
「パリで出したかった。遅くなってしまいました」と山口。レースは予定より約20分遅れてのスタートとなったが、山口は冷静に対応した。序盤は「気分が悪くなって、少し落ちてしまった」と振り返ったが、後半には見事にペースを立て直し、力強いスパートでフィニッシュ。1分01秒64のタイムで、自らの世界記録を更新した。

半年前のパリで、足の小指の怪我により本調子でなかった山口は連覇を期待されながらも銅メダルに終わった。しばらくは気持ちが沈みこんでいたようにも見えた山口だが、ミックスゾーンでの様子を見る限り前向きなアスリートに戻っていた。「もっとパリ大会のように、たくさんの観客に来てもらいたかった」。観客席についての率直な思いも口にし、空席の目立つスタンドに寂しさを感じながらも「応援してくれる方々の存在が本当に力になった」と、地元・愛媛から帯同したトレーナーやオンラインで応援する所属企業への感謝の思いを強く語った。
山口は2019年の世界選手権(ロンドン)に初出場、初優勝を果たし、当時の世界記録を更新。東京パラリンピックでは再び世界記録を塗り替え、金メダルを獲得している。今回の記録は、2023年3月に同じ富士のプールで開催されたチャレンジレース(代表選考会)での1分02秒75を上回るものであり、金メダルの獲得は2023年マンチェスター世界選手権以来、約1年半ぶりの国際大会での栄冠となった。

今後はシンガポールで開催される世界選手権を見据えており、「さらに速くなれる実感がある」と意欲を見せる。明日以降は専門外の種目にも挑戦する予定で、「チャレンジとして全力で臨みたい」と力を込めた。
また、地元・愛媛で支えてくれる治療スタッフやボディケアのサポートにも触れ、「スポーツを通じて、地域に活気や勇気を届けたい」と語る山口。世界の舞台で再び存在感を示した若きスイマーの挑戦は、これからも続く。
(写真取材・秋冨哲生)