11月2~3日の2日間、第30回日本選手権大会「第8回パワーチェアーフットボールチャンピオンシップジャパン2024」が静岡県袋井市のエコパアリーナで開催された。
電動車椅子サッカーとは、筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、脳性麻痺、脊髄損傷などの重度障害の選手たち4人が、足代わりの電動車椅子に取り付けたフットガードでボールを蹴りゴールを競う、男女混合の『サッカー』である。競技をご存じない方は、まずはこの紹介映像を見てほしい。
【電動車椅子サッカー紹介動画】 https://youtu.be/WsXn1UErXPg
全国大会の歴史
大会は8回目を数えるが、大会の前身にあたる「日本電動車椅子サッカー選手権大会」が初開催されたのは1995年まで遡る。愛知県名古屋市で開催された第1回大会(当時の名称は『第1回電動車椅子サッカー全国大会in名古屋』)には4チームが参加、今大会にも参加し1982年に日本で初めて創立された大阪ローリングタートルが初代王者となった。
筆者が初めて電動車椅子サッカーを見たのは2006年の12回大会だったが、その当時の様相は現在と大きく異なっていた。ボールの大きさは現在の32.5cmではなく50cmでパスは皆無に近く、2on1(ツー・オン・ワン、簡単に言えばボール保持者に対し2人以上で守備にいってはならない)のルールもなく、単独でのドリブルやラグビーのスクラムやモールのような押し合いで相手ゴールに迫るというものであった。
しかし同年の国際ルール統一を受け、翌年の第13回大会より国際ルールに準じる規定へと大きな変更がなされた。但し制限速度は国際ルールの10kmではなく、日本のローカルルールで6kmと定められた。日本の電動車椅子の公道での制限速度は6kmで、車椅子の性能や競技の普及を考えると一足飛びに10kmへルール変更することは難しかった。6kmはいわゆる歩行速度で、走ってはいけないウォーキングフットボールをイメージしていただけるとよいだろう。スペースへのパスは出しにくく、足元から足元につないでいかなければならず、6kmなりの難しさがあった。
だが2007年より始まったW杯は当然国際ルールの制限速度10kmで行われるため、日本代表選手は6kmと10kmの2つに対応する必要に迫られた。当時10kmルールで開催される大会には「パワーチェアーフットボールブロック選抜大会」や「ドリームカップ(神奈川県電動車椅子サッカー協会主催)」があり、選手たちの強化に資していた。
そして2017年より、制限速度6kmで開催される「パワフル6」と10km制限の「マックス10」に枝分かれし各チームがどちらかを選択、2つの大会が共存していくことになった。
さらに2024年の今大会より、制限速度10kmの大会「パワーチェアーフットボールチャンピオンシップジャパン」に一本化された。
ディスカバリーの快調なスタート
会場には4つのコートが設営され、同時刻に3~4試合が行われた。そのため全ての試合を観ることはできず、筆者も試合を絞って観戦取材することとなった。
1回戦屈指の好カードはレインボー・ソルジャー(東京)とDKFBCディスカバリー(愛知)の対戦。レインボーは過去5大会で優勝、一方2022年大会より10kmに転身したディスカバリーは昨年のW杯に出場した池田恵助、平西一斗を中心にダイナミックで攻撃的なパスワークを武器とした成長著しいチーム。しかし朝からその池田の姿が見えない。チーム関係者に聞いても要領を得ない返答しかなく、ディスカバリーに危険信号が灯ったかと思っているうちにキックオフ。
ディスカバリーのスターティングメンバーはGKの位置に小学5年生の内田大牙、足でコントローラーを操作する。ビブスはセンターの平西一斗が着け(注1)、永田久志、高垣和大。レインボーはGKの位置に高坂真規、ビブスはセンターの北沢洋平、内橋翠、東弘樹。
キックオフ早々いきなりレインボーがディスカバリー陣内に攻め込み、1分、内橋翠のCKから北沢洋平がゴールを決め、レインボーが先制点をあげる。
その後はディスカバリーが次々とセットプレーのチャンスを得る。17分には左サイド平西のキックインから日坂義哉がファーで合わせるが、内橋がブロックしゴールを割らせない。
レインボーが勝ち抜けるのか?
(注1)電動車椅子サッカーには2on1(ツーオンワン)の反則がありボール保持者に対して2人で守備をしてはならないが、ゴールエリア内に限ってはGKユニフォーム(ないしは準ずるビブス)を着用している選手ともう一人の2人で守ることができる。GKビブスを着用した選手が初めからゴールエリア内に守っている場合が多いが、日本の場合はビブスを着た選手がセンターとして中盤にいてゴールエリアに戻って守備をする戦術のチームも少なくない。
しかし18分、レインボーのFKからのシュートのこぼれ球をディスカバリー高垣和大がキープし相手のディフェンスをかわす。「よっしゃー、勢いを殺さずになんとか行けてよかった」と高垣が振り返ったドリブルで無人のゴールに持ち込み、ディスカバリーが1-1の同点に追いついた。
さらに後半2分、ディスカバリーはアタッキングサードで平西、高垣、日坂の3人が大きくボールを動かし、エリア内で守る北沢、内橋をゆさぶる。最後は平西からのパスを高垣が左サイドから蹴り込む。高垣は「ポジション取りがうまくできた。パスはチームの目標としてやっているのでパスサッカーができてよかった」と逆転ゴールを振り返った。
その後は平西を中心としてディスカバリーが終始押しこむ展開となった。
「幸先よく先制はできたんですけど、そのあとは防戦一方で相手のやりたいことをすべてやらせてしまった」(レインボーキャプテン・中坪勇祐)
「後半からは平西君のドリブルがさえてきちゃって」(レインボー・北沢)
「平西くんに触らせない戦術は組んでいたんですけど、蓋をあけてみたら全部触られて全部やられて。蹴り手になるとか貰い手になるとか立ち位置をちょっと変えてみるとかの駆け引きをされて。うちの守備が対応する前に突破されて」(レインボー監督・名越直)
最後は高垣がコーナー付近でボールキープ、時間を使ってタイムアップ、ディスカバリーが2-1で勝利し2回戦に駒を進めた。
実はディスカバリーの池田が初日の試合に出場できないことは5か月前からわかっており、池田抜きのチーム構成での準備も綿密にしてきていたのだという。
「戦術平西。平西君の攻め方の機転、駆け引きにうちのチーム全体が負けたという試合。完敗ですね」というレインボー名越監督の言葉が、この試合を言い表していた。
その他の1回戦は兵庫パープルスネークスvsJPDソニック~京都電動蹴球団と、SFCデルティーズ(静岡)vsSafilva(北海道)との2試合。
兵庫パープルスネークスとJPDソニック~京都電動蹴球団の試合は、大西陽と利根川恵太のゴールで2得点をあげたパープルスネークスが2回戦へと進んだ。
例年3人で臨むことが多かったSafilvaは今大会4人が北海道(札幌・帯広・函館)から参戦、地元静岡のデルティーズと戦った。
Safilvaは町田佑介のゴールで先制するもデルティーズ斧淵蒼空の同点ゴールで、勝負はPK戦に持ち込まれたが、PK戦を制したSafilvaが初戦を突破した。
昨年開催されたW杯のPK戦ではキッカーが蹴る前でもGKはゴールラインを超えない範囲では自由に動いてよいというように国際ルールが変更されていた。「静」から「動」への大きな変化である。だが現時点で日本国内の大会には国際ルールは適用されていない。前述した制限速度6kmと10kmの際のように、代表選手は2つのルールに対応する必要がある。近い時期には国内大会にも適応していく必要があるだろう。
COSMO北九州 全国大会初出場初勝利
2回戦は8試合が行われた。
まずは全国大会初出場平均年齢19歳のPFC COSMO北九州(以下コスモ)とプログレス奈良との対戦を注視した。プログレス奈良は今年度より2つのチームが一つになり大所帯になったチーム。
プログレス奈良のスターティングメンバーはGKの位置に東良航太、ビブスはセンターの小坂竜彦、益倉誠、高岡哲也。コスモはGKの位置に藤澤星太朗、ビブスはセンターの安藤心晴、冷牟田貴之、小学4年の小山大喜。コスモはチーム自体は初出場だが、安藤はNanchester United鹿児島で武者修行を重ね、Nanchester の選手として全国大会への出場経験がある。
その安藤が序盤からチャンスを作り出す。前半6分安藤のCKにニアの冷牟田が合わせてコスモが先制。「合わせようと蹴ったら、いいシュートまでつながって決めてくれた」と安藤。COSMO北九州の全国大会初ゴールとなった。
しかし前半終了間際の19分、コスモの自陣からの安藤のキックインをプログレス奈良の小坂が逆サイドに展開、右サイドの高岡がスピンキック(回転キック)でニアに蹴り込み、同点に追いつく。
後半、両チームともにセットプレーから好機を迎えるが得点には至らない。
4分プログレス奈良は益倉のキックインがファーの田中大地に通るが、ジャストミートせず。7分コスモ安藤のFKからの小山の前付きシュートは小坂がブロック。12分コスモ安藤のCKからの冷牟田のシュートも東良がブロック。
そうして迎えた14分、安藤のキックインがファーポスト付近に詰めた小山大喜へ渡り、小山が押し込みコスモが勝ち越し点をもぎ取った。
ゴールを決めた小山大喜は小学4年生、途中出場のプログレス奈良の72歳西田卓司との年齢差は60歳以上だった。
小山のゴールが決勝点となり、2-1でPFC COSMO北九州が全国大会初出場にして初勝利をあげ3回戦に進んだ。
セットプレーからの2得点が勝利に結びついたが、キャプテンの安藤は「自分も含めて、みんなが練習でやってきたことを出すことができた」ことが勝因だという。
監督の鎌田英之も「僕らは強豪のチームと違ってパスで崩すとかできない。チャンスがあるとすれば、しっかり守ってカウンターからのセットプレー。そこに関しては(安藤)小晴といろいろ考えて練習を繰り返してきた。それが形になってよかった」と語った。
筆者には安藤のプレーがNanchester United鹿児島の東武範(2017年アメリカW杯代表メンバー)を彷彿とさせるようにも見えた。鎌田監督は「東君のプレーを見て憧れてサッカーに熱をいれたところがあるんで。ボールを裁くテクニックというか。まだ足元にも及ばないが」と語るが、伸びしろは大いにあるだろう。
プログレス奈良の東良は「パスつながって決めてくれたのはよかった。チームとして大幅に選手が増えたばかりでこれから連係をしっかりやっていかなければならない。来年はもっと一つのチームになって、もっと戦えるチームになりたいと思っている」と試合を振り返り、これからの抱負を語った。
プログレス奈良の72歳西田卓司が全国大会に初めて出場したのは1998年の第4回大会。これからも「チームが使ってくれるんであれば」電動車椅子サッカーを続けていきたいという。
電動車椅子サッカーは幅広い年齢層が同時にピッチでプレーできる競技でもある。
ディスカバリーの快進撃
2回戦最大の注目カードは、3連覇を狙う強豪Red Eagles 兵庫とDKFBCディスカバリーの一戦。
昨年のW杯に出場した内海恭平、山田貴大が牽引するRed Eagles 兵庫は、これまで開催されたパワーチェアーフットボールチャンピオンシップジャパン5大会(2大会はコロナ禍で中止)のうち、優勝3回、準優勝1回、3位1回という抜群の戦績を誇る。1回戦を勝ち抜いたディスカバリーがどこまで食い下がれるか、注目の一戦となった。
2週間前(10月19~20日)に佐賀県嬉野市で開催された全国障害者スポーツ大会オープン競技でも兵庫県(実質Red Eagles)と愛知県(ほぼディスカバリー)は2試合対戦し、ともにスコアレスドロー(2試合目はPK戦で兵庫県が勝利)に終わっており決着をつける試合ともなった。
ただその大会には池田恵助がいたが、この試合は池田抜きとなる。
ディスカバリーのスターティングメンバーはGKの位置に内田大牙、ビブスはセンターの高垣和大が着け、平西一斗、日坂義哉。Red EaglesはGK児島慧太、内海恭平、山田貴大、浅原康佑。
まず押し込んだのはRed Eagles、何度かセットプレーを得て先制点の機会を窺う。
しかし内田、高垣がエリア内でしっかり守る。ディスカバリーは押し上げたいが山田、内海が防波堤になってなかなか押し上げさせてくれない。
11分Red Eaglesは内海のキックインがゴール前を通過、ファーの山田がリアで合わせようとするがわずかに届かない。
小学5年の内田でRed Eaglesの猛攻を凌ぎきれるのだろうかと感じていたその直後、ディスカバリーはポジションをチェンジ、エリア内は高垣と平西が守り、内田は前線へと上がる。
内田の車椅子の形状が、セットプレーを取りやすいと狙われるかもしれず、途中でポジションチェンジすることは想定していたのだという。「流れを変えようと大牙(内田)を前に出して日坂さんと僕と2人で回して後ろの安定も図るということで切り替えた」と平西。
するとディスカバリーは流れが良くなってくる。
18分Red Eaglesのセンターライン付近からのFKを日坂が前付きで直接スルーパスを出すと内田が反応、大きく回転したスピンキックからのシュートはファーポストを直撃するが惜しくもゴールにはならない。
しかし20分には 平西、日坂、内田とダイレクトでパスがつながり、最後はスペースへ侵入した平西が前付きで押し込んでディスカバリーが先制点。
「間があいたので穴が見つかった。あとは押し込むだけだと思って押し切りました」という平西のゴールでディスカバリーが1-0とリードし前半を終えた。
後半Red Eaglesは井上祐太朗に代え宮脇太陽が入りGKに、児島が前線に上がりディスカバリー陣内に攻め込む。
しかし4分、ディスカバリーはCKを得ると日坂がエリア内に蹴り込み、内海がブロックしたこぼれ球を平西が豪快な回転シュート、ファーポストに当たってゴールラインを割り、ディスカバリーに2点目が入った。
しかし7分、Red Eaglesは内海のFKを山田が前付きで方向を変えゴールを奪う。「やろうとしていたことができた場面」と振り返った山田の得点でRed Eaglesが1点差に追い上げる。
なんとか同点に追いつきたいRed Eaglesは、児島、山田、内海の3人でディスカバリーゴール前まで迫るが決定打に欠き、試合はそのまま2-1で終了。Red Eagles 兵庫は初戦で敗れ去り、ディスカバリーが3回戦へ進出した。
ディスカバリー平西は「お互い知り尽くしている同士の対戦だったので相手が何をしようとしてきているか、読みあいだった。あとは気持ちのぶつかり合いだと思っていて、池田夫妻(池田選手と監督)がいないということで絶対勝ちたかったし、ほっとしてちょっと…」思わず感極まりそうになった。
Red Eaglesキャプテン山田は試合後「向こうの勝ちたいという気持ちのほうが強かったというのは終わってからもすごく感じています」と悔し気な表情で敗戦を振り返った。
その他の2回戦
一昨年の大会では準優勝、虎視眈々を上位を窺う金沢ベストブラザーズはYOKOHAMA Bay Dreamと対戦。Bay Dreamは主力の高林貴将が体調不良で欠場。
金沢は前半2分、15分と長瀬義則のCKを城下歩がニアで合わせて2得点。さらには試合終了間際にも城下歩がドリブルで押し込み、3-0で金沢ベストブラザーズが勝利し3回戦へ。
金沢の城下歩は「次への弾みをつける、次への準備という試合」と振り返った。次戦の相手は兵庫パープルスネークスを5-0で下した強豪FCクラッシャーズ(長野)である。
FCクラッシャーズは飯島洸洋、太田大皓、井出今日我、森山一樹が得点をあげ兵庫パープルスネークスを 5-0と下し3回戦に進出した。
Yokohama CrackersとYokohama Red Spirits は兄弟チーム同士の対戦。Red Spirits はCrackersのサテライトチームで、元々は一つのチームだったが出場機会を増やすためにチームを2つに分けた。年度によって選手の入れ替えも多く、元の体制であれば出番のなかった選手たちの強化につながっている。
試合は自力に勝るCrackersが前半永岡真理の3得点でリードするものの、後半7分Red Spiritsも近藤鉄平がゴールを奪う。試合終了間際には永岡真理の4点目が入り、Crackers がRed Spiritsに4-1で勝利した。
別チーム登録なので全国大会で対戦すること自体は致し方ないが、初戦では同県のチーム同士が対戦しないような抽選での工夫はできないだろうか。
日本で最初に創立された大阪ローリングタートルは小川力の2ゴールなどでバレッツ(長野)を3-0と下し、3回戦進出。
PK戦を勝ち上がったSafilva(北海道)とA-pfeile広島PFCの対戦は、Safilvaが町田佑介、竹山侑希の得点で A-pfeile 広島PFC に2-0と勝利し、3回戦へと駒を進める躍進をみせた。
BLACK HAMERS(埼玉)と相対するのは3人で参戦したNanchester United鹿児島。
Nanchester はこれまでも3人で各大会で上位進出した実績がある。W杯に3度出場している塩入新也がセクシードリブル(佐賀の全国障害者スポーツ大会で名づけられた)で4得点をあげる活躍。
Nanchester United鹿児島が4-0で3回戦に駒を進め、ディスカバリーと対戦することとなった。
3回戦
2勝して勢いに乗るDKFBCディスカバリーとNanchester United鹿児島の対戦は、3人のNanchesterが粘り強く守り反撃の機会を窺っていたが、前半18分ディスカバリー平西のCKからファーの日坂が蹴り込んでディスカバリーが先制。さらには後半7分FKから内田と平西のツインシュートが決まり、ディスカバリーが2-0と勝利、2日目の準決勝へ駒を進めた。
初勝利をあげたPFC COSMO北九州は、Yokohama Crackersと対戦。Crackersを相手になんとか「1点は取りたい」と語っていたコスモだったが、永岡真理4点、中山環4点、紺野勝太郎1点と計9ゴールを奪われ、0-9で自力の差を見せつけられた。
Crackersが準決勝に進出し、ディスカバリーとの対戦が決まった。
大阪ローリングタートルは宮川大輝の2ゴールなどでSafilvaを下しベスト4進出。
FCクラッシャーズは飯島洸洋の2得点、三上勇輝のゴールと3-0で金沢ベストブラザーズの挑戦をはねのけ、準決勝で大阪ローリングタートルと対戦する。
ピッチ外の諸々
大会2日目の記事の前に、ピッチ外のことについても触れておきたい。
フットガード
選手たちは試合前にフットガードを取り付け、試合後に取り外す。以前は家族や介助者が行っており、かなり苦労している様子も見受けられたが、現在は株式会社ジヤトコの協力により社員の方々が1台に何名かついてスムーズな着脱が出来ており、頼もしい存在となっており、まさにピットの様相を呈している。
電動車椅子サッカーはモータースポーツでもある。だからこそ、指先足先しか使えなくとも激しいサッカーができる。
コート
次にピッチそのもの、コートの大きさについて。
今大会もフロアーには4面が設営された。同時に4試合を行う場合もありスムーズな進行にもつながっていたが、キックインの際に仕切りの衝立を蹴って吹き飛んでしまう場面が何度か見受けられた。幅がぎりぎりで少々無理があるようにも感じた。
電動車椅子サッカーのコートの横幅は14~18mで今大会は16mであり、ルール的には何ら問題ないが、国際大会はフルの18mで開催されることが多いことを考えると、横幅18mの3面で進行してはどうだろうか、というようにも感じた。
クラス分け
大会開催と同時進行でクラス分けの講習会が開かれていた。
電動車椅子サッカーのクラス分けは、比較的障害が重い人がPF1、軽い人がPF2となっており、PF2の選手は同時にピッチに2人までしか出場できない。またPF2にも認定されず出場資格が得られない場合もある。
しかし国内の大会にはクラス分けは導入されていない。普及などを考えるとクラス分けに縛られない利点もあるだろうが、クラス分けは障害者スポーツの原点中の原点でもある。いつまでも国際ルールと国内大会が乖離しているわけにもいかないのではないか。
今大会にはクラス分けは導入されていないので全く問題はないが、チームによってはスターティングメンバー全員がPF2だと思われる(最新の基準で新たにクラス分けをするとそうではない可能性もある)こともあった。
クラス分けは今後議論していく課題だろう。
クラス分けにとらわれない電動車椅子サッカーの認知、普及という意味では、2階フロアーでデモンストレーションを行っていた「お使いの電動車椅子に簡単に取付可能‼」なフットガードであるファンガードは、電動車椅子サッカーの間口を広げる貴重な存在でもあるだろう。
写真の展示
同フロアーでは今大会の公式カメラマンを務めた松本力さんが過去に撮影した写真が掲示されており、見入っている方々も少なくなかった。
なかには亡くなった方の写真もあり、貴重な記録となっていた。
大会2日目 準決勝
大会2日目、まずは準決勝の2試合が行われた。
前日の3試合を勝ち上がってきたDKFBCディスカバリーには池田恵助が合流、ベストメンバーが出揃った。対する相手はYokohama Crackers(以下クラッカーズ)。パワーチェアーフットボールチャンピオンシップジャパンでは2017年と2019年に優勝、過去の大会も含めれば4度の全国制覇を成し遂げている。
クラッカーズのスターティングメンバーはGK紺野勝太郎、佐藤虎汰朗、永岡真理、中山環。ディスカバリーはGK高垣和大、平西一斗、内田大牙、そして池田恵助。
ディスカバリーは池田、平西がクラッカーズ陣内へと押し込んで次々とセットプレーを得てシュートを放つ。
一方のクラッカーズは永岡、佐藤が持ち上がるが、平西、池田が壁となり、なかなか押し上げられない。
16分ディスカバリーのCK、平西のキックがファーの日坂義哉に渡り、きっちりと日坂が蹴り込んでディスカバリーが先制点をあげた。
クラッカーズも18分永岡のFKに佐藤が合わせるが、高垣にブロックされる。前半終了間際には永岡から佐藤を経由して逆サイドの中山へ、コートを大きく使った展開から中山がシュートを放つが、読んだ池田がブロック、ディスカバリーのリードで前半を終えた。
後半ディスカバリーは日坂に代え永田久志が入る。
クラッカーズは攻め込まれるものの、エリア内の紺野、佐藤が粘り強く守って反撃の機会を窺い、速い寄せで時折カウンターからディスカバリーゴールに攻め込む。
2日目から出場の池田は、床面とタイヤがうまくマッチせず、クラッカーズの寄せの速さも相まってなかなか思うようにプレーできない局面もあったようだ。永岡がその池田からボールを奪い左サイドの佐藤へ、佐藤から逆サイドの中山へパスが通るが、中山のシュートはコースが甘くブロックされる。
クラッカーズは紺野も上がって4人での分厚い攻撃もしかけるが1点が遠い。終了間際には永岡のキックインから逆サイドの中山がシュート、池田が弾いたこぼれ球に中山が詰めるが終了のホイッスルが鳴り響き、クラッカーズはディスカバリーに敗れた。
ディスカバリーの池田は「勝利できたのは昨日から引き続き強い気持ちで戦ってくれたメンバーのおかげ」、クラッカーズの中山は「クラッカーズを研究して弱点とかついてきたし、平西、池田選手のコンビネーションもすごくいいし、気持ちも籠っているし…」と試合を振り返った。
敗れたクラッカーズは3位決定戦に回った。
もう一つの準決勝は、大阪ローリングタートルとFCクラッシャーズの対戦。
前半4分、ポスト付近で競り合っていたクラッシャーズ太田大皓がいったん三上勇樹に戻すと、三上がリターン、その間にフリーになった太田が蹴り込んでクラッシャーズが先制。
ローリングタートルは「フリーの選手をつくらないように」と意識してクラッシャーズと相対し、後半1分、左サイドのFKを宮川大輝がファーの小川力にパスを通し、小川が直接蹴り込んで同点に追いつく。
しかしクラッシャーズは後半14分、三上勇輝のキックインを飯島洸洋がゴール右隅に蹴り込んで勝ち越し点あげ、決勝へと駒を進めた。
3位決定戦 勝負は延長へ
大阪ローリングタートルとYokohama Crackersの対戦。ローリングタートルのスターティングメンバーはGK中村浩之、中村祐太、宮川大輝、小川力。クラッカーズはGK佐藤虎汰朗、紺野勝太郎、永岡真理、中山環。
ローリングタートルの宮川大輝は「(クラッカーズは)パス回してスペースにパス出して振ってくるという印象だったので、その辺をイメージしながらパスさせないように」試合に入っていった。
それでもクラッカーズは9分FKから紺野、永岡、中山と大きくボールを動かし、ローリングタートルをゆさぶる。しかし寄せも速く決定的な形を作れない。
アディショナルタイムにはローリングタートルのゴールキックを中山が直接前付きでシュートするが、惜しくもゴール右に外れ、0-0で前半を終えた。
後半クラッカーズは佐藤と中山のパス交換から中山がシュート、ローリングタートルゴールに迫り、クラッカーズが押し込む場面が増えてくる。
だがなかなかボールを掻き出すことができず、単独ドリブルで押し込もうとする場面が目立つ。
「本当は掻き出したほうがいいんです。ただボールスピードが遅いので、そこでボールをつなぐのが苦しい」と感じながらクラッカーズの永岡はプレーしていた。
ローリングタートルの「パスさせない、フリーの選手をつくらない」意識からのプレスをかいくぐるほどのパススピードがない。
しかし「気持ちで勝つしかない。ドリブルは粘り強い選手いっぱいいるので、パスが通らなかったらドリブルへ切り替えて」クラッカーズがゴール前に迫る。
後半終了間際、クラッカーズはFKから佐藤と永岡がツインシュートを放つが宮川がブロック。さらにはその流れで中山がこぼれ球をシュートするも中村浩之がブロックし、試合は延長戦へともつれ込んだ。
延長は終始クラッカーズが攻め込む怒涛の展開、永岡や佐藤がドリブルで押し込む。だがローリングタートルも宮川と中村浩之が粘り強く守る。
そして延長後半3分、永岡からのパスを受けた中山が強引にゴールを割っていく。
「隙あらば狙っていて、気持ちで押し込んだ」ゴールが決勝点となり、クラッカーズが延長戦の末1-0で勝利、3位となった。
決勝ゴールを決めた中山環は「準決勝を引きずっていないというと嘘になるんですけど。メンバーが変わって、自分も今まで感じたことのないような感情があって。そういうなかで最後の試合で点が取れて、悔しいですけど、ちゃんと終わることができたのはよかったです」と振り返った。
昨年はクラッカーズの選手として出場していた三上勇輝は県外への引っ越し等もありFCクラッシャーズへ加入。W杯2大会連続出場の三上の移籍に、中山はいろいろと思うところがあったようだ。
クラッカーズの平野誠樹監督は「今年はとにかく主力選手が抜けたので基礎から見直そうということで、セットプレーやコミュニケーションもよくなっているので。あとは実践の経験を積みながら、プレッシャーのかかる状況でも練習通りできるように。それができるかどうか、その差が決勝にいったチームとの差だと思っているので、来年こそ優勝して終わりたいと思っています」と大会を振り返った。
この試合で球際の競り合いから永岡の電動車椅子の片側車輪が浮き、転倒かと思われる場面もあったが事なきを得た。「相手が止まってくれたので、相手が前に行っちゃってたら倒れていたと思います」
重心の低いストライクフォース(電動車椅子サッカーの専用マシン)、しかも幅が広いスタンダードであることも救いとなった。
「最高です!」決勝 クラッシャーズvsディスカバリー
決勝は、勢いに乗り初優勝を目指すDKFBCディスカバリーと2008年以来2度目の優勝を目指すFCクラッシャーズとの対戦となった。
(ディスカバリーは6km部門の『パワフル6』では2019年に優勝している)。
クラッシャーズの昨年との大きな違いは、日本代表選手でもある三上勇輝の加入だ。
三上は昨年のW杯後に、いったんチーム(Yokohama Crackers)を休部しサッカーを続けていくかどうか考えたというが、「W杯が悔しかったので、もう1回やるならもう1個上に行けるように成長したい。新しい環境に身を置いてチャレンジしよう。(飯島)洸洋という日本で一番うまいと言われている選手のもとで学べるというのがあって」クラッシャーズに加入したのだという。練習には4時間半かけて通っている。
そのクラッシャーズは飯島洸洋の2手先3手先を読む卓越した戦術眼を元に、イメージを周囲の選手とともに具現化し魅せるサッカーが特色、ディスカバリーは池田恵助、平西一斗を中心にコートを広く使ったダイナミックで攻撃的なパスワークを武器としたチーム、いったいどんな決勝になるだろうか。
クラッシャーズのスターティングメンバーはGK森山一樹、飯島洸洋、太田大皓、三上勇輝。ディスカバリーはGK池田恵助、平西一斗、高垣和大、内田大牙。
試合は序盤からじりじりした展開が続く。両チームともに隙を与えない。
ディスカバリーが押し上げようとしても、クラッシャーズ太田が素早いチェックに来る。その裏も飯島が確実にカバー。
昨年は良いサッカー、面白いサッカーをしながらも準優勝に終わったクラッシャーズ、今年は相手の良さを出させないやり方できたようだ。
「ディスカバリーはボールを動かしてくるチームなので、うちはそれに乗るのか乗らないのかどっちにしようという話合いをしていて、乗らないでおこうと」という三上。
「こちらのパスサッカーを見せるというよりは相手のいいところを抑えながら、チャンスを多く作って確実に得点するというところを意識してプレー」していたという飯島。
すると前半15分、クラッシャーズはエリアのすぐ外で太田がファールを受け、直接FKのチャンスを得る。
キッカーは太田、左右のポスト脇には飯島、三上。エリア内を守るのは池田と高垣。直接狙うのか、飯島に合わせるのか?
太田のシュートは直接池田と高垣の間へ。「真ん中どかんと。両ウイングに飯島と三上がいるので、どっちにボールがいっても怖いでしょうということで、ど真ん中をあえて狙った」という太田に対して、池田は飯島のいるファーをケアし、真ん中が空いてしまう。「ファーへの意識が強かったのか、読んで動いたつもりではいたんですけど、その読みが外れた」という池田。
クラッシャーズが貴重な先制点をあげた。
後半に入ってもクラッシャーズは、ディスカバリーに攻め手を与えない。
そんななかディスカバリーは、12分、平西と池田のパス交換から池田が折り返して平西の前付きでのシュートという場面もつくったが、エリア内の飯島と森山がきっちりと守る。
クラッシャーズはディスカバリー陣内でプレーし続けることで時間を使っていく。そして試合終了のホイッスルが吹かれ、クラッシャーズが16年ぶり2度目の優勝を果たした。
優勝したクラッシャーズ森山一樹の目からは涙が溢れ出る。「去年決勝でもう少しで優勝というところで、自分のミスで負けてしまって。そこから1年チームで練習してきて、今日こういう最高の結果になって凄く嬉しいです」
昨年の悔し涙が、嬉し涙に変わった。
「長かった。ここまで来るために長い年月がかかった。そのあたりの嬉しさがこみあげている感じですね」と語ったのは飯島洸洋。「今までは打ち合いというか、お互いの良さを出し合うサッカーだったんですけど、今回は大人というか勝つためのサッカーを意識して、それが結果につながった」
「ようやく胸を張って優勝出来たと言えます」
クラッシャーズ三崎賢治監督は決勝を振り返って「向こうは池田、平西がいましたので、そこをどう止めるかチーム全体でいろいろ話をして。うちも主力には主力をぶつけるという形で。そうはいってもうちがやってきたサッカー、相手よりも少し速いとか、相手の裏をつくとか、そういった先読みをチームで共有してきた結果かなとは思います」
準優勝ディスカバリーの平西一斗は「決勝まで長い道のりで、初戦から5試合一切手を抜けない相手が続いて大変なトーナメントだったんですけど、ここで優勝できたら強豪をなぎ倒しての優勝ということになるので、力を証明できる」と決勝に臨んだ。
「(クラッシャーズは)プレスが速いし、どこででも1対1の競り合い、負荷があったし。パスサッカーがしたいけど、それをさせないように積極的にプレスにくる。競り合いに持っていくところが上手くて、太田さんを抜いたら(飯島)洸洋さんがいて。洸洋さんいなくても三上さんがいて…」クラッシャーズのプレスが厳しかったからか、マシンも初めて熱だれしたという。
「一発で優勝するというのは簡単にはやらせてもらえないんだなと感じました」
ディスカバリーの池田恵助は「相手の詰めの強さと1対1。こっちのやりたいことをしっかりとつぶしてきたという感覚で…。勝てているところや流れがあるところもあったので、あとはそれをどれだけ次の機会に増やせるかで変わってくると思いますけど。優勝したかった」と悔しさを滲ませた。
大会MVPは決勝でゴールを決めたクラッシャーズの太田大皓。
配信映像のインタビューでは「最高です!」と雄叫びを上げていた。
「2位ばっかりでね、本当に長かったなと。積み重ねてきたことは間違いがなかったというか、まだまだ積み重ねたりないものはもう見えてはいるので、それをこれから突き詰め直してさらに強化したクラッシャーズを皆さんに見せられればいいかなと思っています」と既に先を見据えていた。新加入の三上と他の選手の連係もまだまだこらからのようだし、さらにクラッシャーズは強くなっていくだろう。
もちろんディスカバリーも、クラッカーズも、ローリングタートルも……。
決勝は、一見地味だがとてもハイレベルな闘いだった。
今大会ではディスカバリーの内田大牙やコスモの小山大喜などの小学生たちを始めとする若手たちも、未来へつながる活躍を見せた。日本国内のクラブチームのレベルは年々上がっている。来年もきっと熱い闘いを観ることができるだろう。
最後は今大会のコピーでこの記事を締めくくりたい。
“Go! Next Stage”
(校正・佐々木延江)