3年半ぶりに天皇杯が帰ってきた。車いすバスケットボールのクラブ日本一を決める『天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会』が1月20、21日東京体育館で行われ、パラ神奈川SCが22大会ぶりの優勝。新時代の幕開けを告げた。
新型コロナウイルスの感染拡大で2020、21年と開催が延期された天皇杯は3年8ヶ月ぶりの開催。多くの車いすバスケットボールファンが久々の有観客試合に沸いた。前回大会まで11連覇を達成した宮城MAXは今大会、主力選手の引退や世代交代が進み、多くの選手が天皇杯初出場となるなど苦戦を強いられた。
高さのNO EXCUSE、スピードの神奈川
新王者の称号をかけた決勝戦のカードはNO EXCUSE対パラ神奈川SC。東日本2次予選会の決勝でも戦った両者が大一番でも名を連ねた。
昨年6月から元日本代表ヘッドコーチの及川晋平氏を6年ぶりにヘッドコーチに迎え、組織力を強化したNO EXCUSE。対するパラ神奈川は男子U23世界選手権でチームを世界一に導いた鳥海連志(持ち点2.5)をキャプテンに擁し、いま最も勢いのあるチームの一つだ。チームカラーはそれぞれオレンジとレッド。各チームのカラーを身につけたファンたちが会場を二分した。
試合はドイツから帰国したエース・香西宏昭(3.5)の得点を皮切りに、NO EXCUSEの高さを生かした得点力が光り、第1クオーターは14対10でNO EXCUSEがリード。しかし第2クオーターは20対24でパラ神奈川が逆転し、どちらも譲らぬ戦いに。流れが変わったのは第3クオーター。パラ神奈川の持ち味であるスピードを徐々に発揮し、鳥海連志(2.5)、古澤拓也(3.0)、丸山弘毅(2.5)、西村元樹(4.0)の連携で次々に得点を決めると、28対40で神奈川が点差を拡大。最終クオーターは勢いそのままに44対51 で神奈川が躍進。“神奈川レッド”が会場を席巻した。
試合後キャプテン鳥海は「これまで宮城MAXが不動のチャンピオンとして(頂点に)立ち続けていた姿をずっと見ていた。このコートに立ちたかったし、あの姿になりたかった。これからしっかりと連勝できるように、また一から頑張っていきたい」と、新王者としての覚悟を語った。二桁得点をあげた丸山は「チーム全体が僕に打たせてくれるシーンを作ってくれた。前半はなかなか決め切れなかったけど、それでもみんな僕にパスしてくれて、後半決められて良かった」と、安堵の表情を浮かべた。
多様性いかし3位決定戦を制した埼玉
決勝に先立ち行われた千葉ホークス対埼玉ライオンズの3位決定戦では、埼玉ライオンズが勝利。第1クオーターは18対11で千葉がリードするも、第3クオーターで勢いをつけた埼玉が次々と得点し逆転。42対45で最終クオーターへ。チームカラーのグリーンに染まった応援席の声援をうけ、埼玉がさらに点差を広げると、最後は46対66と20点の差をつけ、3位決定戦を制した。
埼玉は昨年、2022年度男子強化指定選手に選抜された北風大雅(4.5)と東京パラリンピック出場の財満いずみ(1.0)が新加入。この日、活躍が光った北風はこれまでの苦労も滲ませた。「自分と財満選手は今シーズンからの加入で、チームから信頼を勝ち取るまでに苦労したところがあった。自分たちが入って(チームが)弱くなったと思われないように、結果を残したかった。最後は勝って終わろうと頑張りました」と、涙を浮かべた。埼玉は健常選手2名、女子選手1名を擁するチーム。「多様性を象徴していると思う。これが普通と思われるくらい、これから存在感を発揮して盛り上げていけたら」と笑顔を見せた。
世界一のU23メンバー「パリでのメダル目指す」
この日は昨年9月に行われた男子U23世界選手権で優勝した日本代表チームの優勝報告会も行われ、ファンに感謝が伝えられた。京谷和幸ヘッドコーチは「世界一という結果を勝ち取ることができた。でも、まだまだ我々にはやることがある。パリでメダルを取ることで本当の強豪チームと呼ばれるようになる。パリへ全力で向かっていきたい」と話し、来年のパリパラリンピックでの活躍を誓った。
(写真取材・秋冨哲生、校正・佐々木延江)