「東京2020大会で集中して泳げた経験があり、この静岡大会に出場しました。日本の人々はとても親切で、国も美しい。また戻ってこられて本当に嬉しいです」
男子50m平泳ぎ予選後、笑顔で語ったのはホセ・アルヌルフォ・カストレナ・ヴェレス(=CASTORENA VELEZ Jose Arnulfo/SB2/メキシコ)。現在46歳、パリ金メダリストであり、シドニー大会(2000年)から第一線で泳ぎ続ける大ベテランである。
伝える泳ぎ”を胸に──メキシコのレジェンド、カストレナは8度目の挑戦へ

「より速く、より良い泳ぎを目指している。今回も自分のスピードを少しでも高められるよう努めてきました」と語り、パフォーマンス向上への執念をにじませる。
将来について問うと、「いつか引退する日が来たら、障害のある若いアスリートを育てる指導者になりたい。パラリンピックに出場できる選手を育てるのが夢です」と次世代への責任と希望を語った。

競技に関わって良かったことは、「地元ハリスコ州では、自分のことを認めてもらえるようになった」「一番嬉しいのは、子どもたちが“あなたのようになりたい”と声をかけてくれることです」
カストレナのその言葉には、スポーツが人に与える力への確信が込められていた。
今回、50m平泳ぎ決勝では鈴木が優勝したが、カストレナの果たした役割は大きい。
「もう少し速く泳ぎたかった。でも、これは次に向けた準備。目指しているのは自己ベストの更新です」
次なる舞台はドイツでのシリーズ戦、そしてシンガポールでの世界選手権(11度目の出場)。その先には、自身8度目の出場となるロサンゼルス・パラリンピックへの夢がある。

「肩の腱が切れていて、手術をすれば私の競技は終わりだ。それでも前に進みたい」
「鈴木選手は上のクラスで、彼のほうが速いのは当然。でも、ポイントで接戦できたことは誇らしい。こうして一緒に競えることが、自分を強くしてくれるんです」
アジアでの大会に特別な思いもある。「東京や北京でも泳ぎましたが、アジアで世界大会が開かれることは嬉しい。若い世代が育っていくのを見られるのは、何よりの刺激です」
「大切なのは、自分の限界を超えること。順位よりも、自分に勝ち続けること」
レースは一瞬だったが、その泳ぎや放つメッセージは、これからの世代へ確かに届けなくてはならない。
(写真取材・秋冨哲生)