【アテネパラリンピック選手強化合宿 in 徳島県鳴門市〜その1】
●アテネ代表選手、徳島県で強化合宿へ
うず潮で有名な徳島県鳴門市。温暖な気候に恵まれている土地柄か、街を行く地元の人は、首都圏で生活する人と比べてどこかのんびりした空気がある。鳴門駅前は、居酒屋やビジネスホテルが数件並んでいる程度で、ネオンが輝くような繁華街はなく、静かな街という印象だ。ゴールデンウィークを迎えた鳴門は、「暑くなる」と予報された日は涼しく、「大雨になる」という日は曇りに留まるという“予報ハズレ”の天候となった。
アテネパラリンピックに出場する視覚障害者柔道の代表選手たちは、5月1日から5日までの日程で、鳴門駅から徒歩約20分にある鳴門総合運動公園武道館で、強化合宿に臨んだ。今回の合宿には、日本代表選手6人のほか、中国やイタリアなど海外4か国から約20人の外国人選手が参加。また、徳島県柔道連盟の協力で、県警や高校生の柔道選手が参加し、活気があるものとなった。
合宿では、午前中に、講師の指導による立ち技や寝技の基本練習を実施。午後からは、体重別による試合形式の練習や、技の研究などが行われた。また、NHKや読売新聞などの大手メディアが取材に訪れたため、日本の代表選手たちは、休憩時間にインタビューや写真撮影への対応に追われるかたちとなった。同行取材をした私自身も、入れかわり立ちかわりやってくる一般メディアに、早くもパラリンピックへの盛り上がりを感じさせられた。
今回の合宿レポートは、まず、90kg級日本代表の宮内栄司選手のインタビューから、お届けしたい。
●日々の取り組みで“柔道の体力”強化へ
90kg級・宮内栄司選手
「シドニー大会に出た4年前とでは、柔道について考えていることが違います。年月が経つにつれて、また、新しい課題に気づくんです」。
90kg級代表の宮内栄司選手(30)は、こう語る。宮内選手にとって、パラリンピック出場は、19歳の時のバルセロナ、4年前のシドニーに続き、アテネで3大会目。ベテランといっていい選手だが、柔道の練習では、「今日はこれをやろうと、日々何か課題を見つけ、一つひとつクリアしていくことを考えている」という。漫然と練習するよりも、課題を持って取り組むことで、モチベーションを保つことができ、ステップアップもできると感じているからだ。
宮内選手は、自分の柔道について、「今はまだ、手応えを感じていないレベル」と評価する。例えば、連続技を1、2、3のタイミングで相手にかける時、最後の3でかける技が一番強い技になることが重要だが、今の状態では、まだ最後の技が弱いという。
宮内選手は、 「今回の合宿でやってみて、まだまだ力もアップしたい、スピードもアップしたいと感じています。たとえば、力が4、スピードが6として、合計10の枠でいかに戦うかを考えるのではなく、今は10しかない枠を20の枠に広げることが目標です。技術を磨くことから実戦の勘を養うところまで、全体的な“柔道の体力”をつけていかなくてはならないと思います」と話した。
●「目標は、柔道に集中すること」
アテネでの目標は、「柔道そのものに集中すること」だ。もちろん、金メダルを獲得したいという思いはある。ただ、勝つことにこだわると、それがプレッシャーになり、思い切った技がかけられなかったり、実力がだせなかったりすると考えている。宮内選手が心掛けていることは、ただ一つ“集中”だ。
勝ち負けを考えず、柔道そのものに集中して実力を発揮し、結果として金メダルがついてくる−−そういう柔道をしたいと話す宮内選手。 理想の柔道は、“しなやかに強く”だ。
【河原由香里】