関連カテゴリ: アメリカ, クライミング, コラム, サッカー, ハイチ, ブラインドスポーツ, フランス, 中国, 周辺事情, 夏季競技, 女子, 東京, 知り知らせる — 公開: 2024年10月21日 at 6:18 AM — 更新: 2024年11月1日 at 3:13 AM

スポーツが世界を変える未来へ。女の子のスポーツを考える「プレー・アカデミー東京サミット」が開催された!

知り・知らせるポイントを100文字で

大坂なおみを旗印とし、ナイキとローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団(以下ローレウス財団)が協力してロサンゼルス、ハイチ、日本で進める、女の子のためにスポーツを変える「プレー・アカデミー」の活動の5日間のプログラムが終了。スポーツ本来の魅力と向き合い、スポーツの力を掘り起こす試みを取材しました。

ネルソン・マンデラ氏の言葉「スポーツは世界を変える力になる」。この言葉は、現代の女性や女の子たちのスポーツにおける改革において、改めて重要な意味を持つ。

左から、篠原果歩氏(シニア・プログラム・アンド・グランツ・マネージャ/ローレウス財団)、田中美羽(読売ジャイアンツ)、世古汐音さん(桃山学院教育大学4年)、恩塚亨氏(前バスケットボール日本代表ヘッドコーチ)、來田享子教授(中京大学スポーツ科学部) 提供写真

世界的テニスプレーヤー大坂なおみを旗印に、ナイキとローレウス財団が主催する「女の子のためにスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」が開催された。10月18日に行われた「東京サミット」では、5年目を迎えるこの取り組みについて、関心ある企業、行政、メディア、競技団体、当事者などが集結し、女の子たちのスポーツ実践の現場からの進捗が報告された。

女の子たちのスポーツ:現状と課題

サミットの冒頭で、日本でスポーツをする女の子を代表し、視覚に障害のある中山杏珠さん(14歳、クライミング・柔道、筑波大学付属特別支援学校2年生)が、自身の経験を共有した。 提供写真

今夏のパリオリンピック・パラリンピックは、市民のスポーツ離れを課題とし、「開かれた大会」をコンセプトに開催された。日本でも同様の課題を抱えているが、特に「女の子のスポーツ離れ」は深刻である。スポーツ庁の統計によると、1週間の総運動時間60分未満の割合は、中学生男子が11.3%であるのに対し、女子は25.1%と、約4人に1人にものぼる。

中京大学スポーツ科学部・來田享子教授は、この現状について「これまでこの問題を女の子自身のせいにしてきたのではないか」と指摘。「環境が整えば、もっと様々なことに挑戦しようという選択肢に『スポーツ』を加える女の子は増えるだろう」と述べた。

安全なスポーツ環境へ:世界の取り組み

日本に限らず、世界的に見ても、女性のスポーツには多くの障壁が存在する。女の子特有のニーズに対する理解不足、ロールモデルの不足、スポーツ機会の制限などが主な課題として挙げられる。人権への差別や貧富の格差がある国や地域では、さらにその傾向が顕著であり、国や地域の文化の違いによる影響も大きいのが現状である。

パリ2024パラリンピックでトライアスロンの沿道を埋める観客 写真・中村 Manto 真人

オリンピック・パラリンピックなどのエリートスポーツでは対策が進められており、今夏のパリ大会ではジェンダー平等の理念のもと、男女比を50%ずつにするという目標が掲げられた。

オリンピック競泳金メダリストのミッシー・フランクリン・ジョンソン(アメリカ) 提供写真

サミットに登壇したオリンピック競泳金メダリストのミッシー・フランクリン・ジョンソン(アメリカ)は、「スポーツは私に自信を与えてくれた。それは、教室でも、娘としても、友人としても、人生のあらゆる面で自信につながった」と語り、豊かなスポーツ環境の重要性を強調した。

東京サミットからの提案

国内17団体が賛同する合同アクション、ブックレット「女の子のスポーツ参加を促す指導者ガイド」の発行が発表された。 提供写真

「ワクワク感」と「敷居を下げる」こと

パネルディスカッションの前半では、日本のスポーツの現場の当事者・指導者からの貴重な意見が共有された。女子野球・読売ジャイアンツの田中美羽は、「ピンクのユニフォームを作ってあげるから来て」と誘われたことがきっかけで、それまで興味のなかった野球を始めたエピソードを紹介し、スポーツへの「敷居を下げることの大切さ」を語った。

自身の経験談を語る野球選手、田中美羽(読売ジャイアンツ) 提供写真

来年4月に教員になるという大学4年生の世古汐音さんは、まさに未来を担う指導者の一人である。中学時代に尊敬できる体育教師との出会いから指導者を志し、すでに学生コーチとして中学生のバレーボール指導を行っている。世古さん自身、「やめたい」「行きたくない」という状況に陥った経験から、「近くに手を差し伸べてくれる人が必ずいる。勇気を持って相談してほしい」と呼びかけた。

学生コーチとして中学生に指導する世古汐音さん(桃山学院教育大学4年) 提供写真

パリオリンピック女子バスケットボール日本代表ヘッドコーチの恩塚亨氏は、「ワクワクが最強」というフレーズを掲げ、指導者が選手にあるべき姿を押し付けないこと、「やらされるのではなく、やりたくなる状況をいかに整えるか」が重要だと強調した。

恩塚亨氏(前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチ) 提供写真

來田教授は、「女の子一人ひとりの物語を発見していきたい。感動の押し売りの物語でもなければ、根性物語でもない。ただ普通に生きて、失敗しても明日は頑張れる、そんなストーリーがすべての人にあるべき」と、新たなアプローチの大切さを訴えた。

パネルディスカッション1風景 提供写真

「完璧」ではなく「勇敢」になろう!

パネルディスカッション後半は、モデレーターを務めたヴァネッサ・ガルシア=ブリトー氏が「自分たちの居場所を感じられる環境を作ってくれるコーチ」のあり方について、アスリートと専門家による国際的な議論を深めた。

左から、ヴァネッサ・ガルシア=ブリトー氏(ナイキ、チーフ・インパクト・オフィサー)、ミッシー・フランクリン・ジョンソン(アメリカの競泳金メダリスト)、メーガン・バートレット氏(Center for Healing and Justice through Sport創始者) 提供写真

「Center for Healing and Justice through Sport(スポーツを通じた癒しと正義の場所)」の創設者メーガン・バートレット氏は、「コーチは、女の子たちが完璧である必要はなく、勇敢になれる環境を作る必要がある」と述べ、リスクを恐れずに挑戦することの重要性を訴えた。

メーガン・バートレット氏(Center for Healing and Justice through Sport創始者) 提供写真

フランクリンは、「私は、スポーツは世界で最もパワフルな力のひとつだと信じています」と述べ、自身の経験を振り返りながら、「コーチ、両親、そして子どもの人生に関わるすべての人たちをサポートすることが大切です」と付け加えた。
東京サミットを通じて、ジェンダー平等の推進と多様性・インクルージョンの重要性が再確認された。

パネルディスカッション2の風景 提供写真

スポーツの現場から未来へ

午後のセッションでは、ナイキとローレウス財団による「プレー・アカデミー」の支援を受けた日本、ロサンゼルス、ハイチ、中国からの活動報告が行われた。文化の異なる国々で、女性や女の子のスポーツが置かれる現状は大きく異なるが、共通して「安全な環境」の必要性が強調された。

スポーツという「社会変革の強力なツール」を通じて、女の子たちのスポーツの未来を再定義し、公平でインクルーシブな社会の実現に向けて前進している。恩塚コーチの「どうやったら、やりたい気持ちになるか」という言葉が、少女たちのスポーツの未来を切り開く鍵となりそうだ。

虎ノ門ヒルズ ステーションタワーで開催された、東京サミット 提供写真

「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」とは

「女の子のためにスポーツを変える」という課題に取り組むため、大坂なおみを旗印に、ナイキとローレウス財団は2020年に「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」を設立した。このプログラムは、日本(大阪、東京)を起点に、アメリカのロサンゼルス、ハイチへと活動範囲を広げ、今夏パリでも活動している。

ハイチでのプレー・アカデミー。ハイチではジェンダー平等への取り組みを進めている。 提供写真
10月19日(土)に開催された、大阪なおみとのプレー・アカデミーのプログラム 提供写真

「女の子のためにスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」は、10月16日に世界中の関係者が東京に集結し、3日目にこの「東京サミット」が開催された。サミット後には、35人の女の子を対象とした大坂なおみとのスポーツプログラム、50人の指導者を対象とした「アスリートが居心地の良いスポーツ環境を届ける」ための指導者研修が行われた。

(写真協力・中村 Manto 真人)

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