「バーミンガム2023ロービジョンフットサル世界選手権」グループステージ第2戦の試合前入場で目を引いたのは「気合を入れるために」スキンヘッドにした岩田朋之の頭。チームとして4度目の世界選手権挑戦だが、これまでの戦績は第1戦のウクライナ戦も含めて17戦全敗だ。しかし選手たちは「ポジティブな雰囲気」「充実した雰囲気」のなか「絶対に勝つぞ」「勝てる」という気持ちで試合にうまく入っていった。
スタートは、ピヴォにキャプテンの岡晃貴、フィクソには赤崎蛍、アラはB2(より見えにくいクラス。2人以上出場しなくてはならない)の中澤朋希と竹内雄亮。直前合宿ではB2が想定されていた羽生健太朗がB3と判定とされ、代わりに竹内が入ったが、あらゆることを想定してきた金川監督体制ではさほど問題となることはないはずだ。GKゴレイロには加渡主悟が入った。
第1ピリオド、トルコの選手たちが何度も日本ゴールに迫る。そのたびに日本の選手たちは切り替え早く自陣に戻りトルコ選手に食らいつき、フリーではシュートを打たせない。
途中から入った選手たち、岩田、篠瀬翔平、角谷佳祐、大平英一郎、羽生健太朗も同様だ。
ブロックできなかったシュートはGKゴレイロの加渡がビッグセーブを連発。ロービジョンフットサルのルールではGKはペナルティエリアから出ることはできないが、その枠内で効果的な飛び出しを見せる。
守りだけでなく「前からプレスをかけるというプラン」だった日本は、ボールを奪うとフィクソの赤崎が持ち上がり再三シュートを放つ。
そうした緊迫した流れのなか、第1ピリオド終了間際に赤崎の先制点が生まれることになる。
赤崎は左サイドハーフウェイライン付近からカットイン、バランスを崩しそうになるが持ちこたえてゴール右隅に決め、日本が貴重な先制点をもぎ取った。
赤崎は「ずっと練習してきた形で、うまくいった」という。
第2ピリオド8分、赤崎が自陣でボールを奪うとそのまま持ち上がってGKと1対1となり、落ち着いてゴール右隅に流し込み2点目を奪う。
その後も選手たちの集中力に綻びはない。
12分、晴眼者のGK加渡が飛び出し無人のゴール前に折り返されても、B2クラスの竹内がカット、相手と競り合っている間に加渡は体勢を立て直し、赤崎や中澤も即座に駆け付け決してゴールを許さない。
トルコの選手たちはいらだちを抑えられず、イエローカードをもらう局面も増えてくる。最後はGK細谷篤史、最年長の辻一幸もピッチに立ち全員が出場、終了間際に1点は奪われたものの、2-1の勝利、歓喜の瞬間を迎えた。
「結果を出せたのは良かった」
金川武司監督、2ゴールを決めた赤崎、再三の好守を見せたGK加渡が口をそろえる。
しかし「まだ予選突破しただけ」とは赤崎の言葉だ。
GK加渡は「自分のコーチングのミスがあってピンチを招いた。あれだけピンチを作られたのはそういうこと。そこは修正の余地がある」と自らのパフォーマンスを分析する。見えにくい選手へのコーチングと自らのプレーの両立は、GKにとって、この競技の難しい点だ。
この試合、金川監督自身の戦術の組み立ての自己評価は30点。「だが30点でも勝てた。練習のなかで、選手たちに何種類も引き出しを与えてきた。その引き出しを選手たちが活用し、頑張ってくれた」という。
日本代表は世界選手権初勝利、グループステージ2位通過となり、初のベスト4進出を果たした。
その先には「新しい扉を開けられる、新しい階段を上がれるチャンスが待っている。そこに向けて最高の準備をしていきたい」と金川監督は早くも先を見据えた。
選手たちも試合終了後「目標を達成した喜びもあったが、帰ってしっかり準備しようという雰囲気」だったという。
準決勝の相手はグループステージ3試合で10得点、1位通過の地元イングランド(ランキング2位)に決まった。
キックオフは日本時間の21日月曜22時45分。
さらに新たな歴史が刻まれていく。
<参考>
ロービジョンフットサルの特徴や各選手の見え方等は、以下の記事を参照。
https://www.paraphoto.org/?p=36888
(校正・佐々木延江、地主光太郎、そうとめよしえ)