開会式前日を迎えた、現地時間6日午後、パラリンピック選手村が報道向けに公開された。
選手村は、競技施設のあるオリンピックパークからはおよそ3キロ離れた場所にあり、期間中は専用のバスなどが会場とを結ぶ。161の国と地域、難民選手団を合わせた、およそ4300人の選手がここに滞在する予定だ。
31のタワー型マンションなどが並ぶ居住棟と、芝生や小川の流れる公園、大型の食堂施設などが広々とした敷地の中に用意された。
村内では、選手たちが芝生の上で座って談笑したり、写真を取り合ったり、リラックスした様子。中には男女の選手がベンチで肩を寄せ合い空を眺めているほのぼのとした姿も
石畳の道につまづく義足の選手の姿が少し気になったが、車椅子の専用レーンを始め、電動バイク、セグウェイなど身体のコンディションに合わせたそれぞれの姿でスムーズに往来する選手たちの様子にあまりストレスは感じなかった。
話を聞いた選手たちからの評判も上々だ。
日本選手団の主将を務める車いすバスケットボール男子の藤本怜央(SUS)選手は、「街の治安や施設の状況について、事前にいろいろと報道されてきましたが、そういうストレスは一切ないし、競技に集中できるよう環境を整えてくれています。身構えていた部分はありますが、雰囲気も人もいいですし。積極的にコミニケーションを取るとなかなかいい笑顔を返してくれる」と笑みがこぼれた。暖かく、時折ゆるく吹き抜ける風が気持ちが良いとも語り、唯一のもったいないのは「練習で外に出られないことかな?」と笑った。
そうした和やかな雰囲気が漂う中、様々な選手たちに開会を控えた今の心境を聞くことができた。
■藤本怜央 海外での実績を実感、「ロンドンの頃の自分とは違う」
あらためて、バスケットボール男子の藤本怜央選手に意気込みを聞いた。前日の練習風景では選手達に険しい表情はなかった。藤本選手は2014年9月から約半年間、ドイツのクラブチームに所属、海外で技を磨いてきた。9位に終わった、前回のロンドンパラリンピック後の新たなチャレンジだった。
堀)
前日の練習も見ました。選手がリラックスした様子が印象に残りましたが、コンディションはいかがですか?
藤本)
とても順調に仕上がっています。選手村では他の国のプレイヤーとも色々とコミュニケーションが取れるので充実しています。
堀)
これまで海外のプレイヤーたちとコミュニケーションをとる中で印象に残っていることは?
藤本)
僕がドイツに行っていることはみんなわかっていますし、ドイツリーグで戦っている時に知り合ったみんなが話しかけてくれるので、自分の名前が知られていると実感できて、まず気分がいいですよね。
堀)
ちょっと見晴らしがいいところにいるという?
藤本)
そうです。今までと違うという感じですね。ロンドンの頃はあくまでも「一日本人選手」としての自分がいましたけど、今回は違う。世界との交流がこの4年間で作られた中での今があるので、非常に充実していますよ。
堀)
意気込みをお願いします。
藤本)
まずは、初戦、トルコをしっかりと獲りに行きます。
初戦は開会式翌日の現地時間、9月8日。日本は強豪オーストラリアと戦うグループで戦う。
■木村潤平 4度目のパラリンピック、「リオで完全燃焼したい」
パラトライアスロン選手で、今回が4度目のパラリンピック出場となる木村潤平(NTT東日本)選手。2004年のアテネ以来、過去3回の大会では水泳代表として記録に挑んだ。メダル獲得への道のりは険しく、苦しんできた。水泳からパラトライアスロンへ舞台を移し、リオでは
自身初のメダル獲得を目指す。木村選手はパラフォトなどが主催した、子供記者育成のためのワークショップにもゲスト講師として参加をしてくれたこともある。自身の活躍への期待は誰よりも肌で感じてきた強い思いもある。選手村で再会した木村選手の表情は充実していた。
堀)いよいよですね。
木村)
気分がすごくいいです。なんていうんですかね、この空気感がいいですね。
堀)
目的としていた地に着いたから?
木村)
なんというんでしょうか。今まで一番気持ちがよく生活できています。
堀)
何が要因ですか?
木村)
とにかく、リオがいい雰囲気なんですよね。
堀)
事前に治安の問題とか色々とあったが。
木村)
ところどころ小さいのはありますけど、普通の生活でもあるようなレベルの話なので気にならないです。それよりもこれだけ世界から色々な人たちが集まって、それなりに今まで頑張ってきた人たちばかりなので、すごくパワーをもらえますよね。パワースポットになっています。
みんなのパワーがみなぎっているので、ここにいるだけでパワーをもらっています。
堀)
確かに、リラックスした様子ですね。
木村)
天気もなんだかんだ言って晴れているし、良いですよね。クーラーがなくても夜は涼しくて寝やすいですし、陽が当たって気持ちがいいし。そして、日本のサポートが本当にいいんですよね。困ることがなくて、ハイパフォーマンスセンターというのができているんですけど、それと同じような施設が日本選手団のところにもあったりして、マッサージから、お風呂も準備してくれていて普通に入れますし、本当に不足している部分がなくて、自分が一人暮らししているよりもいい暮らしができているので、逆にここに住みたいくらいです。
堀)
海外選手との交流は?
木村)
それも楽しみの一つですよね。僕も元々水泳をやっていたので、水泳時代の友達だったりとか、トライアスロンの選手ももちろんいて。スロヴェニアの選手など、水泳をやっていた頃の友達で他の種目に移った選手とは「お互い種目変えたんだね」という話ができたりして。
堀)
ここへ来て、逆に意外だったことなどは?
木村)
アスリートパークのプールをみましたか?
堀)
ウォーミングアッププールなど取材しました。仮設の大きなテントのような施設でしたね。
木村)
あれがとてもいいんです。プールの底も随分簡易な造りになっているじゃないですか?それが、意外になかなかいいプールで、泳ぎやすいんです。疲れた時の引っかかり具合が全然違うんです。
堀)
取材中に施設内を歩くと、この建物はまだ作りかけなのかな?橋や道路の鉄パイプがむき出しだなと思って見ていますが、それでも歩けますし使えてますもんね?
木村)
いいじゃんこれでと。逆に金をかけていなくていいじゃないか、と思いますよね。雰囲気がいいから、とてもいいですよね。
堀)
意気込みを最後に。
木村)
4度目になるので、本当に最後だと思って挑みます。「東京があるね」とみんなに言われますが、現実的には、ここで競技人生が終わる可能性もあるので、リオで燃え尽きるくらいやりたいと思っています。やり切りたいなと。
日焼けをした木村選手の口元からはインタビュー中、常に白い歯がこぼれていた。4度目のチャレンジ。記録と向き合い苦しみ勝ち取った日本代表の座。初戦は今月10日。完全燃焼でメダルを狙う。