リオパラリンピック1年前、ドーハでの世界選手権を1ヶ月に控えた、ヤンマースタジアム長居(大阪市)でのIPC公認2015ジャパンパラ陸上競技大会2日目。9月20日、日本車いす短距離T54(車いす)の大ベテラン・永尾嘉章(ANAORI.A.C)にとって、複雑な1日となった。
永尾が日本記録をもつ400メートルで中長距離の樋口政幸(プーマジャパン)が、仁川・銀の100メートルで若手の西勇輝(国士舘大学)が、それぞれ挑んできていた。
400で永尾は決勝で予選のタイムを上回るも、樋口が49.18の大会新記録で優勝した。
「悔しいが、いい勝負ができた。第3コーナーで自分の勝ちパターンに持って行き48秒は切りたかった!」と、競技を終えた永尾は悔しそうだった。永尾の日本記録47.59は残る。
一方樋口は「スタートの瞬発力を高める練習の成果を確かめるには、この大会の400で永尾さんに勝つことと考えていた。第3コーナーで永尾さんが見え、ストレートに入り逃げ切った」と話してくれた。
樋口は、初出場の2012年ロンドンパラリンピックを境にマラソンから中長距離のトラックレースに転向。翌2013年・リヨンでの世界選手権で5000と1500で銀メダルを獲得するも、昨年仁川アジアパラではアジア選手を相手に結果を残せなかった。鍛えあげた身体を改造し、これまで身につけた走りをヒントに練習のアイデアを練る。樋口にとってジャパンパラは国内公式レースで練習の成果を試せる大会だ。
100メートルで優勝した西勇輝は、子供の頃から、車椅子陸上元日本代表・千葉祇暉氏のもとで、トレーニング、ジュニアキャンプに参加してきた。2009年に東京で行われたアジアユースパラゲームズで初の日本代表、2013年アジアユースパラゲームズ(マレーシア)でキャプテンを務め、ユースではアジアトップの成績を修める。しかし想いをかけて練習する100で世界と戦う永尾に、これまで勝つことができなかった。
「永尾さんに勝つことができて嬉しい。世界選手権は出場できないが、リオを目指す励みにもなった。今日のレースは、スタートのスピードを維持しつづけることができたことが勝因」と話した。
また、西を追い100メートル2位の新人の佐矢野利明(ホンダアスリート)が西と同タイムで2位、永尾を3位に追いやった。佐矢野は、200メートルでは西を破り優勝、来月の世界選手権にも出場する。
鈴木朋樹が1500で挑戦!
「チャレンジができた。これまで、樋口さんの後ろについていく走り方を目標にしてきましたが、樋口さんの前を走ったことがなかった。初めての挑戦と、経験になりました」と、1500メートルで5位になった鈴木朋樹(関東身障陸協)は話してくれた。この2日間で、初日の5000メートルと800メートルでライバルの渡辺勝をさしおいて2位。
中長距離ではアジアユーストップできた鈴木。世界を見据え勝負する樋口を目指してきた鈴木は、ここ最近で目標だった樋口の後ろを走る走り方には自信がついていた。そして、今回初の世界選手権の代表に選ばれた。新たな決意を見せてくれたレースだった。
鈴木の先輩になる樋口は「朋樹とスタートから第3コーナーまで平行して走りました。300のところで自分から退いていったんです。勝負しなければ、2位だったのに!」とニコニコ。「自分が負けるようなことがあったら、こんどは駆け引きをしますよ」と。自分の周りに勝負できる相手が育つことを樋口は何より楽しんでいた。
ロンドンパラリンピックから3年。日本の車いすトラックは、昨年の仁川アジアパラでもアジア勢を相手に結果をだせなかった。新たな挑戦期に突入しているなかで、短距離、中長距離とあとを追う若手が成長を見せはじめている。
立位はT47女子の辻沙絵(日体大)が200メートルで、高校生の三須穂乃香(村上高等学校)が100メートルでそれぞれ日本記録を更新、世界選手権へ初出場する。
一方、跳躍種目では世界の頂点をめざすベテラン・山本篤(スズキ浜松AC)が走り幅跳びT42で6メートル34を飛び、順調に大会記録を更新した。
新人選手、芦田創(早稲田大学)、走り幅跳びT47で、6メートル53で大会新記録+日本新記録を更新した。
リオまで1年となったドーハでのIPC世界陸上選手権大会は、来月10月22日から31までドーハ(カタール)で開催される。ぜひ、注目したい。
ジャパンパラ2日目