去る9月10日、”ろう者のオリンピック”といわれる「デフリンピック」の2025年東京開催が決定した。
パラリンピック同様、夏・冬4年に1度開催されるデフリンピックについては、まだほとんど知られていないが、1924年フランスに始まる歴史はパラリンピックより古い。
今大会出場選手(身体・知的・聴覚障害)約250名のうち6名が聴覚に障害のある選手、そのうち星泰雅(マイナビパートナーズ)、齋藤京香(山梨学院大学)、平林花香(上宮学園)の3人が今年5月ブラジルで開催されたデフリンピックに出場した日本代表で、昼休みに囲みインタビューに応じてくれた。
デフアスリートは、補聴器等を外した状態での聴力レベル(聞こえる音の大きさ)が「55デシベル以上」。聞こえない、聞こえづらい選手へ出発音を伝える代替方法として光を発するスタートランプがある。
――デフの選手はスタート合図を見てスタートしますが、斉藤選手と平林選手は見てないようです。スタートはどうしていますか。
平林「自分はスタート合図はぎりぎり聞こえるので見ない。スタートの時に横の人をみて、スタートのTake your marksは聞こえる、音も聞こえるのでそれでスタートしています」
齋藤「私もTake your marksはぎりぎり聞こえるので下を向いています。ピストルの音も高い音なのでみんなと同じようにスタートしています」
星は、今朝の男子50m平泳ぎS15(予選)に出場、当初スタート早く一度は失格を言い渡されたが、すぐに取り消された。
星「今日は早くスタートしすぎて失格と思ったけど失格ではなかった。自分もみんなといっしょでTake your marksは聞こえるが、音よりも光のほうが速いことを知っているので、自分は見て、飛び込んでいます」
今年5月、ブラジルで開催された前回デフリンピックでは、新型コロナウイルス陽性者が発生し、日本選手団は残りの日程を残して全競技棄権という苦渋の決断を経験をした。東京開催の決定は、選手たちの新たな目標となり、日々の練習をあと押ししている。
――今年5月のブラジルのデフリンピックを大会を振り返ってよかったと、世界で戦ってみて課題が見えた部分を教えてください。
星「50m平泳ぎと100m平泳ぎ、100m自由形とリレー2種目の5種目に出場しました。目標だった4×100mのフリーリレーで順位を塗り替えられ、メダルを獲得できたことは自分の自信になりました。残念だったのは50m平泳ぎで自己ベストは出たが順位が9位だったので決勝にいけなかった。課題は平泳ぎで前半は問題がなく、後半で失速してしまうところがあるので、そこを改善したい。次は決勝に残り、個人種目でもメダルがとっていけたらと思います」
齋藤「私は200m個人メドレー、100mバタフライ、200mバタフライに出場しました。2日目の100mバタフライでは予選からすごくいい泳ぎができて、決勝ではいままでで一番と言っていいくらいリラックスして泳ぐことができたので、それがまた金メダルと自己ベスト更新につながったので本当によかったと思っています。
そのあとの200mバタフライでは泳法違反で予選で失格となってしまったのですが、失格になったことがまた勉強になりました。
今後の課題は100mと200mのバタフライの泳ぎ方を少し変えてレース展開していくこと。一から勉強し直して泳ぎたい。3年後のデフリンピックの目標は今回金メダル一つだったのでメダルを2個以上取ることが目標です」
平林「私は50m背泳ぎ(6位)と100m背泳ぎ(8位)で入賞した。自分が思っていたより順位が高かったので安心した。100m自由形では決勝進出の8位の人と0.2秒で負けてしまった。自分の力では世界ではまだまだ戦えないと思った。今後の改善は、後半が弱いので後半を強くするために、前半よりも後半のタイムをあげるよう練習したい。目標は3年後の東京デフリンピックで5月より高い順位でメダルをねらいたい」
――東京デフリンピックの開催をどう思いますか?
星「日本でやることになり、これを機にいろんな人にみてもらいデフリンピックを盛り上げていきたい。国際大会だと家族とかは現地に来れないけど、今回日本でやることで足を運んで見にきてもらえるのが嬉しい。応援を自分の力に代えていい結果につなげられたらと思います」
齋藤「私も東京でデフリンピックが開催されることで認知度があがりますし、家族や身近な人が来ることが難しい。国際大会にはたくさんの人が応援にきていただいて、そこで私が結果をしっかり残して、結果で恩返しできるようにしたいです」
平林「デフリンピックというものはオリンピックとかパラリンピックより知名度が低くあんまり知られていないので東京でやることでみんなに知ってもらえるし、デフリンピックってこんなものなんだっていうことをしっかり見せて、東京までに自分のレベルを高くして、メダルをとり周りの支えてくれる親とか学校の人にお礼が言えるようにしたい」
日本の競泳において、デフアスリートはパラ水泳や健常者の水泳のいずれにも属しながら泳ぎを高めることができ、国際大会出場となれば、3月に静岡(富士市)で開催されるパラ水泳の記録会を選考会として世界を目指す。
ーーパラ水泳の選手と一緒に泳いでいる効果があれば教えてください。
平林「ふだん健聴の人と試合しているが、パラの試合は自分と同じ障害をもっている人と同じ環境にいる大会なので安心できる試合です」
齋藤「健聴の人と大会に出ることもあるが、パラの大会にくるといろんな障害をもった人がいっしょの組で泳ぐことがあり、障害をもっても頑張っていることを感じる」
星「私も障害者の大会に出るのは気持ちが大きく違うと感じる。障害はバラバラであるが、個性をそれぞれがもっているということでもあり、素晴らしいと思う。聴覚障害だけじゃなく、いろんな人と泳ぐことで、障害あってもなくてもいろんな人でスポーツは楽しめるんじゃないかと思います」
ーー大きな目標は東京ですが、そこまでの3年間の目標になっていく大会にはどんなものがありますか。
平林「来年の世界大会の標準記録はもう突破していて、3月の春季パラ・選考会を突破し、世界大会までの準備もしっかりして、いいパフォーマンスができるようにしたいです」
齋藤「私も来年の3月の春季パラ・選考会での記録を突破。また同じ年にアジア大会も開催される予定なので、そこでも結果を残して、デフリンピックの前の年(2024年)世界短水路選手権が日本で開催される予定なので、しっかり結果を残して、デフリンピックまでいい流れをもっていけたらいいなと思います」
星「斉藤選手と同じで、来年、世界大会、アジア大会と国際大会が続いていて、自分にとってこの大会はデフリンピックへの通過点だと思っています。ここでどんないい結果でも悪い結果でも、世界短水路選手権大会が日本であるので、これもしっかり結果を出してしっかり東京で世界一をとるという状況でいけたらと思います」
ーーありがとうございました。
今後のデフスイマーの目標となる大会は以下のとおり。
・春季パラ水泳大会(国際大会出場のための選考会)
2023年 3月4~5日
静岡
・第6回世界デフ水泳選手権大会
2023年 8月13〜19日
ブエノスアイレス
・アジア太平洋ろう者競技大会
(2019年コロナ感染対策により中止、今後に予定あり)
・世界短水路選手権大会
2024年日本(予定)
(写真取材・内田和稔、編集協力・中村和彦、そうとめよしえ)