12月4日・5日の2日間にわたって行われた「IBSA柔道グランプリ2023大会 東京」が幕を閉じた。
東京パラリンピックを除けば、柔道としては国内で開催する過去最大規模の大会。43ヶ国・188人の選手が集まり、熱い戦いを展開した。
「観客に見てもらう」ということ
今大会の開催が決まったのは昨年11月。かねてよりIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)に対して行ってきた誘致活動が結実した。
グランプリ大会は、パラリンピック・世界選手権に次ぐ大きな大会。日本で開催することによりパラ柔道を見てもらう機会を増やすとともに、競技の普及・発展につなげたいという連盟の思いがあったからだ。
さらに、健常の柔道の国際大会「グランドスラム東京2023」と同時期に、東京体育館でのジョイント開催。グランドスラムの大会期間中にパラ柔道のエキシビジョンマッチが行われると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。
「IBSA柔道グランプリ2023大会 東京」には、新たな試みがあった。
選手たちの視覚障害を可視化する「VISIONGRAM」だ。株式会社電通と、連盟理事を務める元選手の初瀬勇輔氏が中心となって開発したビジョンフィルターで、選手それぞれの見え方がスマホのカメラ機能などを通して疑似体験できるというプログラムだ。
「見えていない、もしくは見えにくいのに柔道をしている」をいうことが頭では分かっていても、その”スゴさ”は実感しにくい。まだ今後の活用方法は決まっていないそうだが、VISIONGRAMを通して、より競技に対する関心と理解が深まったという来場者の声が聞かれたことは、ファンづくりの大きな一歩だ。
連盟それぞれの試行錯誤
新たな試みにチャレンジしている柔道。しかし今大会、東京体育館のスタンドが埋まるほどの動員には至らなかった。
柔道だけでなくさまざまな連盟が、ファンづくりや競技発展に奔走しているところだ。
車いすラグビーは東京パラリンピック中、公式X(旧Twitter)の”中の人”が大活躍。日本が銅メダルを獲得してファンの注目が最高潮になっている瞬間に、「今後の大会予定」「ボランティアや選手の募集」などをつぶやいたのは、絶妙なタイミングだった。
以降も国際大会ではパブリックビューイングを開催したり、国内大会では選手の缶バッヂが当たるガチャガチャを会場に設置するなど、ファンの「推し活」精神を絶やさない工夫がなされている。
パラパワーリフティングは、「かっこよさ」が売りだ。音響と照明にこだわり、昨年から「築地本願寺」で大会を開催。「寺」でのプレーは、海外選手に日本文化を知ってもらうきっかけにもなる。
40年以上の歴史のある大分国際車いすマラソンは沿道で観客がいっぱいになる光景があるし、ワールドパラトライアスロンシリーズ横浜大会も地域に根付いてきている。その一方で、まだまだ観客席が閑散としている競技も少なくない。そこには、やはり「そもそも大会がいつ、どこで開催されているのかが知られていない」「パラスポーツに興味はあってもどのように見ていいかわからない人が多い」という背景があるからだろう。
競技の結果という「点」で伝えるだけではなく、これまでの道のりや周辺事情も含めた「線」で伝え続けて、ファンを増やしていくこと。これが、私たちメディアに課された使命であると改めて感じた。
(校正・佐々木延江、そうとめよしえ、地主光太郎)