ありがとうケビン!ベストゲームで花道を飾った6年半の軌跡~車いすラグビー日本代表

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今大会限りで退任した、車いすラグビー日本代表のケビン・オアーHC。6年半の間に世界選手権の金メダルや東京パラリンピック銅メダルなど、日本を強豪国に押し上げた立役者だ。選手たちと成し遂げたかった「パラリンピックで金メダル」。しかし、「金メダルを取れる日本を作り上げることはできた」と晴れやかな表情だった

試合終了間際。日本を強豪チームに押し上げたアメリカ人ヘッドコーチは、ベンチの選手たちと順番に手を合わせ、ハグを始めた。
そして、終了のホイッスルーーーこれまでの6年半を反芻するかのように、コートを見つめていた。

試合終了間際、キャプテンの池透暢と抱き合うケビンHC 写真・そうとめよしえ

7月2日、車いすラグビーのアジア・オセアニアチャンピオンシップ(東京体育館)決勝戦。
日本は世界王者オーストラリアに55-44と11点差で圧勝し、パリの切符をつかんだ。
ケビン・オアー日本代表HCにとって、これがラストゲームとなった。

コート上に指示を出すケビンHC。とにかく熱いハートの指導者だ 写真・山下元気

ケビンHCは2017年から日本の指揮を執り、2018年の世界選手権では日本勢初の金メダル、2021年東京パラリンピックでは2大会連続の銅メダル。一時は世界ランク1位にも躍り出るなど、日本を「海外から追われる存在」に成長させた立役者だ。

普段はチャーミングな笑顔の持ち主。日本食のお気に入りはすき焼き 写真・秋冨哲生

プライベートでは積極的に日本語を覚えたり、食や観光といった日本文化を楽しむなど、日本を愛していたケビン。
選手やスタッフだけでなく、ファンからも愛され、日本車いすラグビー界に欠かせない存在だった。

しかし今年4月、HC退任の意思を申し入れ、5月にはチームミーティングで伝達。選手やスタッフには、衝撃が走った。
アラバマと日本を頻繁に往復する生活。それにより、健康上に影響が出ていることが理由だ。

優勝決定後、円陣を組む日本代表 写真・秋冨哲生

なんとか、ケビンHCが続行する方法はないものか。合宿はオンラインで指導してもらい、大会だけ日本に来てもらうことで、負担を軽減できないか……自問自答する選手たち。けれど、ケビンHCが大切にしているのは、リアルで指導することで伝わる熱量。
退任の事実を受け入れ始めた選手たちは、ラストゲームでケビンHCに最高の試合を見せようと、一つにまとまり始めたのだった。

ケビンHCが絶大なる信頼を置いていたキャプテンの池透暢(3.0/Freedom) 写真・山下元気

メディアの取材で、キャプテンの池透暢が「ケビンHCから言われた言葉で一番印象に残っているのは?」と聞かれ、出てきた答えが「プレッシャー、ですね」と笑った。それくらい、ケビンHCは試合で相手にプレッシャーをかけることを徹底して教えていた。

その言葉どおり、今大会ではリードされている展開でも強いプレッシャーで相手チームにタイムアウトを使わせたり、ボールを奪われてもすぐさま奪い返すシーンが象徴的だった。「ケビンラグビー」が花開いた瞬間といってもいいだろう。

自ら発掘しずっと目にかけてきた21歳の橋本勝也は、攻守にわたって試合を引っ張り、ベストプレイヤー賞も授与された。

攻守にわたって活躍した橋本勝也(3.5/TOHOKU STORMERS)写真・秋冨哲生

東京パラリンピックでも、昨年の世界選手権でも、ケビンHCは試合前に「自分たちは世界一のチームだと思うか?」と選手たちに問い続けてきた。今大会は、同じ問いかけに初めて全員がスッと手を挙げた。「パリの切符を取れたことはもちろんのこと、世界一のチームらしい試合ができたことが、僕は嬉しいんです」と、副キャプテンの羽賀理之は振り返った。

試合後、コートを回ってファンに感謝を伝える日本代表 写真・秋冨哲生

大人も子どもも詰めかけ満員となった、東京体育館。
閉会式後に行われたケビンHCのセレモニーでは、これまでの思い出を振り返るVTRが上映され、ファンも涙を流していた。

ケビンへのメッセージが書かれたプラカードも多く見られた。セレモニーでは涙するファンの姿も 写真・山下元気

ケビン・オアーが残してくれたものーーー「車いすラグビーは、国籍も、性別も、年齢も関係なく、みんなが熱くなれるもの」そう教えられた気がした。

パリパラリンピック、車いすラグビーは来年8月29日~9月2日! 写真・山下元気

(写真取材・秋冨哲生、山下元気、そうとめよしえ 校正・佐々木延江)

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