31日(木)。卓球(クラス11・知的障害)の選手と箕輪一美さんを訪ねて、選手村を訪れた。一階が二世帯、上に20階(以上)という長細くそびえ立つ集合住宅(4LDK・アパート)が選手たちの城。
今大会で、知的障害の男子卓球は上位を独占した。トーナメント戦では、武田、堀内、松本が香港を破り、3つの日の丸が掲げられたが、日本の報道陣の姿はなかった。わたしが電話で表彰式のことを聞いたのは、翌日のことだった。「しまった!」と思った。
選手たちは昨日の打ち上げで一様に眠そうな顔で現れた。部屋からリビングルームへ入ってきた2位の堀内信雄選手に、開口一番「来るって言ったのに、こなかった!」と言われてしまった。本当に申し訳ない。反省しながら、日にちを聞き間違えていたんです、と間のぬけた言い訳をした。せっかくの表彰式を見にいけなかった。わたしも、つからった。そんな寂しい想いもあったけれど、箕輪さんも選手たちも元気そうにしていたのでホッとした。それは、そのはずだ。選手たちは自分自身への一番のプレゼントを手に入れたのだから。メダルを首にかけて、今回の大会を振り返る選手たち。来年2月に行われるアルゼンチンの大会、10月に行われる上海の大会をはじめとする大会が控えている。「アテネを目指して」という言葉も聞かれた。
今大会で1位になった武田選手は、東京で独り暮らしをしながら、平日は仕事の後、土日は1日中練習している。名古屋など、各地の卓球場を巡りながら、旅先で対戦相手をみつけ、腕を上げていく。卓球大会に関する情報を収集し、各地で行われる大会をチェック、勝算のある大会を見つけては、出場しているのだという。武田選手は出版社で伝票整理などの仕事をしている。会社の人によく「仕事が遅い」と言われるそうだ。対戦相手を前に、台の前に立つキリリとした表情からはあまり想像がつかない。
このリビングルームにいる選手たちは全員社会人。大会ごとに会社に申請をし、休暇をもらっている。フェスピックも同じである。多くの大会に出場したいが、仕事を休めば会社に迷惑をかけることになる。今回のように、メダルを持って帰れば、理解も深まるのではないかと思う。
障害者の競技は、まだまだ認知度が低く、一部には、全く知られていないということもある。とりわけ、知的障害の競技については、観戦を楽しめる人が圧倒的に少ない。8月に行われた INAS-FID(知的障害者スポーツ連盟)のサッカー世界選手権の決勝戦では、横浜国際競技場に4万人を越える観客が集まったが、このような感動をできるだけ多くの人と共有できれば話ははやいのである。たまごが先か、にわとりが先か。関心が高いから報道するのか、ナイから知らせるのか。いずれも「関心がない事そのものの問題」を捉えていないのだ。今回、卓球の競技については、フェスピックに来ていた日本の報道陣は、身体障害の表彰が終わるとすぐにそこを立ち去ってしまった。はためく3つの日の丸と選手と箕輪さんたちをのこして(おわり)。
☆このコラム「さるばなな」は、観戦取材中の嬉しかったことを書きます。第一回目から、編集方針を外してしまいました。
【佐々木のぶえ】
※この記事は、2002.10.31 FESPICのコンテンツに掲載されたものを再掲載しています。
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