ボッチャBC3男子個人戦プールD第3戦、勝ったほうが準々決勝への切符を手にする有田正行と地元フランスMENARD Julesの対戦は「凄い声援でランプオペレーターともコミュニケーションが取りずらいところもあった」と、有田が振り返るほどの歓声のなか進んでいった。有田は妻でランプオペレーターの千穂に、声でランプの向き、ボールの選択、リリースする高さを伝えなくてはならない。
「世界で戦える選手であること」を常々モットーとしてきた有田正行は、7年前、電動車椅子サッカーからボッチャに戦いの場を変えた。そして「7年間ここまで妻といっしょに戦ってきたという歩み、その生き様」を「しっかりと見せる」べく、パリパラリンピックへ臨んだ。
パリには、数多く試し、選び抜かれたボール3セット39球を持参した。
そうしてむかえた第1戦、ブラジルのCARVALHO Mateusに第2エンド終了時点で3-1とリードしていたが、第3エンドにミスも重なって3失点をしてしまう。しかし「ランプオペレーターの妻とコーチと落ち着いていこうと1分間、再度自分の気持ちを落ち着かせて」最終エンドで2点を奪い逆転。
「今までやってきたことをしっかりとだせたことが結果に繋がり」パラリンピック初勝利をあげた。
だが決してボールのコンディションはよくなかった。まっすぐいかない。狙ったところに思うようにいかないことも多かった。
2戦目は東京パラリンピック銀メダリスト、ギリシャのPOLYCHRONIDIS Grigoriosに0-9と敗れてしまったが、ボールは徐々に改善されていった。
そしてベスト8進出をかけた第3戦。赤球で先攻の有田が第1エンド1点を先制。しかし第2エンド、MENARD Julesがサイドライン際6mの位置にジャックボールを投じ3点を奪うと、観客のボルテージが上がる。しかし有田も第3エンド、1点を返し1点差に詰め寄る。
そして向かえた最終エンドの4投目、ジャックボールを後ろの自分の赤球に近づけたいという狙いで投じたボールは曲がってしまい、狙いとは違うところに行ってしまった。
結果として相手が1点を追加、2-4と敗れてしまう。
試合終了後、ランプオペレーターで妻である千穂はボールのコンディション不良に責任を感じ、こみ上げてくるものもあった。
「妻にはいろいろ苦労をかけてともに戦ってきた7年間なので、こみ上げる気持ちもわかりますし、答えられなかった自分のプレーは申し訳ないというよりはふがいないという気持ち」「でもここまで連れてきてもらった妻には本当に感謝している」と有田正行は語る。
だが大会は終わったわけではない。
「(ペアを組んでいる」一戸選手とは個人戦が終わってから情報共有して、僕も気持ちを切り替えてペア戦に臨みたいと思っています」と有田は先を見据えていた。
そしてボールのコンディションも上がってきている。
3日24時(日本時間)、ペア戦初戦の相手はフランスだ。個人戦よりはるかにアウェイの雰囲気に包まれることが予想される。
そこからの有田正行・千穂夫妻、一戸彩音・賢司親子の底力に期待したい。これまでも幾度となく土壇場から勝ち上がっているのだから。
(取材・地主光太郎、校正・そうとめよしえ)