6月12日、横浜国際プール(横浜市)で第19回 日本知的障害者選手選手権・水泳競技大会が行われ 、全国から356名がエントリーした。知的障害スイマーにとって国内最高峰の大会となり、2001年・第4回大会からここ横浜国際プールで開催され、毎年大きく参加者を増やしている。大会は、日本知的障害者水泳連盟が主催、同連盟および日本ろう者水泳協会の登録選手も参加して行われている。
今大会は、7月のジャパンパラリンピックの選考会を兼ねると同時に、9月に行われるリオパラリンピック日本代表に内定した7名の選手の壮行会も開催され、リオに向けたメデイアの取材も多かった。
200メートル個人メドレー
注目のレースは、リオでパラリンピック2度目の出場となる23歳の津川拓也(ANAウイングフェローズ・ヴィ王子)が得意とする200メートル個人メドレー。
この種目には、津川のほか、リオ代表候補の田中康大(気愛水泳塾)、中島啓智(花見川スイミングクラブ)らもリオ出場種目としている。谷口裕美子日本代表監督の話によると「みな平均2分18秒台の実力は持っている」という。
しかし、今大会で日本新記録を更新する2分16秒11、世界ランク3位に相当するタイムを突破して優勝したのは、リオ代表には選出されなかった東海林大(山形ドルフィン)だった。
東海林は、次のように話してくれた。
「3月の選考会後、気持ちが落ち込んで練習に集中できずこのレースも不安だった。リオは行きたかったが選考会で標準タイムを切れなかったので仕方がない。自己ベストが出てよかった。目標は、2018年のアジア大会と2020年の東京パラリンピックを目標にします」
ロンドン後、昨年のグラスゴー(イギリス)でのIPC世界大会にも出場した津川はリオ日本代表候補となっている。
「リオで、100メートル背泳ぎ1分03秒、200個人メドレーで2分17秒62を目指しています」と話した。しかし今大会で東海林が16秒台を出したということで日本での200メートル個人メドレーはすでに新たな時代に入った。
多くの参加者がひしめき合う知的障害クラスの水泳。国内だけでも複数の若い選手が世界につながる記録を出せる可能性を持っていた。
100メートル平泳ぎ
ロンドンパラリンピックに初出場し世界記録を叩き出した田中康大の得意とする100メートル平泳ぎ。現在は昨年1分6秒台を出したイギリス選手が世界記録を保持し、田中のベストからは4秒近く縮める必要がある。
「今日は1分09秒83でした。いい泳ぎができました。タイムは1分09秒でした」と、繰り返していた。それが世界記録を下回ることは理解しているようだ。
自由形/50・100・200
自由形には多くの選手がエントリーし、リオ代表に選ばれなかった選手の中にも実力ある選手が潜在しているようだった。50メートルと100メートルは予選・決勝と2レースが行われた。
<50メートル自由形>
予選から大会新を更新し、決勝でさらに縮め25秒61で優勝したのは出口瑛瑚(ミズノスイミングクラブ)だった。リオ代表候補の宮崎哲(あいおいニッセイ同和損保)が続いた。
<100メートル自由形>
1月にタイで行われたIPC公認INASアジア大会で世界ランク9位の自己ベスト55秒12をマークしたリオ代表候補の宮崎哲は、決勝56秒80の大会新記録で優勝。同じくリオ代表候補の坂倉航季(津トップスイミングクラブ)が2位となった。
<200メートル自由形>
昨年から国際大会へも出場するようになった17歳のリオ代表候補・中島啓智(花見川スイミングクラブ)が2分01秒25の大会新記録を更新して優勝。実力として同等の宮崎悟はが2位、坂倉航季が3位だった。宮崎は、ゴールしてすぐガッツポーズでアピールしたが、計測は0.21秒差で2位だった。
「泳いだあと、自分が1番かと思ったが、2着でした」と宮崎。記者が、「今日は5レース泳ぎましたが疲れましたか?」と尋ねると、「5レース泳いで疲れたが、水に入ってしまえば、もう一生懸命泳ぐのみ。何も考えない」と、泳ぐことが楽しくてたまらない様子を表現してくれた。
400メートル個人メドレー
今年1月のタイで行われたIPC公認・INASのアジア大会・400メートル個人メドレーで、津川拓也が5分01秒86の世界記録を更新した。国際大会での開催事例が少なくエントリーが少ない種目であるが、ロンドンパラリンピック100メートル平泳ぎでの田中康大以来、日本で2人目の世界記録突破者となる。
今大会400メートル個人メドレーに挑戦したのは、27歳の林田泰河(宮前ドルフィン)だった。林田は、身体障害の江島大佑(シグマクシス)が体調不良による代表辞退で急遽代表内定者として繰り上がった。
「5分8秒53はまあまあのタイムだが、試合にあわせもっとコンディションを整えていくことができたらと思ったが、どんな結果でも自分の実力になっていくと思った。前半のバタフライと背泳ぎで消極的な泳ぎとなったので、前半からペースとあげて得意なひらおよぎに持っていくということが課題となった。ジャパンパラの平泳ぎでリオの前哨戦となるレースをしたい」とレースの感想を話してくれた。
宮前ドルフィンは長く活動するクラブチームだが、今回メンバーとして林田が初めてパラリンピックに参加することになった。「代表になれたことは嬉しいですか?」という記者からの質問に、
「嬉しいが、まだ発表があって1週間にしかならないため、恥ずかしくない泳ぎをしなければと思う」と謙虚に答えた。
フリーリレー
1日の競技を締めくくるフリーリレーでは、林田泰河の所属する宮前ドルフィンが優勝した。
19回目になる知的障害者選手権水泳競技大会が終了した。リオ代表候補以外にも若く実力のある選手が多くいた。レースの疲れも泳ぐ楽しさのうちとばかりに元気な姿があった。