関連カテゴリ: 今日の注目記事, 東京, 知り知らせる, 観戦レポート, 馬術, 馬術トップ — 公開: 2024年10月31日 at 4:32 PM — 更新: 2024年11月1日 at 8:45 AM

選手層の厚みが増したCPEDI3★TOKYO2024 第8回全日本パラ馬術大会

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10月25日(金)〜27日(日)、東京・世田谷区のJRA馬事公苑で「CPEDI3★TOKYO2024 第8回全日本パラ馬術大会」 が開催され、10人馬が出場した。

受賞式後の集合写真 撮影:望月芳子

10月25日(金)〜27日(日)、東京・世田谷区のJRA馬事公苑で「CPEDI3★・2★TOKYO2024 第8回全日本パラ馬術大会・JRAD国内競技会2024」 が開催された。

3年ぶりに馬事公苑で行われた全日本パラ馬術大会

26日はPara Grand PrixBが行われ、CPEDI3★にはグレードI~Ⅴまで10人馬が出場。グレードⅡの稲葉 将&カサノバ(静岡乗馬クラブ)が安定感のある演技で64.722%、宮路満英&ロッシーニ(水口乗馬クラブ)が62.611%、2頭乗りで出場した吉越奏詞&アルバテミス(岡本ライディングJAPAN)は68.333%で、グッドフェラーと演技した64.278%を上回った。

普段から日本で一緒に練習しているカサノバと出場した稲葉は、1日目に行われたPara Grand PrixAと2日目を振り返り、
「去年の12月にグレードⅡにクラスが変わってから、初めて一緒に試合に出場するので、何点出るかなって楽しみにしていた部分もあり、昨日は68%。今日はそれと同じぐらい、もしくはそれ以上出せたらいいなと思ってやってはいたんですがミスが多かった。まだ明日もあるので、今日ミスしたところをよくできたらいいなと思っています」
と残念がりながらも、気持ちを切り替えていた。

グレードⅡ 稲葉 将 撮影:望月芳子
グレードⅡ 稲葉 将&カサノバ(静岡乗馬クラブ) 写真提供:JRAD(一般社団法人 日本障がい者乗馬協会)

アルバテミスにとって馬事公苑は初めての競技会場だったので、1日目は緊張をほぐすように努め、2日目は落ち着いてリラックスしていたため高得点を狙ったという吉越。
「アルバテミスはすごく速歩(はやあし)が得意な馬で、伸長速歩の時に4脚がフッフッと空中に浮かぶような速足をするんです。乗っていて、あっ、これいいっていうのがすごくわかってうれしかったです」
と手応え十分だったようだ。

グレードⅡ 吉越奏詞 撮影:望月芳子
グレードⅡ 吉越奏詞&アルバテミス(岡本ライディングJAPAN) 写真提供:JRAD

2日間の結果は自分としては満足だ、と宮路。
「もう67歳で、腰などいろんなところが痛かったり、去年からケガが続いたりしているので、一歩ずつというか、とりあえず今回の大会を目標にやってきました。終わったら少し休んで、練習しながらその後のことを考えます」
2016年のリオ、2021年の東京と2大会パラリンピックに出場したベテランは、「まだ明日のフリースタイルがあるので頑張ります」と言い切った。

グレードⅡ 宮路満英&ロッシーニ(水口乗馬クラブ) 写真提供:JRAD
グレードⅡ 宮路満英 撮影:望月芳子

グレードⅠには大川順一郎&童夢(蒜山ホースパーク)が出場。大川は筋肉が減少していく難病で拳を握れないため、ループ手綱に手を通して親指と人差し指の付け根で支えているが、童夢は伸び伸びとした歩様で、66.458%と好成績を挙げた。

グレードⅠ 大川順一郎&童夢(蒜山ホースパーク) 写真提供:JRAD

「この会場で全日本が行われるのは3年ぶりで、昨日は馬も自分も少しナーバスになってしまいましたが、今日は気持ちを切り替えて、童夢も最後まで集中して演技をしてくれました」
そのおかげで、1日目の63.889%から2日目は3%近く上がった。

グレードⅠ 大川順一郎 撮影:望月芳子

約1年ぶりの大会出場となったグレードⅣの高嶋活士&ケネディ-H(ドレッサージュ・ステープル・テルイ)は65.856%。元JRA騎手の高嶋は、長らくコンビを組む自馬ケネディを危なげなく操り、軽やかな演技を披露した。

グレードⅣ 高嶋活士&ケネディ-H

「初日は馬が周りをちょっと気にしていたので、2日目は修正できたかなと思います」
去年は馬が頭を振るのがひどかったため、練習の時に折り返し手綱をつけて頭を安定させ、馬に徹底的に教え込んだ。大会では使えないが、その感覚を保ったまま出場し、この日の成績につながった。

グレードⅣ 高嶋活士 撮影:望月芳子

パリパラリンピックでリザーブだったグレードⅤの城 寿文&アルマーニ15(福岡県馬術連盟)は63.096%。装蹄師である城は今の時期仕事が忙しく、練習不足だったという。
「選手兼私のトレーナーである妻が馬の方はベストコンディションにしてくれていたので、練習不足でもあまり不安なく試合に挑めたんですが、うまくマッチングせずにふがいない結果で終わってしまいました。68%を目標にしてたんですけど、細かいミスが続いてしまい、妻と馬に申し訳ないと思いました」

グレードⅤ 城寿文&アルマーニ15
グレードⅤ 城 寿文 撮影:望月芳子

Para Grand PrixAとPara Grand PrixBを合算したスコア、134.712%で吉越&アルバテミスが優勝し、2位は稲葉&カサノバで133.113%、3位は大川&童夢で130.347%だった。
27日のPara Grand Prix Free Styleには、Para Grand PrixAとPara Grand PrixBの平均が60%以上の人馬が進出(2頭乗りの場合は、得点が高い方の人馬)。上記3人馬と、高嶋&ケネディ-H、城&アルマーニ15、宮路&ロッシーニの出場が決まった(大川&童夢は、当日棄権)。

全競技の試合結果
https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/3b530e1fd95cd45eb57162f467ac538a.pdf

パリパラリンピックを振り返って

The venue for the 2024 Paris Paralympics Grade I individual competition. Palace of Versailles Photo © FEI/Liz Gregg

パリ2024パラリンピック出場後、初めての大会となった稲葉と吉越。グレードⅡで8位入賞を果たした稲葉は、
「東京パラは無観客でしたが、パリでは開会式や閉会式だけでなく、馬術の競技会場だったベルサイユ宮殿も観客席がほぼ満員でした。そういったところで演技をした経験はまだなかったので、その舞台の大きさだったり、普段味わえない空気感だったりというのはすごく味わえたので、幸せな時間だったなと思います」
出場選手や関係者が国を背負ってきているのも、パラリンピックならではだと感じた。
入賞したことで、日本に帰ってきてからもいろいろな式典などに出席し、オリンピックやパラリンピックの舞台の大きさというものを改めて実感。
4年後のロサンゼルスパラリンピックも目指しているが、日々練習を積み重ね、海外の大会で結果を出していく、というスタイルは変わらないという。
「練習して自分の技術が上がれば、どんな馬に乗ってもいいコンビを組めるし、馬のチョイスが増えると思います。またいい出会いがあって、馬と一緒にどんどんよくなっていく自分というところを目指して、頑張っていきたいと思います」

惜しくも入賞を逃したが、演技後の満面の笑顔が印象的だった吉越。
「東京2020は初出場ということもあって少し緊張してしまったところもあったんです、パリパラリンピックでは笑顔を絶やすことなく演技することができました。ジャビーロ号はすごく一生懸命やってくれました」

パリパラリンピックでは、特別支援学校の小学生たちがたくさん見に来てくれ、車椅子ユーザーや聴覚障害のある人が観客席に入れるように配慮されていたという。

パラ馬術の選手の中で最も若い24歳。当然、稲葉と同様、ロサンゼルスパラリンピックを目指している。
「これからまだ4年間あるので、その前の再来年に行われるアーヘン世界選手権などに備えて自分の技術が世界に通用するようにしっかり上げていくことが課題です。あと、皆さんに感謝をしていることを演技で表現したいなと思っています」

パラ馬術日本代表チームの三木則夫監督は、東京パラリンピックの時、各人馬が予想以上の成績を出したため、それに基づいてパリの成績を予想していたという。
「しかし、予想幅の一番下のスコアを出してしまったという感じで、選手も我々も非常に残念に思っています」

パラに出場した馬はヨーロッパでリースした能力の高い馬だったので問題なかったが、それを乗りこなす力が不足していた。そのため、今後は世界選手権やロサンゼルスパラリンピックに向けて、基礎技術を獲得するためのトレーニングを強化していく方針。
「ヨーロッパの馬は向こうのトレーナーが用意し、選手が競技会の1週間前ぐらいに現地に行って調整していますが、いいスコアを出そうと思ったら相当な技術が必要です。上手になれば、その1週間でも馬が持っているポテンシャルを引き出しやすいと思うんです」
 
パラリンピック入賞を目指してトップ選手の強化に力を入れるだけではなく、選手層の裾野も広げていきたいという。
「以前はセラピーの全国大会とパラ馬術の協議会を一緒にやっていましたが、東京パラに向けて分けてしまったんですね。しかし、イベントというか競技会にいろんな観客がいて多数の目のある中で、競技選手が育ってきたという背景があるのです。今活躍している選手たちもそうです。初級の遊びみたいな競技をセラピーの大会で見て、楽しいな、自分も乗れるんだ、と始めた人が結構多いので、そこの部分を抜いてしまって強化だけやっていても難しいなと思っています」

パラ馬術日本代表チーム 三木則夫監督

東京パラを経て、パラ馬術の選手が少しずつ増えている。4年後、さらにその先で日本のパラ馬術がどう変わっていくのか楽しみだ。

(取材協力・写真提供、JRAD、校正・佐々木延江、田中綾子)

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