関連カテゴリ: オーストラリア, サッカー, 取材者の視点, 国際大会, 夏季競技, 新着, 重度障害, 電動車いすサッカー — 公開: 2023年10月31日 at 12:45 AM — 更新: 2023年11月16日 at 9:32 PM

電動車椅子サッカーW杯閉幕 日本代表が引き継ぐべものは

知り・知らせるポイントを100文字で

オーストラリアで開催されていた電動車椅子サッカーW杯が閉幕し、日本代表は7位で大会を終え、内海恭平選手がベストGK賞を受賞。閉幕の翌日からは鹿児島で、『全国障害者スポーツ大会』オープン競技として電動車椅子サッカーの大会が開催。W杯の選考に漏れた選手たちが躍動した。

オーストラリア・シドニーで開催されていた第4回電動車椅子サッカーW杯は、10月20日、フランスの2大会連続優勝で幕を閉じた。日本代表は、目標としていたベスト4以上には届かず、7位で大会を終えた。

大会には10か国が参加、15日より、総当たりのリーグ戦が行われた。
日本代表は、初日フランスに0-7と敗れ、2日目ウルグアイに2-2、アイルランドは0-0と引き分け、3日目オーストラリアに1-1、アメリカには0-2と、3分け2敗で3日間5試合を折り返した。
(3日目までの試合は、こちらの記事を参照 https://www.paraphoto.org/?p=37713

オーストラリア戦で競り合うGK池田恵助と5番Dimitri Liolio-Davis   写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

日本代表は、3日目以降、比較的障害の重いクラスであるPF1の選手2名が体調不良でベンチ入りできず、最終戦まで6人で戦わざるを得なかった、残された6名は、比較的障害の軽いPF2の選手が4名、PF1の選手は塩入新也、中山環の2名、試合にはPF1の選手が2名以上出場しなくてはならないことから、塩入、中山は残り7試合フル出場を余儀なくされた。彼らがコートを離れる時は3名で試合をすることになる(電動車椅子サッカーは4人制の競技である)。

第6戦 vs北アイルランド 今大会初勝利
日本代表の初勝利は大会4日目(10月18日)第1試合6戦目の北アイルランド戦だった。
日本は塩入新也、中山環、PF2はGK池田恵助、そしてこの試合から「気合を入れて鉢巻をして臨む」平西一斗のコンビでスタート。
キャプテンの内海恭平が「パスサッカーに対応するなら池田、平西。落ち着かせるところは内海、三上(勇輝)かな」と語るように、普段同じチーム(DKFBCディスカバリー)でプレーしている池田、平西、長年日本代表で苦楽を共にしてきた内海、三上の、それぞれ特色の異なるコンビを、近藤公範監督が「相手に合わせてどういう戦術でいくか」ということで使い分けていった。

この試合では狙い通り、日本が序盤からパスをつなぎボールを大きく動かしていく。
開始早々、塩入、池田、平西、中山とつなぎ、最後は塩入がシュート、ゴールにはならないが連動した攻撃を見せる。
そして4分、ゴール前でFKのチャンスを得ると、平西、池田コンビがポスト脇で待つ中山につないで 中山がゴール。中山環の日本代表公式戦初ゴールとなった。
平西は「ディスカバリーでいつもやっていることで 日本にいる時にたくさん練習していた形」と振り返る。

日本のゴールを喜ぶ日本選手団関係者 写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

日本はその後もスペースを使いボールを動かすサッカーを体現していく。
16分には中山からスペースへ走りこむ塩入へのスルーパスから、GKと1対1になる場面も見られた。

後半に入り、35分には平西のFKを中山が再び蹴り込んで2-0。
40分には交代出場の三上勇輝がインターセプトし中山へ、中山は逆サイドの内海恭平へ、内海がきっちりと蹴り込んで3点目が入った。
「日本が目指している、スペースを使いボールを動かすサッカーが実現できた得点」と近藤監督は振り返った。
日本は3-0で完勝、今大会の初勝利となった。

この試合からは最年長でPF1塩入の負担を軽くしようという意図もあり、ゴールエリアに下がってのプレーも見られた。W杯では、1対1で相対するときの判定基準が日本国内よりゆるく、衝撃をまともに受け首を痛めるということもあったようだ。
もう一人のPF1である中山環はフル出場していくなかで、大会中に急激な成長曲線を描いていく。

アルゼンチン戦 入場を待つ選手たち アルゼンチン先頭の10番Zegarelliが大会MVPを受賞した  写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

第7戦 vsアルゼンチン ベスト4が遠のく
その日はアルゼンチンとも対戦。アルゼンチンはその時点で勝ち点7で5位、勝ち点6で7位の日本がベスト4に進出するためには絶対に勝たねばならない相手だった。
日本は北アイルランド戦と同じ塩入新也、中山環、池田恵助、平西一斗の先発。

試合は1対1に強いアルゼンチン10番Zegarelliに押し込まれるなど、終始攻め込まれる展開が続く。
そこで12分、1対1に強い内海恭平、三上勇輝を、池田、平西に代えて投入。
何とか押し上げようと試みる日本は、何度かチャンスを作り出す。
14分には内海の左サイドのキックインからから中山へ絶好のパスが通るが、シュートはポストを直撃、惜しくもゴールにはならない。
その後はアルゼンチンの攻撃が続き、日本は我慢の時間帯が続く。

後半、アルゼンチンの攻撃に耐えつつ得点の機会を窺うものの、なかなか糸口がつかめない日本は30分、「点を取りにいこうと、ボールを動かすための積極的な交代」で流れを変えようと内海、三上に代えて池田、平西が投入される。
しかし交代直後、ハーフウェイラインまで押し上げた池田が10番Zegarelliに裏を取られ、そのままドリブルで持ち込まれ、先制点を許してしまう。
なんとか追いつきたい日本だが、相手陣内までボールを運べない。そして35分には池田、平西に代わり、再び内海、三上が入る。しかしゴールは遠く、アルゼンチンに0-1で敗れた。
この結果、自力でのベスト4進出の可能性がなくなった。

「ドリブルや駆け引きは、南米らしさ、リズムが違ったり、その強さはすごく感じた。そこを打開できなかったことに敗因はあった」と近藤監督は振り返った。
10番Zegarelliは前回2017年大会ではチーム最年少で出場した選手、その時は日本が3-2で勝利したが、その後10番Zegarelliは大きな成長を見せ、チームは4位ながらも今大会のMVPに選出された。

イングランド戦を前にスピードチェックを受ける塩入新也 10km以下の設定になっているかどうかチェックが行われる 左は近藤監督  写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

第8戦 vsイングランド
大会5日目(10月19日)第1試合の相手は、20年ほど前、日本が電動車椅子サッカーを伝えたイングランド。その後イングランドは力をつけ、前回大会では3位。そのイングランド相手にどこまでできるか。
日本の先発は塩入新也、中山環、そしてPF2は内海恭平と池田恵助。塩入がゴールに下がり、GKユニフォームを着た内海はセンター、池田は前目のポジション。合宿でも様々な組み合わせを試してきていた。

イングランドは序盤からボールを大きく動かし、日本の隙を窺う。
そして7分、8番Boldingの縦パスを、右サイドで受けた10番Maclellanがダイレクトで折り返し、ファーで待つ4番Commonが直接ゴールに蹴り込む。塩入がぎりぎりのところで防いだかに見えたが、ゴールの判定。
イングランドの、スペースを使いボールを動かす展開から先制点を奪われる。

日本は相手陣内に攻め込むものの、有効なシュートまでにはいたらない。
16分、イングランドは自陣でボールを奪うと、1タッチプレーの連続で押し上げる。センターと右サイドでパス交換を繰り返し、パスコースが空いたところで10番が9番にクロスを通す。エリア内で守る内海と塩入が振られると9番はリターン、10番Maclellanがゴールを決めた。すべて1タッチでつながった攻撃、日本は完璧に崩された。
18分にはオウンゴールから3失点目。日本は0-3で前半を折り返した。

後半、池田に代え三上勇輝が入る。
フィニッシャーとしては覚醒してきたが、なかなかボールに絡めない中山がゴールに下がり、塩入が前線に張る場面が増えてくる。
なんとか1点を返したい日本は、三上、内海が押上げ相手陣内に迫る局面も増えてくる。
27分には三上、内海、塩入とつながり塩入がシュートするものの、惜しくも8番Boldingに防がれる。

38分、塩入はなんとか1点を奪おうと「ゴードン(GK)にパスが来た瞬間をねらえば十分チャンスはあるだろう」と前がかりになったところへ、ボールが脛に直撃してしまう。
いったんは「大丈夫」と伝えたものの、「痛過ぎてダメだ」とベンチに下がった。
以後、3人で戦った日本は0-3で敗れた。
イングランドは、日本が目指す「スペースを使い、ボールを動かすサッカー」を体現し、いわばお手本のようなチームでもあった。
塩入はチームドクターの鈴木医師が応急処置を施し、「出るしかない」という強い決意で次戦にも出場することになる。

デンマーク戦 塩入は負担軽減のためゴール前に下がった 黄色GKユニフォームは三上勇輝  写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

第9戦 vsデンマーク ~ 予選リーグ終了
日本の先発は、塩入新也、中山環、PF2は三上勇輝、平西一斗の組み合わせ。
塩入はゴールエリアに下がり、負担軽減を図る。GKユニフォームは三上。
日本は三上が押し上げ、デンマーク陣内でのプレー時間が多く惜しい場面も見られたが、なかなかゴールには結びつかない。
17分平西に代わりGKユニの内海恭平が入り、三上は黄色のGKユニを脱ぎ青いユニフォームに変わる。
後半11分(31分)、中山がデンマークのバックパスに果敢にプレスをかけシュートするも、惜しくもゴールポストに跳ね返される。
その後は攻め込まれる場面が増えたがゴールを許さず、スコアレスドローで終えた。

日本は予選リーグ9試合を1勝4分4敗、勝ち点7、得点6、失点16、得失点差-10の戦績で終え7位となり、7位決定戦で予選リーグ8位のウルグアイと対戦することとなった。

試合終了後、塩入は現地の病院へ向かった。骨に異常はなかったものの、痛みは大きかった。

大会最終日 7位決定戦 vsウルグアイ
ウルグアイは予選リーグで2-2と引き分けた相手。 
先発は足を固定した塩入新也、中山環、PF2はGK池田と平西のコンビ。
7分には自陣ゴールエリア前から池田、塩入、平西、塩入、中山と1タッチでパスがつながり、中山のシュートはGKに阻まれたものの、コート全面でボールを動かしウルグアイゴールに迫る。
12分には相手相手GKからの縦パスを中山が直接前突きでシュート、13分には塩入のキックインから池田がロングシュートを放つもわずかにゴールを外れる。

18分には平西に代えて三上勇輝が入る。
そして前半アディショナルタイム、池田のCKを三上が決め日本が先制点をあげる。
後半、30分には池田に代わって内海が入り、終始相手陣内へと押し込み続け、1-0と勝ち切った。

「チームとしてボールを動かして、いい形で、最後までやり通せた試合だった」と近藤監督は振り返った。
日本代表は最終戦を勝利で飾り、7位で大会を終えた。

ウルグアイ戦で決勝ゴールを決めた三上勇輝  写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

大会の成果・課題
大会を通じて「個人的なパフォーマンスでは納得できることが少なかった」と7位決定戦後に語っていたキャプテン内海恭平は、翌日のクロージングセレモニーでベストGK賞を受賞した。
各国GKの攻撃参加は以前より多くなっているものの、予選リーグのウルグアイ戦ではCKからアシスト、終了間際にはCKからオウンゴールを意図的に狙って得点、北アイルランド戦では流れの中からフィニッシャーとしてゴールを奪う攻撃力、1対1でもなかなか押し負けしない粘り強さ、最後尾から大声を出してチームを引き締めるキャプテンシー、海外にはあまりいないタイプのGK像が評価されたのではないだろうか。

日本代表キャプテン内海恭平(GKの黄色ユニフォーム)は ベストGK賞を受賞した 写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

日本代表が今大会で目標としていたのはベスト4以上、残念ながら目標には届かなった。
山田貴大、宮川大輝の体調不良で、10試合中7試合を6人で戦わざるを得なかったことは、日本にとってかなりの痛手だった。 
「一番悔しいのは山田、宮川。8人全員が大切なキーパーソン。それぞれに役割もあった。それが変わってしまったのは厳しいところ。ですが役割も交代しながら選手みんなで分担してチームのために何ができるか、ベストを考えながらチームで戦えたと思っています」と近藤監督は大会を振り返った。
一方「海外はドリブルのスピードや展開も速く、なぜ速いのか分析していかないと日本は置いていかれる。戦術的な面でも日本はどうやってイニシアティブをとって得点を取っていくのか、駆け引きのところを含めて足りないところもたくさんある」と日本代表の課題も語った。

負傷しながらも試合に出場し続けた塩入新也  写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

塩入新也は「日本の選手は足元(フットガードのつけ根付近)にトラップする。そうするとすぐにプレッシャーがくる。すぐに、はたけばよいのだが。海外は前(フットガードの先の部分)にボールを置く、その分前への推進力がある」と海外の選手たちの印象を語る。

1対1の競り合いの局面は、日本国内との違いを感じた選手も多かった。
塩入「1対1の粘り強さが必要」
内海「1対1の質だったり、前突きの質だったり、もっともっと上げていかないと海外で通じない」(前突きとは、フットガードの全面でボールを押し出すようにボールを蹴ること)
平西「1対1の押し合い。日本だったらファールになっているところがファールにならない。(フットガードの)前同士なら許される」
日本では近年、押し合いでは厳しくファールを取るようになっていたが、今回のW杯の基準はかなり異なると選手たちは感じていたようだ。

塩入は、前回大会より電動車椅子の加速の設定などを上げて大会に臨んだ(速度は10kmに制限されているが、回転や加速の設定は制限されていない)。にも関わらず、出足で負けたり、粘れなかったりということも多かった。その一因として、日本の選手たちが使用しているウレタンタイヤではなく、「空気タイヤを使用している選手が多かった」こともあるのではないかと塩入は語る。
試合会場によって床面のグリップはかなり異なる。空気タイヤは管理に手間がかかるが、床面に状況に合わせて空気圧を変え、電動車椅子の性能を無駄なく床面に伝えることができる。
しかし急発進や急加速に、選手たちの体幹がついていけるのか。そういった問題も避けては通れない。

パスの精度、キックの精度も課題だと、塩入、そして内海恭平も語る。「(自分の)キックの球は速いですけど、精度が低く逆襲を食らうことがあったので、精度のところは改めて見つめ直さないといけない」
2017年大会では、元・日本代表東武範の精度の高いキックからのセットプレーが日本の得点源にもなっていた。精度のみならず、相手の隙をついたタイミングで蹴る『いやらしいテクニック』は見事だった。そのあたりは今大会、足りない部分だったのかもしれない。
もちろん、やりたいサッカーができない、うまくいかないときの臨機応変な対応、戦術も課題だろう。

PF1の中山環は大会3日目以後の7試合に全てフル出場した  写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

またメンバー構成については、今大会PF2(比較的障害が軽いクラス)の選手はこれまでの最多の4名、PF1(比較的重いクラス)は最少の4名で大会に臨んだ。PF1の選手が2名以上出場しなくてはならないルールの元、体調不良者2名が出て、残った2名の選手が7試合フル出場しなくてはならなくなったのは致し方なかったが、元々PF1は4名ではなく5名選ぶべきという意見もあった。ただPF2の選手4名がチームの屋台骨としてうまく機能していたことも確かで、各々のクラスから何名ずつを選ぶべきか、幅広く開かれた議論になっていってもよいのではないだろうか。
また男女混合スポーツであることを考えると、女性枠を設けてもよいのではないかという意見もある。このあたりも同様だ。

平西一斗 初先発の試合では緊張したが、大舞台を経験したことによってメンタル面も成長した 写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

平西一斗に大会を通じたプラス面を問うと「すごくレベルが高いフランス、どんどんパスでつないで得点していくイングランド、1対1の技術が秀でてドリブルが強いアルゼンチン、パワフルで相手がいやがるサッカーをしてくるアメリカ、いろんな国と試合ができて、それぞれの特色に対してどうプレーしていくべきか、自分のなかのノウハウというか、この時はこうするということが蓄積されていった」という答えが返ってきた。
「どうプレーしていくべきかというノウハウ」を、実戦にどう落とし込んでいくか、今後に向けての課題とも言えるだろう。

そのためにもキャプテンの内海が「次の予選も始まりますので、継続的な代表活動を続けてくれればなと思っています」と語るように。継続的な代表活動が必要になってくる。

引継ぎ、引き渡していく日本代表という存在 ~ 鹿児島での全国障害者スポーツ大会

拙作ドキュメンタリー映画「蹴る」のなかで、元サッカー日本代表、障がい者サッカー連盟会長の北澤豪氏は「今まで築いてきた日本代表を引き継いで、さらに大きなものにして、次に引き渡さなくてはならないのが日本代表」と語った。

7位決定戦の翌21~22日の2日間、特別全国障害者スポーツ大会『燃ゆる感動かごしま大会』オープン競技である電動車椅子サッカーの大会が鹿児島市内で開催された。
電動車椅子サッカー競技が行われるのは今回が初めてで、大会には開催県の鹿児島、翌年開催地の佐賀、広島、兵庫、神奈川、計5県の選抜選手たちが参加した。
当然ながら日本選手団の帰国は間に合わず、代表選手抜きの大会となった。
しかし元日本代表選手や最終選考で落選した選手たちの意地がぶつかりあう大会ともなった。

決勝は神奈川県選抜と地元鹿児島県選抜の対戦となった 写真提供・松本力/日本電動車椅子サッカー協会

神奈川県はW杯に出場した三上勇輝、中山環を欠いても、代表候補合宿に参加していた菅野正紀、高林貴将、そしてW杯最終選考で漏れた永岡真理、佐藤虎汰朗と層が厚く、決勝では地元鹿児島を4-1と退け優勝した。
大会を通じて4ゴール1アシストの永岡真理は「日本代表に落ちてから、この大会で優勝することを目標の一つとしてきたので、優勝できたことは本当に嬉しかったです」と喜びを隠さない。
6ゴール3アシストの佐藤虎汰朗は「(W杯で)同じ年齢くらいの(中山)環とかが得点入れてたんで、僕も世界で戦いたいと思いました」とチームメイトである中山環選手の躍動に刺激を受けてのプレーだった。

FKからゴールを狙う永岡真理(左)佐藤虎汰朗(右) ともにYokohama Crackersでプレーしている 写真提供・松本力/日本電動車椅子サッカー協会

準優勝の地元鹿児島は日本代表塩入新也を欠いたが、2017年W杯で世界を驚かせた東武範がいる。しかし東は「座っているだけでもきつい」状態で、前半途中にいったん退き後半途中から再び出場するという、休み休みの出場が多かった。「イメージも出来ているし、こうしたいと頭の中にはあるんですけど、うまくいかないです」と、もどかしさを感じながらのプレーだった。
しかし鹿児島には東、塩入が自ら手本を示しながら指導し、急成長を遂げつつある選手たちがいた。決勝は「悔しいの一言」だったが、2ゴール1アシストで決勝進出の原動力ともなった井戸崎竜斗は「タケさん(東武範)たちのサポートのおかげで何とかここまでこれた」と語る。
普段はコスモ北九州で練習、月に一度、鹿児島まで練習に通う安藤心晴は、母の美紀さんが「ミリ単位!」と評するほどの東、塩入の細やかな指導で、メキメキと力をつけ、4ゴール3アシストの活躍を見せた。

Nanchester United鹿児島の中軸選手へと成長した井戸崎竜斗 写真提供・松本力/日本電動車椅子サッカー協会
4ゴール3アシストの活躍をみせた安藤心晴 写真提供・松本力/日本電動車椅子サッカー協会
2017年アメリカW杯ではセットプレーキッカーとして世界を驚かせた東武範 写真提供・松本力/日本電動車椅子サッカー協会

3位は広島、3人での出場だったが、元レスリング選手で、顎で電動車椅子を操作する谷本弘蔵や3ゴールを決めた19歳横山真也の活躍もあった。
横山が乗る電動車椅子は元日本代表選手だった故・中野勇輝(2021年8月死去)が生前に使用していたものだ。中野は2011年W杯や2013年APO(アジア・パシフィック・オセアニア)カップなどで日本代表選手として活躍した。
「中野さんが『このストフォー(ストライクフォース)を僕に渡してくれ』という遺言を残されていて、お母様から話を聞いて」横山は電動車椅子を譲り受けた。
その後「中野さんの気持ちを受け継いで自分もさらに高みに行けたら」とプレーを続けてきた。
「時々中野さんの魂が乗り移っているんじゃないかなと感じることがあります」。

日本代表からチームへ、下の世代へと、技術、そして魂が引きつがれ、受け渡されていく。

故・中野勇輝から譲り受けた電動車椅子に乗る横山真也  写真提供・松本力/日本電動車椅子サッカー協会

W杯優勝はフランス
フランスとイングランドの対戦となったW杯決勝は、1-1で延長でも決着がつかずPK戦までもつれこみ、フランスが2大会連続の優勝を飾った。
PKはこれまでの「GKはキッカーがボールを蹴るまで静止していなければならない」というルールから大きく変化、ゴールラインの後方では自在に動いてよいことになった。これまでの緊迫した『静』のイメージから、GKとキッカーが激しく動いて互いを探り合う『動』的なイメージへと劇的に変わった。今後は日本の選手たちも対応していかなくてはならない。

電動車椅子サッカーは2006年に国際ルールが統一、同年日本代表が初めて立ち上げられ、2007年にW杯が初開催された。この間、電動車椅子サッカーは技術、戦術、電動車椅子の性能等、大きな進歩を遂げてきた。そしてこの先も進化を遂げていくだろう。
日本代表も、先輩から後輩へ、様々な形で引き継がれてきた。そしてさらに大きなものとなって引き渡され、2026年アルゼンチンで開催が予定されているW杯を迎えることになる。

決勝は前回優勝国フランスにイングランドが挑んだ 写真提供・日本電動車椅子サッカー協会

2023年W杯の最終順位は以下
1位 フランス
2位 イングランド
3位 アメリカ
4位 アルゼンチン
5位 デンマーク
6位 オーストラリア
7位 日本
8位 ウルグアイ
9位 北アイルランド
10位 アイルランド

(校正・編集・佐々木延江、地主光太郎、そうとめよしえ)

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