3年ぶりの有観客で開催されている「2022ジャパンパラ水泳競技大会」(横浜国際プール)は9月18日、2日目の日程が終了。
東京パラリンピックに出場したアスリートたちも参加し、この日のレースの他、パラリンピックからのこの1年も振り返った。
25歳の辻内彩野(三菱商事)は、視覚障害クラスの200m個人メドレー(SM13)で登場し、2分39秒94でフィニッシュ。また、6月の世界選手権(ポルトガル)で銀メダルを獲得した種目でもある100m自由形(S13)にも出場し、1分1秒18だった。
今回の100m自由形のレースについて辻内は、
「(前半50mのラップライムに関して)予選が30秒0だったので、決勝で29秒65で入れたのは良かったんですけど、目標としては28秒台で入りたかったので、ちょっとそこは”う~ん”って感じですね。(自身の持つ日本記録は59秒95だが)さらに記録を目指していくには、28秒前半では遅くとも入らないといけないかな」と分析した。
辻内は東京パラリンピックで副キャプテンを務め、今年6月の世界選手権ではキャプテンに抜擢。パラ水泳界のエースとして注目されるだけでなく、特にこの1年は責任のある立場として日本を引っ張ってきた。
「今までは自分のことだけを考えていたものを、チームの状況や成績にも気を配りながら戦うってことをしなければいけない。”楽しむ”という自分のモットーに加えて、チームのみんなを盛り上げることもやっていかなければいけないかなと考え方がシフトチェンジした」とマインドチェンジを実感。
今大会が3年ぶりの有観客開催となったことについては、
「大学時代の恩師や両親が見に来てくれているし、明日は妹が来ると聞いている。実際には観客席のどこにいるかは私の視力では分からないし、レース前に見つけることはできないんですけど、同じ空間に私の心の拠り所がいるっていうのがあるだけですごく心強いです。それに、テレビで見るのとは違った迫力がというものを観客の皆さんに肌で感じてもらえてるんじゃないかなと思って、緊張というよりもワクワクの方が大きい」と語っていた。
この日、観客席には辻内の両親やいとこが応援に来ていた。父の辻内満夫さんは、
「久しぶりの生観戦なので、いつも持ってきていたビデオカメラをうっかり忘れてしまった(笑)。代わりにスマホで娘のレースをおさめました。キャプテンになったときには家族一同、”彩野が!?”と驚きましたけど、最近は家の中でも私に厳しくなってるんですよ。部屋片づけろとか、電気消せとか…家の中に妻がもう1人いるような気分ですよ(笑)。でもすごく気を遣ってくれる娘なんですよ」と顔をほころばせていた。
世界選手権で4つのメダルを獲得した視覚障害クラスの富田宇宙(EY Japan)はこの日、200m個人メドレー(SM11)に出場。2分29秒48で大会新記録を更新した。
東京パラリンピックの後、スペインに拠点を移した富田は、
「環境を変えたり新しいチャレンジをしてきたが、すごく充実した日々を過ごせている」。
環境が変わったことで泳ぎに対する意識にも変化が出たという。
「日本にいる時は、タイムを気にしながら泳いでいた。限られたインターバルの中で自分が何秒で泳ぐというところに常にフォーカスしていた。泳ぎの形や自分の姿勢、水を捉える感覚っていうものよりも、常に自分が何秒を刻むとか、持久力を高めるような、常に心拍数を上げた状態を保ちながら泳ぎ続けるなどといったフィジカル的な練習が中心だった。スペインに行ってからは、1本1本をとても大事に泳ぐようになった。タイムや強度の指定もなく、自分で自分の課題と向き合いながら、”ゆっくり泳ぐ”とか、”とにかく良いフォームで100m”とか、自分の特性、フォームと真正面からずっと向き合うような、自分の泳ぎと対話するような時間というのが増えたと思う」と語っていた。
東京パラリンピック・世界選手権での100m平泳ぎ(SB14)の金メダリストで、世界記録(1分3秒77)保持者の山口尚秀(四国ガス)は、記録更新に注目されたが、1分4秒99だった。8月に右ヒザを痛め2週間陸上トレーニングに切り替え、9月に入って本格的に水中練習を再開したばかりだという。
「パリパラリンピックまでですね、自分が持っている力を存分に発揮していかないと表彰台にはもう上がれない。平泳ぎも結構レベルが上がっていってるので、自分ももっともっと上達していかなければ」と自身を鼓舞していた。
同じく東京パラリンピック・世界選手権での100mバタフライ金メダリストの木村敬一(東京ガス)はこの日、100m平泳ぎ(SB11)に出場。1分15秒05でフィニッシュした。
木村は来月16日に行われる「東京レガシーハーフマラソン」にランナーとして登場することになっている。東京レガシーハーフマラソンとは、東京パラリンピックマラソンコースを活用し、オリパラを機に高まったスポーツやウェルネスの気運をレガシーとして残していくことを目指す初めてのイベントだ。
木村は「東京パラリンピックのときが一番盛り上がっていた、とはなってはいけないと思う。ムーブメントを継続するために僕たち選手だけじゃなくて、いろんな人がいろんな方法をとってくれてるわけですから、その想いに参加させてもらう。走りの記録は期待しないでください(笑)」と話していた。
今回のジャパンパラ競技大会では若手たちも記録を更新している。東京パラリンピックに出場した19歳の由井真緒里(上武大学)は200m個人メドレー(身体障害クラス・SM5)で3分46秒07の大会新記録。また、パラリンピックには出ていない新星、16歳の木下あいら(フリー)も2分29秒24の日本新記録を樹立した。
次の世代のパラリンピアンが日本中を沸かせる日が楽しみだ。
(写真取材・秋冨哲生、編集校正・佐々木延江、中村和彦、そうとめよしえ)