車いすバスケットボールのクラブ日本一をかけて戦う「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会」が、2025年1月31日から2月2日にかけて東京体育館で行われた。16チームによるトーナメント戦で争われ、鳥海連志(2.5)・古澤拓也(3.0)を筆頭に、日本代表候補らが9名所属している神奈川VANGURADSが優勝、3連覇を達成した。
戦略をしたたかに変えて戦い抜いた神奈川VANGUARDS

試合は開始早々に神奈川VANGURADS古澤が3ポイントシュートを決めると、さらに2連続でシュートを決め7−0と幸先よくリード。鳥海は今大会の他の試合と同様に、先発ではなく、敢えて戦況を見てからコートに入る形となった。ここから点を取り合う展開になったものの、第1クオーターは16対10で神奈川VANGURADSがリードする。
第2クオーターは、ファールが多かった埼玉ライオンズに対し、リバウンドからターンオーバーとし、素早いトランジションから鳥海を基点としてシューターへつなぐパス攻撃が冴えた神奈川VANGURADSが、29-16とリードを広げた。
第3クオーターは、埼玉ライオンズの大山伸明(4.5/健常)がディフェンスをかいくぐってシュートを決める場面が増え、1点を詰められる形で41−29。3ポイントシュートの精度が悪く相手を引き離す展開にもちこめない神奈川VANGUARDSは、目標としていた「3ポイントシュート」と「インサイド」中心の攻撃から持ち点の高い選手が低い選手をマッチアップする「ミスマッチ」戦略に切り替えた。
第4クオーターはこれが上手く機能しシュートを量産。鳥海もこのクオーターだけで10点を決め、61-41と埼玉ライオンズを突き放し、神奈川VANGUARDSが勝利した。
鳥海は「3連覇できたことに安心しているが、3ポイントのシュート確率などの課題も残った試合だった。自分たちのやりたいバスケをやりきれなかった部分が、もやもや悔しい」と勝利を喜びつつも、戦略をゲーム中に変更せざるを得なかったことに対する複雑な心境も明かした。
3連覇でMVPに。海外武者修行への置き土産を残し鳥海連志は・・

鳥海は、決勝戦のこの日に26歳の誕生日を迎えた。17歳で初出場したリオ2016パラリンピックでは12カ国中9位とメダルには届かなかったものの、コロナ禍の延期で2021年に開催された東京2020パラリンピックで銀メダルを奪取、MVPにも選ばれる。ユース代表として最後に出場した2021IWBF 男子U23世界選手権(2022年タイで開催)の優勝にも大きく貢献し、日本代表の中心選手に成長した。両手足に障害がありクラスは2.5点と重度ながらも、ハイポインターなみのシュートやリバウンド、卓越したチェアワークで縦横無尽に駆けまわるのが魅力だ。

今大会でも、シュート(準決勝・決勝で40得点)だけでなく、リバウンドやアシスト、クロス展開などのゲームメークでもチームに貢献する高いパフォーマンスを見せ、MVPに選ばれた。自身について「去年よりは良い動きはできたと思う。車いすを高くして勝負していますが、ボディバランスで4点代の選手に負けてしまう瞬間があり、そこに向き合って行かないといけない」と分析していた。
チームのアシスタントコーチでもある鳥海、今大会は全ての試合で先発ではなく試合途中からコート入りしたことについて「何が成功して何が上手くいっていないのかを見極めてからコートに入りたかったのでヘッドコーチにお願いをした。シックスマン(控えの切り札)として、修正する個所をヘッドコーチと話し合いコート入りすることでチームの色を変えた」と自らの役割を生かした意図を語った。
ロサンゼルス2028パラリンピックを目標に強豪国へ武者修行?
今年の9月もしくは10月から「ドイツかトルコかスペインあたりのクラブに行きたい」と表明している鳥海。

ドイツには、選手のレベルに合わせたリーグが1部から5部まで存在していて、180チーム・2500人の競技人口がいる。国籍による人数制限を設けないことで世界中からトップ選手が集まり競争力の高い環境で高いレベルを維持している。日本を代表する香西宏昭・藤本怜央らもドイツでプレーしてきた。昨年9月から鳥海と同世代の赤石竜我がトップリーグであるブンデスリーガ(RBBL1)Koeln 99ersに移籍している。
ドイツ同様スペインのリーグも世界の強豪である。選手の特徴は「高さ」にある。3.0点クラスでもビックマンが多く存在し、1チームあたり3名のビックマンがコート上に現れることも少なくない。今季からは3期連続ユーロリーグチャンピオンのBSRアミアブ・アルバセテ(BSR Amiab Albacete)に藤本怜央が移籍している。

「ヨーロッパのクラブ同士の試合は見る機会がなかったので、海外の選手たちがクラブのプレーと代表の時のプレーにどんな変化があるのか?みてみたい。一貫性があるのか?。彼らから盗めるものをたくさん盗んで、日本代表でプレースタイルの参考にしたい。これが成長のかぎだ」と語った。
別の試合のインタビューでは「1番高いセッティングの車いすで、日本では通用するティーアップとかミスマッチショットとか、インサイドでのプレーが海外でどこまで通用するか。そして、自分より高い選手たちとどう対峙していけるのかを試したい」と意欲を語っていた。
3年半後、ロサンゼルス2028パラリンピック出場に向けて大事になってくるのは世界選手権での順位とパラリンピック予選である。9月10月からの移籍で、今年11月の世界選手権はどうなるのか?
「海外挑戦はするが、世界選手権予選は日本代表として力を尽くしていく。最終的にはパラリンピック予選で優勝することをめざし、一戦一戦大事にしていきたい」と決意している。パリ2024パラリンピックで13大会・半世紀ぶりに出場を逃した男子日本が再びパラの舞台で輝きを取り戻すに違いない。

(企画サポート/佐々木延江、編集・校正/丸山裕理、小泉耕平)