同じ質問をされているに違いなかった。私は、『そう答えるだろう』と予想できる答えを聞きだしても面白くないと感じていた。


●●紋切り型「障害」へのアレルギー

もうひとつ、パラリンピック選手の取材で、以前から心に留めていた事があった。それは、選手たちの「障害」についての表現だ。

あるテレビ番組で、先日、視覚障害者の陸上選手を追ったドキュメンタリーが放送されていた。番組そのものは、選手と伴走者の2人を軸に据え、パラリンピック代表に選出されるまでの過程を丁寧に取材しており、好感を持てる内容だった。
ただ、ドキュメンタリー部分の放送が終わり、画面がテレビ局のスタジオに戻された時、女性キャスターがあっさりとこんなふうに言ったのだった。
「障害を乗り越えて出場権を獲得した○○選手!・・・・」
私の気持ちは、一気に冷めてしまった。

私にとって、『障害を乗り越えて』という表現は、強いアレルギーになっている。
学生時代、将来は取材したり記事を書いたりする仕事がしたいと話した私に、ある障害者が、こんなことを話してくれた経験があったからだ。
「新聞やテレビは、僕ら障害者がイベントをしたりする時しか取材に来ない。あとは、スポーツや何かですごく活躍した特別な障害者を取り上げる。僕らが日常生活の中困っている小さなことは取り上げないんだよ」。

スポーツや音楽などで活躍する障害者に対し、『障害を乗り越えて』という表現を使うなら、スポーツや芸術では特別な才能がない多くの障害者の存在をどう表現すればいいのだろうか。
特定の障害者を『障害を乗り越えて』と言うことで、暗黙のうちに、その他大勢の障害者を『障害を乗り越えていない』と位置づけてしまうことになりはしないか。
そもそも、「障害」は治るわけではなく、一生、障害者に伴なうものだろう。それを『乗り越えて』と表現してしまって、いいのだろうか。
私は、そんな思いを抱えていた。


●初めの一歩から

「当たり前の答えを聞き出すような質問はしたくない」とか、「障害をどのように表現したらいいか」と考えているうちに、柔道の代表選手に、何をどう質問したらいいのか分からなくなった。結果として、パラリンピックの出場回数を聞くという失敗をしてしまった。

一般のメディアに聞き出せないような、手応えがある話を選手から聞き出したいと思ったが、鳴門市の合宿で、私がこの課題に取り組むには大きな無理があった。

私にとって、柔道というスポーツを生で見るのは、産まれて初めての経験だった。これまでに、柔道をやってみた経験もない。そんな未経験者の私に、柔道に関する中身の濃い質問ができるはずがない。

ありふれたことではなく、読者が唸るような内容を聞き出すような取材をするには、柔道や選手たちをよく知り、よく付き合い、深く分析する目を持たなければならないと思った。

まずは、柔道をよく観ることからだろう。パラリンピックアテネ大会まで、あと100日ほど。残された時間は少ないが、視覚障害者柔道をじっくり追っていきたい。

【河原由香里】

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