12月9日・10日にわたって行われていた「第24回全日本パラ・パワーリフティング選手権」。
2月のワールドカップドバイ大会の出場への派遣記録突破(パリパラリンピック切符獲得に必要)のほか、日本記録更新、自己ベスト更新など、様々な選手のストーリーが見られた大会となった。
今回の大会は、昨年の全日本選手権に続いて築地本願寺での開催。
吉田進強化委員長の「スポーツは体育館でやるもの、という常識を打ち破りたかった」という思いがあるからだ。選手が試技を行うために設けられたステージを、阿弥陀如来像が見守る光景は実にユニーク。
昨年は海外選手も招待していただけに、日本を代表する寺でのプレーを楽しんでもらえたようだ。
パラスポーツは、限られた資金とリソースで、それぞれの競技が普及・発展に向けて試行錯誤している。
パラパワーリフティングは6年前から、日本工学院八王子専門学校と大会運営をコラボ。音響や照明などの演出のほか、試技中のバーベル補助や、判定予想を楽しめる応援アプリの開発などを学生たちが担当してきた。
学生にしてみれば自分たちが学校で学んだ専門分野を生かせるし、連盟にとってはリソースが得られるだけでなく、学生たちにパラスポーツに触れてもらう機会にもなる。
さらに広く競技を知ってもらうために交流イベントを開催したい」という思いから、連盟は12月8日よりクラウドファンディングもスタート。その背景には、「せっかく自国開催だったのに、無観客開催で寂しい思いをした」という選手たちの声がある。ならば注目されるのを待つだけでなく、自分たちでやってみようと企画を進めてきたという。
リターン品には、おいしい食べ物の数々から、選手との食事会・練習会見学などのレア体験までさまざまなものがラインナップされている。応援する人の1クリックが、大きなムーブメントにつながっていくことを期待したい。
快進撃が止まらない田中秩加香
大会2日目の女子79kg級では、田中秩加香が優勝。1回目の試技でいきなり87キロの日本新記録をマークすると、3回目に92キロに成功。その後の特別試技では「ちかこ!」「ドバイ!」という観客のコールで盛り上がる中、95キロに成功した。ワールドカップへの派遣記録は92キロで、ドバイ行きが濃厚になった。
田中はまだ競技歴1年9ヶ月で、39歳の主婦アスリート。最初はダイエットで始めたトレーニングだったが、ポテンシャルを見出したトレーナーに勧められてパラパワーリフティングの道に入った。二分脊椎症による肢体障害の他に、視覚障害もある重複障害だ。
「判定を自分の目で判断することはできないが、観客の反応を聞いて今の試技が成功したんだってわかるんです」と話す田中。吉田強化委員長は「視覚障害だからといって恐怖を感じていないような挙上をするし、記録だけでなく体格もどんどん良くなっている。こういう選手が天才なのか」と太鼓判を押している。
夫はブラインドサッカーで長年活躍している田中章仁で、先日、日本はパリへの出場権を獲得したばかり。夫婦そろってのパリでの活躍に注目だ。
(校正・そうとめよしえ)