第32回日本身体障がい者水泳選手権大会が11月7〜8日の2日間にかけて、選手約400名、スタッフ・ボランティア約230名により開催された。
会場は、東日本大震災で被災した宮城県総合運動公園グランディ・21のプールで、同施設のメインアリーナは震災で亡くなった方の遺体安置所だった。以降、復興を祈願した有名アーティストのコンサートやフィギュアスケート大会など、イベントが数多く行なわれ、本大会も「東日本大震災復興支援」の名のもとに開催された。
今年は2020東京オリンピック・パラリンピックへ向けスポーツ庁が設置され、日本水泳連盟会長の鈴木大地が長官に就任するなど、国内のスポーツ環境が前進した。障害のある人の水泳競技の登竜門である日本選手権は、今回IPC(国際パラリンピック委員会)公認大会として行なわれたほか、ベトナム、オーストラリア、韓国、シンガポールの4カ国の選手が招待された。また、大会に先立って、ブラインドクラスの国際クラス分けも今大会で初めて実施された。
若手4選手、新たにリオへのMSQ(標準記録)を達成!
リオパラリンピックまで1年を切るシーズンの終盤。リオ出場資格となるMQS(標準記録)を新たに達成したのは、森下友紀(千葉ミラクルズ/左腕欠損)、富田宇宙(EYA/視覚障害)と知的障害の中島啓智(千葉県)、林田泰河(横浜市)の若手4人。ほか日本のパラスイムの未来を担う若手スイマーらの活躍がみられた大会だった。
森下友紀は、8日、メインにしている女子100メートル・バタフライS9で自己ベスト。目標だったリオへの標準記録(MQS)を切ることができた。
競技後、森下は「これまで、スタートでいろいろ考えちゃうことが多かったけど、今日は集中することができた。後半も、MQSだ!と意識して泳ぎ、自己ベストを出すことができた」と、話した。
富田宇宙は、男子100メートル・バタフライS13を泳ぎ1分05秒11でアジア記録を更新した。障害者として競技を始めたのは3年前。今回の国際クラス分けでは視覚障害でもっとも軽いS13に確定した。視覚障害では、すでにリオ出場の内定を得ている全盲の木村敬一が唯一がいる。
競技後「前半からのびがあって調子よく泳げたが、思ったよりタイムは出なかった。この種目は、1分1〜2秒台で泳がなくてはと思います。木村くんのようにいかない」と、富田は木村よりも障害の軽いクラスながらタイムでは劣る状況を冷静にみつめていた。
また、まだMQSは届かないが、高校生の蜜川花蓮(福岡市)、池愛里(東京都)、西田杏(埼玉県)も好調な泳ぎで、自己ベスト、好記録を更新した。
蜜川花蓮は、出場3種目すべて自己ベスト=大会新で、2つの日本記録を更新した。
「高校生になって練習環境が得られている。泳ぎの量も増やせているので成果がでたと思います」と、競技を終えた蜜川はタイムがのびている理由について話した。
池愛里は峰村PSS東京を離れ、現在フリーでの練習に励んでいた。得意の50メートル自由形の競技を良いタイムで終えた池は、今そして今後の目標をつぎのように話した。
「自己ベストではないが、この種目にかけてきて、長く出せていなかった9秒台が今日は出せてうれしい。チームでもたくさん学んだが、自分の思う通りにやってみたかった。リオに出たい、そのために、12月から3月の記録会までの3ヶ月は、オーストラリアのグラブで練習することにしています」
知的障害クラスの成長
9月にエクアドルでINAS(国際知的障害スポーツ連盟)グローバルゲームズが開催され、日本から26名(男子19名、女子7名)が参加、金5個、銀12個、銅11個のメダルを獲得した。金メダリスト山形県の東海林大が今大会も活躍。200メートル個人メドレーでは、パラリンピック、世界選手権日本代表の津川拓也を退き優勝した。知的障害のクラスはパラリンピックでの参加が2008年北京大会からで、前回ロンドン大会で田中康大が100メートル平泳ぎで世界記録(1分06秒69)を樹立、金メダルを獲得している。
ベテランはそれぞれのリオを目指す
現時点でリオ出場が確実なのは、世界選手権で金メダルを獲得した木村敬一(全盲/東京ガス)である。若い選手が3月を目指しているのと同様、これまで主力を担ってきた選手たちも、それぞれの課題で練習に励んでいた。
山田拓朗は50メートル自由形をメインにしてきたが、100メートル自由形にも挑戦できるよう食事や練習量などを工夫して体力をつける身体作りをしている。世界選手権後の練習で、山田が泳ぐ1日の距離はこれまでよりプラス2000メートルぐらいになっているという。
「来年の夏にあわせて基盤作りになる練習をしている。この大会は、練習の一環で、良い成果を得られたと思う。練習疲れもある中で、タイムも悪くはない」と、話していた。12月のアメリカでの大会に出場する。
今年は、世界の競技レベルの高まりをうけながら、7月にグラスゴー(イギリス・スコットランド)で世界選手権が行なわれ、主力選手中心に20名が出場。その他の強化指定選手も9〜10月にかけてソチ(ロシア)で行なわれたIWAS(世界車いす・切断者競技)大会を経て、今大会にのぞんだ。多くの選手がリオへの最終選考となるMQS(標準記録)切りと、来年3月の富士記録会をめざしており、大会後も、アメリカ、オーストラリアのIPC公認大会への遠征を予定している。
また、河合純一(東京4TC)、成田真由美(横浜サクラ)らが出場。力をつけてきた若手、主力に負けない泳ぎをみせ、会場を盛り上げていた。
例年だと、この日本選手権がシーズン最後で一段落という選手が多かったが、試合への出場がない選手も含めて、練習の計画が練られていたりなど状況は変わっていた。