年一度の「日本知的障害者選手権水泳競技大会(WPS公認・日本知的障害者水泳連盟主催)」が7月2日、横浜国際ブール(横浜市都筑区)で開催され、知的障害・ダウン症・身体障害・デフのスイマー353名がレースに挑んだ。大会はさまざまな障害の選手が参加できる「マルチクラス」の設計となっている。第4回大会(2001年)から横浜で開催されコロナ禍でオリパラが延期された2020年に中断したが徐々に出場者数を回復し第26回大会となる。
今大会は、2024パリパラリンピック前のシーズン最大のイベント、7月31日からマンチェスター(イギリス)で開催される世界選手権(IPC国際パラリンピック委員会主催)を控え、出発前最後の公式レースとなった。
世界記録王者・山口「世界にはさまざまな選手がいる」
2019年の世界選手権(ロンドン)で男子100メートル平泳ぎで世界記録を更新し、以来何度もその記録を塗り替えてきた山口尚秀(知的障害・四国ガス)は、この日50メートル平泳ぎで日本記録を更新した。スプリント力に取り組んでいた山口は「キックの強さ、ストロークの程よいコンパクトさで悪くない泳ぎだった。もっと速くなれば健常者の記録にたどりつけると思う」と泳ぎの感想を述べ「海外では10代の選手も決勝に残っている。同世代もレベルが高く、彼らにうまく対抗できる自分になりたい」と、世界選手権への思いを語った。
知的障害日本代表の壮行会と記者会見が行われた
知的障害の日本代表は、世界記録保持者の山口のほか、芹澤美希香(宮前ドルフィン)、松田天空(NECグリーンスイミングクラブ溝の口)、木下あいら(大阪府)、村上瞬也(NECグリーンスイミングクラブ溝の口)の5人。
当日は、知的障害の日本代表の壮行会と記者会見が行われたほか、選手それぞれの練習環境で取り組みを進める身体障害の日本代表メンバーもレースに出場していた。
チーム・キムラ!充実の練習環境!
男子100メートルバタフライ世界ランク1位で金メダルを狙う木村敬一(全盲・東京ガス)は、順調だ。この日は3レースに出場。オリンピックメダリスト・星奈津美さんらとの新たなチーム環境のなかで取り組んできたフォームの確認ができた。木村は、
「午前の50メートル自由形では後半につながるいい泳ぎができた。(メインの)100メートルバタフライでは練習してきた姿勢づくりが実践でき、前・後半でひと掻きずつ多くなってしまったが、新しい領域にいけた。数ヶ月取り組んできたことが良い方向にむかっている。いままでより考えることが多く、忙しく充実した環境だ。1日1日、1本1本の泳ぎをいろんな視点から見て、考えたり、話し合う時間が増えている。東京パラの時、ひたすら勝つことを目指していた時とは違う」と練習環境の充実を口にしていた。
S5クラス、同郷のライバル対決へ
東京パラリンピック後、2度目の世界選手権出場となる日向楓(両腕欠損・宮前ドルフィン)は、この日、練習のためのレースとして長い距離を泳ぎ、タイムや体力の状況を確認した。最近力をつけてきた同じS5クラス、種目(50メートルバタフライ)に出場、同じ神奈川出身のライバル田中映伍と張り合う気持ちが励みとなっているようだ。
「(距離を泳いでみて)体力はついてきたと思う。最初から最後までスピードを出し切る泳ぎを課題にしています。世界選手権では(ライバルの)田中選手とともに自己ベストを目標としていき、お互いプレッシャーをかけあい2人で決勝に残り、最後は僕が勝ちたい」と日向は世界選手権への意気込みを語った。
世界への初挑戦
東京パラリンピック後に成長を見せ、期待を集める木下あいら(知的障害・大阪府)は、この日も100メートル自由形で日本記録を更新した。マンチェスターでは5種目にエントリーした。今年は初めてシンガポールへ海外遠征し、この夏、世界選手権を迎える。木下の成長とともにシーズンが進み、その道はパリへとつながっている。
「いままで一緒に泳いだことのない選手と泳ぐのが楽しみです。雰囲気に飲まれず、自分の泳ぎができるように頑張りたい。1日目に200メートル自由形があり、良いタイムを出せば、あとにもつながるので、まず1日目をがんばります」と、ドキドキ・ワクワクする気持ちを伝えた。
マンチェスターでの世界選手権は、昨年マデイラ(ポルトガル)で開催された世界選手権で参加がなかった強豪・中国が本領を発揮してくるだろう。東京パラリンピックから1年半という短い期間にパリを目指し切磋琢磨してきたという意味では、日本の選手たちも負けてはいない。
参考;
マンチェスター2023パラ水泳世界選手権
https://www.paralympic.org/swimming
日本代表チーム紹介
身体障害ほか、3月時点の記事(※保留の選手がそのままとなっています)
(校正・そうとめよしえ)