「熱狂」のパリと向き合う、パラ水泳・最高峰のジャパンパラが閉幕!世界とつながる瞬間を振り返るフォトレポート

知り・知らせるポイントを100文字で

「パリのチームはすごくいい雰囲気だと感じる。若い選手とベテランの選手、そして中堅選手のバランスがよく整っている。チームでいる時間を大切にしてほしい」日本パラ水泳連盟・アスリート委員長の久保大樹は自身のレース後に話してくれた。久保のいう「若手、ベテラン、中堅」の活躍を振り返ってみたい。

今夏のパリパラリンピックを見据えた「2024ジャパンパラ水泳競技大会」が横浜国際プールで3日間にわたり開催され5月5日に最終日を迎えた。大会を通じてアジア新3、日本新17、大会新30 を樹立。パリ代表に選ばれたアスリートがリードして日本のパラ水泳の実力を披露して幕を閉じた。

国内最高峰のパラ水泳を支えている横浜国際プールは横浜市都筑区にある。東京2020パラリンピックではイギリスのオリパラ水泳チームをホストした。 写真・秋冨哲生

パリパラリンピックまで3ヶ月。チーム・スローガンに「熱狂」を掲げた日本代表は、横浜から泳ぎと思いを発信した。

<中堅>

大会1日目の100m背泳ぎS10決勝に続けて南井瑛翔(近畿大学)がアジア新記録を樹立、3日目はメインの男子100mバタフライS10(00:59.30)だった。またクラスがS12に変わった辻内彩野(三菱商事)が女子50m自由形S12でアジア新記録(00:27.99)を樹立した。また石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)が3日続けて日本新を樹立した。

パリへ羽ばたく石浦

石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)を中堅に入れるべきか悩む。その理由は36歳という年齢だけではなく長い全盲選手のキャリアを積んでいるからだ。遅咲きの石浦が、そのキャリアの全てをかけて2度目のパラリンピックへと挑んでいる。
大会初日、女子100m背泳ぎS13予選01:17.56の日本新を出した石浦は同級生でロンドンパラリンピック(2012年)金メダル後引退した秋山里奈の日本記録を12年ぶりに塗り替えた。2日目の100m自由形S11予選でも01:09.17の日本記録を樹立し、3日目、メインの50m自由形S11決勝では目標タイムをクリアした29.84をマークして、3日連続で日本新記録を樹立した。

大会最終日(5月5日)、女子50m自由形決勝は、S11/12/13のコンバインドで行われた。目標タイムをクリアして日本記録を更新レースを終えたS11の石浦(左)。 写真・秋冨哲生
大会2日目(5月5日)に開催された4× 100mリレーで泳いだ石浦 写真・秋冨哲生

2つのアジア新という実力の南井

男子100mバタフライS10で59.30と100m背泳ぎ01:04.76で2つのアジア新記録を樹立、50m自由形S10でも日本新記録(25.72)、100m平泳ぎSB10でも01:15.87の大会記録を更新した南井瑛翔(近畿大学)は、200m自由形SM10をメインとしパリへ代表として選考された。アジアナンバーワンの実力をもつが、障害の軽いS10クラスのパラリンピックでは5大陸からのスイマーがひしめき南井のタイムは世界ランクだと8〜9位だ。

100m背泳ぎS10決勝01:04.76で2つ目のアジア新記録を樹立した南井瑛翔(近畿大学) 写真・秋冨哲生

「(バタフライは)58秒台を狙って夏までに頑張りたい(世界との差を埋めるために)今大会で自分にすごくポテンシャルを感じた。コーチも「まだまだ伸びしろしかない」って言ってくれるので、レース動画を振り返って、力を入れ始めたドライトレーニングもしっかり継続して、自分のものにしていきたいと思います」

クラス変えで訪れたチャンスを掴め、辻内

女子100m自由形S12を泳ぐ辻内綾野 写真・秋冨哲生

弱視の2クラスのうちS13からより重いS12となった辻内彩野(三菱商事)は、初日から新たにメインとなる女子100m背泳S12の予選と決勝で日本記録を更新した。最終日、これまでのクラスで取り組んできた50m自由形ではS12のアジア新を更新。「アジア記録は見えていたが、意地の27.99だった。嬉しかったです」と素直な気持ちを伝えてくれた。

久保から受け継ぐリーダーの魂をもつ齊藤

代表チームのキャプテンである齊藤元希(スタイル・エッジ)は、トレーニングと位置付けたこの3日間で6種目・12レースを泳いだ。大会2日目・男子100m平泳ぎS13決勝で01:13.09の大会新記録を更新した。メインの200m個人メドレーにつながる泳ぎとなった。

大会2日目(5月4日)100m平泳ぎS13決勝で大会新(01:13.09)を更新した齊藤元希(スタイル・エッジ)、後半50mの泳ぎ 写真・秋冨哲生

世界記録で連覇を目指す、山口

男子100m平泳ぎで世界記録(1:02.75)を持つ山口尚秀(四国ガス)。知的障害クラスからのチームの副キャプテンとなった。「今年も雇われになりました。大きな盛り上がりの中で、一人一人がパフォーマンスを発揮していくには、普段でのチームワークが大事、お互いを尊重し合いチームをまとめていきたい」と話し、役割への意義を感じているようだ。

男子100mバタフライS14を泳ぐ、山口尚秀(四国ガス)専門の平泳ぎに加えバタフライにも取り組み始めている。 写真・秋冨哲生
レース前の山口尚秀 写真・秋冨哲生

<成長する若手選手>

パリで金メダルを目指す窪田幸太(NTTファイナンス)、パラリンピック初出場の木下あいら(三菱商事)、川渕大耀(宮前ドルフィン)ら、パリ行きが内定したメンバーは大会に向け「選手村での生活」を想定した合宿で先輩選手らと触れ合った。
ジャパンパラでは、彼らを目標にしたスイマーたちがパリ後の大会を目指している。パリの代表には選ばれなかった岡島寛太(日本福祉大学)もその一人だ。引退した銀メダリスト山田拓朗の後を受け継ぎS9クラスで世界を目指している。

彗星の如く現れた新人・木下 

大会2日目(5月4日)女子200m個人メドレーSM14で課題として取り組んでいる背泳ぎのパートを泳ぐ木下あいら(三菱商事) 写真・秋冨哲生
女子200m個人メドレーS14表彰式。中央が木下あいら 写真・山下元気

2022年9月のジャパンパラでデビューした木下あいら(三菱商事)は、昨年初めての海外遠征に出場した。8月にはマンチェスターでの世界選手権で銀メダル、10月の杭州でのアジアパラ競技大会でもアジア記録を更新した。直前の代表合宿では銀メダルを獲得した200m個人メドレーSM14で課題とする背泳ぎの練習をして今大会5種目に出場した。「タイムが悪くても気持ちを切り替えることができた。パリでは自己ベストを更新して金メダルをとりたい」と話す。パリへはお菓子(特におかきが好き)をいっぱい持っていき、レース前は炭水化物をしっかり食べるという。

金メダルを目指す窪田、食らいつく荻原

大会初日(5月3日)男子100m背泳ぎS8の表彰式。金メダル、窪田幸太(NTTファイナンス)右、銀メダル、荻原虎太郎(セントラルスポーツ)左 写真・秋冨哲生

窪田幸太(NTTファイナンス) と荻原虎太郎(セントラルスポーツ)の二人はともに男子100m背泳ぎS8で2度目のパラリンピック日本代表に選ばれた。東京後に荻原が思いついたドルフィンキックで泳ぐバタフライを窪田が習得して昨年8月、世界選手権で窪田は銀メダルを獲得した。窪田に負けじと取り組む荻原も100m背泳ぎで世界を目指し食らいついていく。二人はいよいよ有観客でのパリで、世界と戦う。

S5日向 & 田中

男子100m自由形S5 決勝で競り合う、日向(奥)と田中(手前) 写真・秋冨哲生

東京パラリンピックから2大会目となる日向楓(中央大学)と、それを追ってきた同じS5・両腕欠損の田中映伍(東洋大学)は現在ではライバル同士でパリへ行く。大会2日目、男子100m自由形S5をめぐり日本記録を奪い合う戦いは日向が01:18.11の自己ベストで奪還した。これまで50mバタフライS5を中心に競い合っていたが、田中がメイン種目を50m背泳ぎS5へ変え37.13で大会新を更新、新しいチャレンジを始めた。

S9川渕 & 岡島

男子400mS9でパリへの代表に選考された15歳の川渕大耀(宮前ドルフィン) は、パリで世界の選手たちに次の世代としてアピールしたい思いがある。今大会では同じS9の岡島貫太(日本福祉大学)と男子100mバタフライS9を泳ぎ競り勝った。

男子バタフライS9決勝を競う、川渕大耀(宮前ドルフィン)と岡島貫太(日本福祉大学) 写真・秋冨哲生

日本代表となった川渕は「400m自由形、200m個人メドレーでMETを切っている。来週のシンガポールでは100mバタフライでもMETを切って3種目でパリに出場したい」と語った。

上垣匠監督は、パリへいく若手選手に対し「1本だけで行く選手は一番プレッシャーがかかるんです。やはり、大声援の中で何本も泳いでいくことによって、おそらく我々が想像する以上に彼らは成長していくと思う。私どももそこは貪欲に種目を増やしていってもらいたいと思います」と語っていた。

大会2日目(5月4日)男子200m個人メドレーS9で対決した(右から)川渕大耀(宮前ドルフィン)と岡島貫太(日本福祉大学)。勝負は川渕が4.46速かった。 写真・秋冨哲生

前回のジャパンパラの50m自由形S9で引退した山田拓朗を制した岡島だが、今大会は「パリ選考タイムの26.29」を目指し決勝で追い上げたが26.86と届かなかった。

南井瑛翔のS10クラス同様、軽度障害となるS9クラス。特に山田拓朗と同じスプリントレースに挑む岡島をはじめとするS9クラスは近年選手が増え、岡島に続く選手たちもまた常に世界の激戦区で戦っている。

<日本が誇る、ベテラン勢の底力>

パリでアスリート委員の任期を終える、鈴木

アテネパラリンピック(2004年)から6大会連続出場、パリ大会に向け、あらためて「出場する個人種目は全てメダル、リレーでもベストを尽くしたい」と競技への意欲を見せる、鈴木孝幸(GOLDWIN)は、チームでの障害が最も重いS4、SB3クラスの選手。東京パラリンピックでアスリート委員に立候補し、この3年間は「クラス分け」をテーマに国際的な立場で選手として競技環境の向上にも貢献してきた。

大会最終日(5月5日)レース後のミックスゾーンでの鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真・秋冨哲生

直前の合宿では「レースに向かう(若い)選手のメンタル面の相談に乗ったり、自分がメダルを取ることでチームにいい影響があるといい」と話していた。パリ大会はキャプテンの責務からも解放され、個性あふれるひとりのアスリートとして自由な感性でチームに、そしてファンに、パリでのパラリンピックの魅力を伝えてくれそうだ。

大会最終日、50m平泳ぎSB3のスタート前の鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真・秋冨哲生

ジャパンパラでの鈴木は、男子100m自由形S4と、50m平泳ぎSB3に出場。平泳ぎではスタートに課題が残ったものの少しずつ尻上がりに感覚が研ぎ澄まされていったという。まだメダルラインではないが、フォームやテクニックよりも泳ぎ込み、タイムを伸ばしていくフェーズに入っているという。

ーーー「自分の子ども時代を念頭に子どもたちに何を伝えたいですか?」

「自分が子どもだった頃より今はパラリンピックや障害者っていうものが目に見える形になってきているのかなと思う。健常者のスポーツだけではなくて、こういったスポーツの形もあるんだよ、みたいなのは、もう(メディアの)皆さんが必死に報道することでお伝えいただけたらというふうに思っております、どうですか!」と返し、記者が「頑張ります」と答えると嬉しそうにお礼を述べていた。

ーーーパリへの心構えについて若い選手から聞かれたらどんなふうに応えますか?

「やはり、パラリンピックは他の大会と違ってお客さんも満員で入りますので特別な大会だと思います。東京パラリンピックしか出場してない選手も大勢いますが、全てを全身で感じとって、楽しんでもらいたい。観客がいようがいまいがやるべきことは変わらない。聞かれたらそう答えようと思います」

ーー最初のパラリンピックから変わらないというモチベーションの要因は?

「勝ちたいからでしょうね。変わりません。世界一ですから」

ーー勝つことの大事さはどこにありますか?

「社会は別に平等じゃない。結局、皆さんも実感されていると思いますが、誰かと比べられて秀でていれば昇給するし立場も上がるだろう。今は学校では競わなくなってきているんでしょうか?でも、実際社会に出たら、競わないといけないので、勝てるものは買っといた方がいいと思います」

ーーパリでは鈴木選手のアスリート委員の任期が終わりますが「クラス分け」とはなんでしょう。あらためて鈴木選手の言葉で説明してください。クラス分けはパラリンピックの魅力と言えるでしょうか?

「クラス分けは私にとってもクラス分けで(しかなく)、パラリンピックをする上で、競技をする上では一番根幹な部分です。クラス分けでしっかりと、公平に、障害が違っても、泳力がほぼ同じ、同等な人たちがグループ分けされることで、その人たちの頑張りというのがそのまま泳ぎに現れます。魅力になるわけではないですけど、それが見る人にとって何か感じ取れるものがあると思いますし、そういったところでクラス分けはとても重要だとは思います」

パリではいい泳ぎをする、木村

東京パラリンピック男子100mバタフライS11(全盲)の金メダリスト木村敬一(東京ガス)は、北京パラリンピック(2008年)からパリで5大会連続出場となる。東京後、オリンピックメダリストの星奈津美氏をコーチとしてバタフライのフォーム改善に取り組んできた。直前の合宿では、「この1年半くらい取り組んできた技術的なところを、しっかりと大会の雰囲気に合わせていき、パリではいい泳ぎで結果を出したい」と話していた。

レース後のインタビューに応じる木村敬一(東京ガス) 写真・地主光太郎

ジャパンパラ最終日の100mバタフライS11を01:03.09の好タイムで泳ぎ、50m自由形S11は26.36で大会新を更新した。

「レースについてコーチと振り返りましたが、まだまだ技術的なところは出し切ることはできなかったので、聞かれる前に先に言いますと(バタフライは)「8点」ぐらいかなっていう感じです」と、毎回聞かれるたびに8点と答えてきたことを繰り返した。この種目は東京パラリンピックで木村と富田宇宙が日本人ワン・ツーフィニッシュでファンを湧かせ、二人にとってもメイン種目になる。しかし昨年の世界選手権でウクライナのダニーロ・チェファロフが現れ現在二人の前に立ちはだかっている。

最終日(5月5日)100mバタフライS11決勝を泳ぐ木村 写真・秋冨哲生

「これから猛追しないといけないが、全然足りないってことではなくて、ちょっとずつ、ちょっとずつそのストロークの中で足りてないんだと思うんですよ。だから、その精度が上がっていければいいと思う。本当に目指すべきところは僕もだいぶわかってきたつもりなので、そこをしっかりと精度を上げる練習をしていきたい」と向き合う課題のディテールについて語ってくれた。

ーーー「自分の子ども時代を念頭に子どもたちに何を伝えたいですか?」

レース後のゴーグルチェックを受ける木村。 写真・秋冨哲生

「子供の頃、僕が水泳を始めた頃っていうのはちょうど福岡で世界水泳があってイアン・ソープが大活躍している時代だった。北島康介さんが日本のトップ選手として出てきはじめた頃、やっぱり水泳選手かっこいいなって思いました。今こうやってパラ水泳もたくさんのメディアの方に取り上げていただけるようになって、我々が泳いでるところを発信してもらえるので、まずは少しでも障害を持っている子供たちが「パラリンピックに水泳で行くっていうのもいいな」って思ってくれるようなレースができればと思うし、障害のない子供たちにとっても、いろんな人がいるんだろうけど、スポーツって面白そうだなって思ってもらえるような、パラリンピックでの戦いができればいいなと思います」

今の僕たちを見てほしい。富田

2017年にクラス変更で木村敬一と同じS11(全盲)の選手になった富田宇宙(EY Japan)は、東京に続く2度目のパラリンピック出場となる。S13(弱視)の頃から取り組む男子400m自由形S11と、木村と競い合う100mバタフライS11がメイン種目である。
「自分が今持っているもの全てを出しきって、自分の記録を超えていく姿をみせたい。東京は無観客での開催だったので、ヨーロッパの熱狂の中で開催されるパラリンピックを日本の皆さんに届けたい」と合宿で話していた。

表彰式での富田宇宙(EY Japan) 写真・秋冨哲生

ベテランに数えられる富田だが、これまでを振り返ると、初のチャンスで訪れたメキシコでの2017年の世界選手権は大地震に見舞われ帰国、アジアパラ(2018年ジャカルタ)を経て、開催地の差別思想が原因で代替え地で行われたロンドンでの2019年の世界選手権が、富田の世界での初舞台だった。そして、東京がコロナ禍で行われたため、有観客でのパラリンピックは富田にとって初めてとなる。

ーー東京で木村選手とワンツーフィニッシュした100mバタフライS11、パリではどうのぞみますか?

100mバタフライS11で木村敬一と競う富田 写真・秋冨哲生

「木村選手もすごく良いモチベーションでパリ大会に向かってるので、東京のときは難しい面もいろいろあったみたいですが、パリではさらにいい記録で泳いでくれるんじゃないかなと期待してます。僕も自分のできる限りのことをして、そこに追いつき追い越しでいきたいなと思っています」

そう答えたあと、富田は「東京じゃなく、今の選手たちを見て欲しい」と発信した。

400m自由形S11決勝スタート前の富田宇宙(EY Japan) 写真・秋冨哲生

「ただ、世界のライバル選手も増えていますし、東京からは3年も経ってますから、選手もたくさん入ってきてるし、僕らも大きく、いろんなことが変わっている。そういう中での戦いになるので、東京をもう1回っていう話よりは、今の僕たちの姿っていうのを、もっとちゃんと見てほしい。(富田のライバル、東京2020で3つの金メダルを獲得したオランダの)ロジャー・ドーズマン選手など、海外の選手たちの新たな活躍と、東京から頑張ってきた選手たちの様子っていうのを見てほしい」と、現地へ行く記者たちに伝えた。

東京2020パラリンピック、男子400m自由形S11のゴールで、手前1位、ロジャー・ドーズマン(オランダ)、奥、富田宇宙 写真・秋冨哲生

ーーーこの3年で、新たなパラリンピックムーブメントが醸成されていると感じています。パリでどのように見せていきたいと考えていますか?

「僕はパラリンピックのポテンシャルを信じています。世界的には在るので、どちらかというと(日本で)伝えられてないって意識の方が強い。パラリンピックの何が面白いか、どこに感動するかを、1人でも多くの方(取材者)が理解してくれたら、(パリからの発信が)その次のロサンゼルスの発展に繋がる大会になると思います」

ーー日本からの発信ではなかなかそこが伝わってないということでしょうか?

「そうです。僕がスペインで活動してることもありますけど、僕が東京で初めてメダルをいただいて、いろんなところに出て行ったりいろんな方とお話していくときに、パラリンピック選手として伝えたいことと、世間でいうスポーツのメダリストに求められる話があんまり一致しないことが多い。パラリンピックが持ってる、パラリンピックにしかないものがある。健常の人では伝えられないことや、そこに僕はすごく自分自身がインスパイアされてここにいるんで、何か、本来もっといいものあるのになっていう気持ちが僕の中では醸成され続けています」

ーースペインでの経験は大きいでしょうか?

「パラスポーツって元々ヨーロッパで始まっていて、なんで障害のある人がわざわざスポーツするのかっていうところの理解がしっかりしてるなと思います。日本はメダルを取ってそれをみんなで感動するっていうのが、ドンと一番上にあって、本質的な向上に繋がらないというか、根っこがなくて上ばっかり育てようとしている。スペインとかイギリスとかヨーロッパの諸国は、元々傷病兵や病気の人たちが、スポーツを通じて社会に参画していくところに一番力を入れている。結果、パラリンピックのパフォーマンスがある。そこが社会に浸透していないと、本当の意味でのパラリンピックムーブメントの底力も社会に浸透しないんじゃないかなっていう懸念はあります」

パリのレースまであと3ヶ月

大会初日(5月3日)パリ2024パラリンピック日本代表(内定)選手の壮行会、フォトセッションが行われた 写真・山下元気

パリに向かう日本代表・トビウオパラジャパンは、身体はシンガポールの大会を経て、知的はドイツでの大会を経て、8月10日より随時フランスの事前合宿地・アミアンへ向かう。

—最後に、日本チームとパラ水泳の普及に取り組む久保大樹(クボタロジスティクス)について記しておきたい。三児の父となった久保は、オリンピック水泳を目指した経験もある。社会人となってから障害を発症し東京パラリンピックを目指した。日本代表チームを支えるリーダーの一人。クラスが変更となり、東京パラリンピック出場は叶わなかったが、パラ水泳の楽しさやパラアスリートの魅力を伝えている。自身のレース男子100mバタフライS10を終えた久保に、代表チームの雰囲気や今回のジャパンパラについての思いをたずねた。

昨年10月に中国杭州で開催されたアジアパラ競技大会での男子100メートルバタフライS10を泳ぎ終えた(左から)金メダルの南井瑛翔と銀メダルの久保大樹。久保は「一番とかアジアレコードとか出せない分、若い選手に声かけたりとか仕事やと。それがみんなの力になっているんだったら、ここにきてよかったなぁって。東京の時にやめなくて良かったなって思います」と話していた。 写真・中村 Manto 真人

「鈴木、木村、富田のベテランがパリ後いつまで競技を続けるかわからないし、中堅・若手の選手は代表チームで一緒に過ごす時間を大事にしてほしい。ありがたいことに若い選手も順調に成長しているし、スター選手が生まれることを1ファンとして楽しみにしている。
S9は若い選手がたくさんいる。その中でも岡島貫太にはもっともっと引っ張ってほしい。世界的には厳しいクラスではあるが、世界の敵と戦う時は一人だ。ぜひ自分の成長にこだわってほしい。同じ障害、同じ性格、同じひとはひとりとしていない。パラリンピックに出る選手も大事だが、パラリンピックだけがパラ水泳の全てじゃない、魅力あるパラ水泳の裾野を広げていきたいので、協力してほしい」

大会最終日の100mバタフライのレース後に、日本代表チームとパラ水泳の普及について語る久保大樹(KBSクボタ) 写真・地主光太郎

この取材で、「パリパラリンピックを日本メディアはどう伝えるのか?」パラ水泳ミックスゾーンでアスリートの言葉を待つ取材者自身の資質が繰り返し問われていたことを感じた。

(校正・地主光太郎)

この記事にコメントする

記事の訂正はこちら(メールソフトが開きます)