西日本最大の駅、大阪駅に隣接し1日に15万人が行き交う「うめきた広場」。そこで日本、メキシコ、モロッコ、マレーシアで争われたダイセル ブラインドサッカー ジャパンカップ 2024 in Osakaは、7月7日 モロッコの優勝でその幕を閉じた。パラリンピックに初の自力出場を果たしメダルを狙う日本はこの「壮行試合」を準優勝で終えた。
決勝までの道のり
初戦マレーシア戦を第2ピリオド残り58秒のキャプテンの川村怜のゴールで勝利した日本。続く第2戦はパリパラリンピックでも予選第2戦で対戦するモロッコと戦った。キャプテンのアブデラザック・ハッタブ、エースストライカーのズハイール・スニスラはベンチスタート。第1ピリオド、ボールを保持する時間はやや日本が長かったがなかなかシュートに結びつかない。一方モロッコは残り4分で、ハッタブ、スニスラを投入。合計5本のシュートを放つもゴールを割れず0-0で折り返した。第2ピリオド、ハッタブ、スニスラはまたもベンチスタート。日本は交代なし。途中、後藤のトラブルで高橋裕人がピヴォとして入る。だが、マレーシア戦のようにドリブルで持ち上がるチャンスが少ない。7分を過ぎたあたりで、ハッタブ、スニスラがピッチに入り、モロッコが攻勢にでる。残り3分、スニスラに1対1からボールを奪われて得点を許し0-1で敗戦した。
第3戦のメキシコ戦は、第2戦と打って変わって平林を中心に数多くのシュートを放ったが、ほぼ自陣に引いて守るメキシコの堅守を崩せず0-0で終わった。その結果2位としてモロッコとの決勝戦を7月7日に迎えることになった。
決勝戦
日本はGK佐藤大介、フィクソ 佐々木ロベルト泉、左アラ 鳥居健人、右アラ 川村怜、ピヴォ 後藤将起というスタメン。モロッコは東京パラリンピックに参加した選手と若手の組み合わせ。キャプテン、アブデラデック・ハッタブ、エースストライカーのズハイール・スニスラはベンチスタート。攻守の切り替えが早いモロッコに対して第1ピリオド7分、12mライン内でカットインした後藤がモロッコのファールで倒されて得たフリーキックから川村がシュート。ボールは相手DF、GKの股間を抜けてゴールに突き刺さり日本が先制する。
しかし残り1分を切ったところで、日本はゴール前の連携ミスで、GK佐藤とモハメッド・エル・アムシが1対1となり左45度からゴールファーサイドに決められ1-1で第1ピリオドを終える。
第2ピリオドも攻守の切り替えが双方速く、なかなかシュートに持ち込めない。第2ピリオドから出場の平林太一に積極的にボールを集める日本。平林はドリブルでゴールに迫るが、モロッコは常に自陣に3人が残る守備的なフォーメーションで対応する。4人目もすぐに戻り平林を囲んで決定的なシュートを打たせない。モロッコは7分にスニスラ、11分にハッタブを投入し隙をみて日本ゴールに迫る。12分に平林が相手DFを掻い潜ってGKと1対1になるが、シュートを打てず。13分には後藤が右サイドからカットインしてシュートを放つがGKにキャッチされる。そのまま1-1で終わりPK戦へと流れ込んだ。
PK戦は日本が先行。最初のキッカー鳥居のシュートはバーに阻まれる。モロッコのスニスラはGK佐藤の右手をはじく力強いシュートをゴール真ん中に決めて先行する。2人目の永盛楓人はしっかりヒットできずGKに止められる。モロッコのモハメッド・エル・アムシのシュートは佐藤がしっかりブロック。3人目の佐々木ロベルト泉はゴール右上隅にきめて、モロッコのハッタブが外し、双方3人が終わった時点で1-1。以後サドンデスに入る。4人目は後藤、エルハビブ・アイト・バッジャが共に決めて2-2。5人目の川村はゴール左上を狙うが真ん中に入りGKにブロックされる。モロッコのフサム・ギリーはゴール左上隅に決めて、3-2でモロッコがPK戦を制して優勝を決めた。
この大会の収穫は?
この大会の収穫は中川英治監督もコメントしているように、パリで戦うモロッコとの対戦を、二度も緊張感のある中、特に高橋、永盛といった若手が経験できたこと。そしてパリパラリンピックの会場であるエッフェル塔前の観客席の高いスタジアムを意識した屋外の環境という全く経験のない場所でプレーできたことだろう。平林は「(練習でハッタブ役のコーチの動きを感じて)こんなだったらやばいなぁと思ったいたらそれ以上だった」とモロッコの選手の懐の深さ、手足の長さなどの体感を語った。
その中でどういったことが起きるのか、適応するのにどれだけ時間がかかるのかシミュレーションできたのは大きな収穫であろう。また、平林太一や複数の選手がコメントしていたが、「ボイ」がかなりギリギリのタイミングでも許されるなど、日本で日頃プレーする時に経験するレフェリングとは違う判定も経験できた。パリの本番でどのような基準でレフェリングされるのか、それに合わせて選手がどうプレーするのか、本番を注視したい。
改めて認識した課題は?
一方で、課題としては、相手にゴール前を固められた時にどう崩すか、連携のミスをどう減らすかであろう。前者については今回ほど得点できなかった試合は中川ジャパンになってから初めてではないか。これまで国際試合 49試合戦って、一試合平均得点は約1.6点。今回は0.5点。メキシコ、マレーシアは自陣に4人を配置するようなフォーメーションで日本に相対してきた。モロッコも1人ないし2人が日本陣内に張り出していたので、自陣に残るのは2ないし3人。但し、日本が12mライン(モロッコゴールから12mのライン)を越えるころには、前線の2人も戻り4人で守備に当たっていた。これらに対して川村は「早い展開からのシュートの精度をあげる取り組みが必要」と強調する。中川監督は「マインドと戦術理解度アップが鍵」と語った。これから2ヶ月弱の間にどこまで積み上がるか期待したい。
PK戦は苦手か?
PK戦についても記しておく。今回最後にPK戦で日本は敗れた。ただ中川監督が「手の内を隠したり出したりしている」と語った通り、今回は本番に向けてのトライアルの一つと捉えてもよいのではないかと感じている。振り返ると2022年のアジアオセアニア選手権3位決定戦のPK戦でイランに勝つまで、日本は公式戦でPK戦を制したことはなかった。9回やって全て負け。このPK戦以降、6度やって2勝4敗の成績となっている。もし本番でPK戦があったときに、監督に秘策があると筆者は思っている。
最後に
最後にこの大会自体について記す。日本のパリパラリンピック出場が決まったのが11月23日。6月14日の大会発表までの約6ヶ月でこの大会を日本ブラインドサッカー協会は実現させた。決して順調にいったわけではなかったと聞く。対戦国にしても、6月14日の発表直前で辞退する国があり、メキシコの参加が確定したのが大会2週間前。会場設営にしても、6月末の週末が暴風雨で作業できず、「作業が36時間遅れて、初戦のキックオフができるか心配でした(松崎英吾専務理事談)」という状況だった。
このような人が多く行きかう場所での大会は、「今までブラサカを広めるためにやってきたことの答えあわせ(松崎専務理事)」「ブラサカがサッカーのように日常に溶け込むことを認知してもらう大会(中川監督)」と位置付けられてきた。決勝のモロッコ戦後、筆者の隣で観戦していた少年(ブラサカ初観戦)が一言「これ来年もあるん?」と聞いてきた。彼の心にしっかりブラサカは刻まれたと思う。様々な困難を乗り越えて運営に尽力された大会関係者の方々に拍手を送りたい。
大会結果
◾️大会最終順位
優勝:モロッコ
準優勝:日本
3位:メキシコ
4位:マレーシア
◾️個人賞
・MVP:ズハイール・スニスラ(モロッコ)
・MIP:後藤将起(日本)
・ベストGK:ハリッド・ケルマディ(モロッコ)
・得点王:モハメッド・エル・アムシ(モロッコ)、川村怜(日本)共に2得点
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(校正・中村和彦、佐々木延江、そうとめよしえ)