100年ぶりのパリでのオリンピック開催を前に、フランス人であり、デュオ・写真家として活動するジュリー・オーディックとクリスチャン・リズクによる作品展「スポーツの魔力(主催:横浜日仏学院)」が横浜赤レンガ倉庫で開催された。「インテンシブ・フォトグラフィー(Intensive Phototherapy)」と名付けられた二人の作品は、スポーツとアートの普遍的なつながりによる新たな認識を紹介し、スポーツの本質について問いかけている。
デュオ写真家について
オーディックとリズクは元建築家で、日本の文部科学省の助成を受けて千葉大学に5年間留学していた。2002年より建築から写真に転身し、都市を記録する道具としてのカメラを使用していたが、次第に人々の動き、特にスポーツの動きに焦点を当てるようになった。このアプローチにより、都市景観、空間、イベント固有の動きやエネルギーを解き明かし、表現の限界を押し広げた。
赤レンガ倉庫でのトーク
赤レンガ倉庫でのトークでは、古代ギリシャや近代オリンピックの父であるクーベルタン男爵が主導した現代オリンピックに触れ、アスリートの美しさへの賞賛と、それを表現する芸術家たちの取り組みの歴史を探求した。「私たちの技法は、スポーツの美しさと写真の起源にインスパイアされています。当初の写真は長い露光時間を必要とし、ネガをポジに変換する技術もありませんでした。このような原点を探る視点が私たちの作品の根底にあります」とリズクは語った。
当初、彼らは長時間露光とネガフィルムを未現像のままにして鮮やかな色彩を楽しんでいた。現在では、デジタル技術を駆使し、動きの瞬間をプロジェクターに投影して撮影し、アートワークに展開している。アスリートの体から発せられる光が、イベント空間の個性やエネルギーを表現する要素となっている。
パラリンピックとの出会い
日本では東京でのパラリンピック開催が決まった2013年以降、パラリンピックへの関心が急速に高まった。しかし、ロンドン2012パラリンピックは、既に関係者やファン、メディアに大きな影響を与える存在だった。パラリンピックは完全にオリンピックと同様、スポーツの最高峰であり、人間の可能性の祭典だった。
オーディックとリズクは、ロンドン2012パラリンピック以降、パラリンピックを作品に取り入れ始めた。「ロンドンではパラリンピックが非常に注目されていた。アスリートたちの喜びや決意に深く感動し、関心が高まった。アスリートたちの純粋な喜びと情熱は、オリンピックとは異なる感動を与えてくれる。ルートヴィヒ・グットマン博士のリハビリへの取り組みに感銘を受け、パラスポーツを通じて多くの人々にメッセージを伝える意義を感じている」とオーディックは語った。リオ2016パラリンピックでの撮影も、彼らの作品にさらなる影響を与えたという。
ギャラリートークでは、二人の作品に対する思いや技法の背景が詳しく語られた。リズクは「長時間露光やネガティブの使用は写真の起源にインスパイアされたもので、当初の写真技法を再現することで、観る人に別の視点を提供することができる」と説明する。
アートワークについて
オーディックとリズクの作品は色の反転効果を用いた独自の手法で製作される。「ネガ状態で作品を完成させることで、瞬間の認識を避け、異なる視点を提供します」と二人は説明する。身体と動きのエネルギーが強調され、スポーツの持つダイナミズムを鮮明に表現することができる。
Q: モチーフとなる競技はどのように選択するのですか?
A: 「私たちは個人競技のスポーツを選ぶことが多いです。動作の一瞬が持つ力強さと美しさを際立たせるためです。」
Q: デジタル技術を駆使した制作では、アスリートを被写体にした作品はどのように制作していますか?
A: 「最初はフィルムカメラを使って建物や都市の風景を撮影していました。しかし、技術の進歩に伴い、特にスポーツ作品では、テレビやインターネットの映像をプロジェクターに投影し、それを直接ネガで撮影しています(撮影後の加工は行っていません)」
パリでの撮影計画
二人は今夏フランスでのパラリンピックについても積極的に撮影を計画している。「私たちはノルマンディーに住んでいて、パリから1時間の距離ですし、パラリンピックを撮りに行きます。どのスポットで写真を撮るかは決めていませんが、その時に決めようと思います」とリズクは語る。
去る5月に横浜で開催されたトライアスロンを取材した記者が、フランス人トライアスリートのアレクシス・アンカンコンを撮影してはどうかと提案すると、リズクは「彼はフランス人ですか?分かりました。でも、私たちの写真では、個人が誰であるかは重要ではないのです。形や姿が重要です。例えば、これはブラジルのサッカーです(と作品を指す)が、アスリートがネイマールであるかどうかはあまり重要ではありません」と話していた。
Q: パリの人々はかつて革命で自由と平等を手に入れました。初めてパリで開催されるパラリンピックもまたスポーツによる社会の革命と言えるが、フランス国民としてどう思いますか?
A: 「パラリンピックは障害者の尊厳を回復し、社会で重要な役割を果たしていることを示す大切な機会です。パラリンピックを通じて障害者への理解と受容が進むことを願っています。スポーツはその一部ですが、非常に重要な部分です」
写真展「スポーツの魔力」は、6月7日から16日まで横浜赤レンガ倉庫で開催され、スポーツとアートの融合が生み出す独自の魅力を伝えた。デュオ写真家は、2ヶ月後に迫るパリでも、パラリンピックの精神やアスリートの情熱を独自の表現で伝えてくれるだろう。彼らの作品とその言葉は、スポーツ報道写真とは180度異なる視点を提供し、パリパラリンピックのムードを先取りする経験となった。
ギャラリートークの映像 by Manto Nakamura
https://youtu.be/ifjsNSvqS1k?si=n6XBmQ4W656VtFoA
(協力/横浜日仏学院、作品提供/Audic-Rizk、取材/PARAPHOTOパリ取材班 写真 中村 Manto 真人、文 佐々木延江、校正 地主光太郎)
→This article is available in English (verified by Audic-Rizk).