リオオリンピックに続き、パラリンピックでも初めてとなる難民選手団が結成された。今回、難民選手団としてパラリンピックに参加するのは、シリア出身で水泳のイブラヒム・フセイン(27)とイラン出身で米国に在住する円盤投げのシャハラッド・ナサジプール(27)の二人だ。
選手村でフセインに話を聞いた。
フセインは元々、オリンピック出場を目指すアスリートだった。2012年、内戦下のシリアで、道で倒れた友人を助けようとして爆撃に巻き込まれ、右足を失った。内戦から逃れるため、2013年に国境を超えてトルコに入り、トルコからゴムボートでエーゲ海を渡って2014年にギリシャへたどり着いた。
「元々は水泳と柔道をやっていた。片足で柔道は難しいので、今は水泳と車いすバスケットをしている」とフセイン。今回、フセインは50メートルと100メートル自由形(S9)に出場する。
「オリンピックには出られなかったが、今こうしてパラリンピックに参加できるチャンスをもらったことに満足している。最初に思い描いていたものとは違う形になったが、夢がかなったことが嬉しい」と心境を語った。
義足は、ギリシャの専属医が無料で用意してくれた。普段は週3日練習を行い、それ以外はカフェ定員として働きながらアテネ市内のアパートを借りて生活している。
フセインはアテネで行われたリオ五輪聖火リレーのランナーを務めた。聖火リレー後、フセインは「今回の聖火リレーは私だけのものではない。それは、シリアのため、世界中にいる難民たちのため、私を受け入れてくれたギリシャのため、スポーツのため、私を支えてくれるすべての人のためのものだ」。と、自分を支えてくれている人々への感謝を述べた。
リオパラリンピック開会式では難民選手団の旗手も務めた。「聖火リレーに続いて旗手も務めることができてとても光栄だ。まるで夢のようだよ。でもこの夢は誰にも覚ますことのできない夢だね。パラリンピックに出場している選手は、一人ひとりがチャンピオンだ。厳しいレースになるだろうね!」と旗手を務めた感想を語ってくれた。
難民選手団の広報を担当している国連難民高等弁務官(UNHCR)のルイズフェルナンド・ゴディンホにも話を聞いた。ゴディンホは次のように話していた。
「パラリンピックに難民の選手が出場するということはとても大事なことだ。体に障害を持っていても、難民でも、周りのサポートさえあればアスリートになれる。彼らは、大きな可能性をもっているんだ。そのことを、パラリンピックのような世界中が注目する大会で証明することが大切だ」
これまでのオリンピック・パラリンピックでは、祖国を追われ、受け入れ国の国籍を取得していない難民は出場できなかった。
「いかなる差別を伴うことなく、スポーツを通して平和でよりよい世界をつくることに貢献する」というオリンピック・パラリンピックの基本理念を実現するために、今回の難民選手団の参加は大きな一歩となるはずだ。
様々な困難を乗り越えてリオの地に立つパラアスリートたちを、応援していきたい。
(写真・取材サポート:中村真人)