2022年9月17〜19日、2022ジャパンパラ水泳競技大会が横浜国際プールで開催された。全国各地から障害(身体・知的・聴覚)のあるトップスイマーが標準記録をクリアして出場した。多くの選手で激戦となった50m自由形に注目した。
若手による3つの日本新記録!
西田杏
女子S7クラス、西田杏(左腕・右足欠損/シロ)は、予選36秒16、決勝35秒45と日本記録を立て続けに更新した。
「予選は気持ちよく楽しくレースを泳ごうと挑みました。午後の決勝のほうが体が動くのが分かっていたので、そこに向けてという気持ちで泳いだんですけど、ちゃんと日本新記録を更新できて、予選から良い調子で決勝に向かうことができた。決勝は、久しぶりに(障害の一段階軽い)S8クラスの水上選手と隣で泳げたこともポジティブな良いことだった。水上選手が自己ベストも普段の練習も早いことが分かっていたので必死に食らいつこうという気持ちで泳ぎました」と振り返った。
好調の要因としては「東京のパラリンピック以降、新しい環境、新しい指導者、新しい練習内容でやってきたものが、今回は大会の前の調子もすごく良く、自信を持ってこの大会に挑むことができたので、良い記録が出たのかなぁと思ってます」と笑顔で語った。
南井瑛翔
男子S10クラスの南井瑛翔(左足首欠損/近畿大学)は、決勝で26秒10の日本記録、自己ベストを更新したことについて「ベストはベストなんですけど、ちょこちょこしかベストを出せていないので、あまり納得はいってない」と語った。50m自由形のあと出場した100mバタフライでも南井はアジア記録を更新した。
今後について聞かれると「まだまだ強化する部分はたくさんあると思いますので、しっかり今回のレースを見返して頑張っていきたい」と力強く語った。
福井香澄
女子S14クラス(知的障害)は、女子の福井香澄(滋賀遊泳会)が29秒07で日本記録を更新した。
軽度障害のクラスで世界に挑む挑戦者が増えた
S8
男子S8クラスでは、1、2日目の100m背泳ぎ、100m自由形で東京パラリンピック代表どうしの荻原琥太郎と高いレベルの戦いを見せてくれた窪田幸太(左半身麻痺/NTTファイナンス)が最終日50m自由形で自己ベストに挑み、予選・決勝とも大会記録を更新する泳ぎでクラスを制した。
東京パラ後、日体大を卒業、山田拓朗の勧めもうけてNTTグループの就職を得、現在は仕事仲間の理解・協力のもと競技中心の活動を続けている。
S9クラス同様に選手層も厚くなり、荻原とのトップ争いに今後も期待を集めている。
S9
女子S9クラスの福田果音(左腕欠損/KSGときわ曽根)は、31秒39を出した決勝のレースについて「予選より少しタイムを上げることはできたんですけど、ベストより0.2秒遅いタイムになってしまって日本記録を狙っていたのですごい悔しいです」と語った。
記録が伸びた要因については「現在のコーチは健常者の方の日本選手権で優勝するような選手を指導していて、すごく経験がある方です。片手で泳げることに興味を持ってもらい指導してもらったというのがタイムが伸びた理由だと思います」と、指導の良さを上げた。
福田は一年前くらいから義手を使ったトレーニングや体幹トレーニングを行い、パリパラリンピックではメダル獲得を目標に突き進んでいく。
男子S9クラスでは、ベテラン山田拓朗(左腕欠損/NTTドコモ)は決勝を26秒62で泳いだ。「泳ぎ自体はあまり覚えてないです。とにかく朝の予選がめちゃくちゃ調子が悪かったので、出ても26秒9くらいかなと思っていた。隣の(後輩の)岡島貫太君が調子良いのを知っていたので、さすがに負けるわけにはいかない、という気持ちも入って、良い緊張感で泳げたのが良かったかなと思います」と安堵した様子で語った。
S9クラスは選手が増え、決勝が単独で実施できるようになり、かつ若い選手が増えている。「とにかく国内でもレベルの高い争いができるというのはすごく嬉しいことだと思いますし、2位の岡島君も3位の川淵大耀君もすごく泳ぎが良いので、これからもどんどん記録が伸びていくと思います。そろそろ世代交代して若者に託そうかなとも思ってます」と述べつつも、「現役で泳ぎ続ける間は特に50m自由形に関しては意地でも勝ちたいなと思います」とベテランの意地を伝えた。
東京パラリンピック後の山田の一年間については、「パラリンピックが終わった直後に子供が産まれて、そちらがバタバタで、とにかく私生活が忙しかった。ここ5ヶ月間くらいずっと腰が痛く、コンディション的には良くはないですけど、その中でできることをやって、今日の決勝に関してはできる範囲ではまずまずの結果だったと思う」と、現状を伝えてくれた。今後については、来年のジャパンパラあたりを目標に50mの自己ベストを狙っていくようだ。
東京パラ後のベテラン勢は・・
木村敬一
男子S11クラス(全盲)の木村敬一(東京ガス)は、「予選からある程度のスピードを出して泳ぎましたけれども、決勝であげることが出来てとりあえず良かったかなぁと思いました。泳ぎも世界選手権の時よりも良かったように思いますし、ベストまではいかなかったけれども今日のところは良いと思いました。26秒70というタイムは、無理をしたらもうちょっといったのかもしれないですけど、今は(課題の)”姿勢作り”をしっかりとやっていきたいところだった。その中で、26秒9が世界選手権なのでやっていることは悪くないのかなと思いました」と、決勝の泳ぎを振り返った。
今、取り組んでいる”姿勢作り”について、「どうしても腰が揺れて、足が左に流れていく感じがあったので、揺れながらも安定させて、ストロークがちょっと減る形になる。この泳ぎで泳げているので今の状態でも僕的には満足です。まだまだ精度を上げていかないといけなかったところもありますので、(現段階で)まぁ良かったと思います」と、成果に満足している様子を見せた。
常に次の試合を目標として励んでいるという木村、「出る限り自己ベストを狙って泳ぎます!」と11月の日本パラ水泳選手権(長野県)に向けた抱負を力強く述べた。
視覚障害のクラス女子は、S11全盲の石浦智美(伊藤忠商事丸紅鉄鋼)が決勝で大会記録を更新、S13弱視の辻内彩野が予選・決勝ともに大会記録を更新した。
鈴木孝幸
男子S4クラス(四肢欠損)の鈴木孝幸(GOLDWIN)は、39秒45だった50m自由形決勝について「予選よりもタイムを上げようと思って臨んで、一応ちょっと上がったので良かったと思いますけど、自分の感覚では、もう0.3秒から0.4秒早いかなと思っていたので、この誤差はもう一度確認して詰めていきたいなと思います」と語った。左肩を痛めている状態で臨んだ試合だった。「100mよりも50mの方が出力が高くなるので、肩にくる負担は重いですけど、そこをケアしながら練習すべきなので、どういう風に出るかなというのを見たかった。例えば、世界選手権の時よりも肩の痛みは軽減された状態で泳げてはいるので、まぁそこは良かったなと思います」と分析した。
東京を最後のパラリンピックにと考えていた鈴木だが「来年7月マンチェスターでの世界選手権がパリパラ選考基準となるのであれば目指したいと思っている」と現在の考えを語る。「今年一杯はベースを作ることに終始して、来年から積み上げていくトレーニング、よりクオリティーの高いトレーニングを入れ調整していこうと考えている」と話した。
種目についてはタイムが伸びる種目に集中しようと考えているようで「短い距離に絞ろうと思ってます。50m自由形、平泳ぎ、100m自由形の3種目に絞ろうと思ってます。後は相手次第でもうちょっとメダルが狙いやすい種目が出て来れば、そこにフォーカスするかもしれません。今のところは短距離に絞っています」と答えた。世界選手権、アジアパラに鈴木がどの種目で挑戦するのかにも注目していきたい。
(写真協力・内田和稔 編集協力 佐々木延江、中村和彦)