開幕以来初めて冷たい雨が降りしきるパリ。大会8日目(9月5日)を迎えたラ・デファンス・アリーナは、それでも熱気に包まれていた。予選・決勝合わせて26レースが行われ、世界記録や大会記録が次々と更新される中、日本チームは世界の壁を痛感する1日となった。
この日、注目を集めた混合4x50m20ポイントメドレーリレー。ベテラン鈴木孝幸を筆頭に、西田杏、由井真緒里、田中映伍、日向楓がチームを組み、メダル獲得を目指して挑んだ。
結果は7位。しかし、彼らは日本新記録を樹立した。レース後、鈴木は「メダルを狙っていたので悔しいですが、今までで一番速く泳げたことは評価できる」と語った。
このレースのために、彼らはナショナルトレーニングセンターで共に汗を流し、スタート、ターン、タッチの連携を磨き上げてきた。
20年前のアテネパラリンピック。当時高校生だった鈴木は、このメドレーリレーで銀メダルを獲得した。先輩の背中を追いかけ、共にメダルを目指し獲得した経験は、彼の競技人生やチームビルディングの原点となった。
「アテネのとき、おじさんの背中を必死に追いかけてただけなんですけど(笑)、あのときは、メダルを取って号泣してる大人を見て、パラリンピックってこういう世界なんだって強く思ったんです」と鈴木は振り返る。
「今回も流すなら嬉し涙が良かったのでそこは残念ですが、個人種目ではなかなかメダルが届かないレベルだけど、リレーではパラリンピックのメダルをみんなで一生懸命狙っていくことができる。その挑戦が今後に生きてくれたらと思うので、いいチャレンジができたかなと思います」
鈴木は東京大会前から自身の挑戦の締めくくりについて考え始めている。その一つに後輩となる選手の成長がある。周囲に影響を与える存在となった現在、若い選手たちに今後生きていく糧をできるだけ与えたいと考えている。
「この3人にはすごくポテンシャルがある。これからチームの中心になってもらいたいと思います」と鈴木は後押しした。
この日、個人種目では、日向楓(男子50m自由形S5)、チーム最年少の川渕大耀(男子200m個人メドレーSM9)、齊藤元希(男子100m平泳ぎSB13)など若手メンバーで、世界の舞台での懸命に泳ぎを披露したものの決勝進出は叶わなかった。
(校正・そうとめよしえ)