ソルトレイクパラリンピックには、IDクラスの参加が認められていない。というのは、シドニーパラリンピックでスペインのバスケットボールの選手が、健常者にもかかわらず知的障害を装って大会に参加したことが発覚したためだ。このような事態になってしまったのは、IDのクラス分けが非常に難しい問題だからだろう。IQのテストをしても「わかりません」と言ってしまえばそれまでだし、世界の教育水準を考えても共通の基準を作るのは難しい。また、国や地域によってもIDの受け止められ方が違う。北欧では知的障害の基準が比較的重いのに対して、他の欧米諸国では比較的軽い。WHOによる知的障害の定義は「日常生活に支障がある者」とあいまいで、IQなどの判断基準がない。
「日常生活に支障がある」とはどういうことなのだろうか?ノルディック日本代表の新田佳浩選手(LW6/8)は言う。
「例えば米をとぐときにホイッパーを使ったとする。この場合、日常生活に支障があると考える人もいれば、便利ゆえに使っていると思う人もいるかもしれないでしょ。こんな風に、その国の文化や個人個人の考え方で基準は変わってくると思う。日本の場合は、養護施設に入っていればIDと認められるらしいけど、養護施設には貧しくて学校に行けない人も通っているからね。今回のIDクラス出場停止の問題を考えると、ここからがIDクラスという境界線を作るのはとても難しい。視覚障害についてもそうだけど、自己申告に頼るところが大きいから、ただ単に基準を設ければいいという問題でもないし。でも今大会に向けて努力してきた選手たちの気持ちをむだにしてはならないのは確かです」。
今回の旭川の取材で、ソルトレイクパラリンピック代表に内定していた安彦・篠原・西村の3選手に話を聞くことができた。3選手とも、来年の世界選手権(ポーランド)、4年後のパラリンピック(トリノ)へ向けて気持ちを切り替えている。その精神力の強さには、ただただ感心するばかりだ。西村選手にいたっては、長野パラリンピックに捻挫で欠場した悔しさを晴らす機会を失ったのだから、相当ショックだったに違いない。そこから次の目標へ向かって進むことは並大抵なことではないはず。スキーが好きという思いが3人を次の目標へと進ませたのかもしれない。そして、3人にはすばらしいライバルであり友達がいる。それは彼ら自身だ。この3人のこれからの戦いからは目が離せそうにない。「今度は1番になる」と言ってくれた篠原君が、本当に1番になるのだろうか。それとも・・・。
磯田久美子
※この記事は、2002年1月に取材されたものです。
ソルトレークパラリンピック大学生チームの「追い風」より再掲載しています。
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