国内最高峰のパラ水泳大会「ジャパンパラ水泳競技大会」が横浜国際プール(横浜市都筑区)で開幕。コロナ禍の影響で3年ぶりに有観客で行われる3日間の大会に身体、知的、聴覚に障害のある選手がエントリーしている。
身体・知的障害の選手の中には、1年前の東京パラリンピックに出場した選手、今年6月にポルトガルでの世界選手権に出場した選手など、2年後のパリパラリンピックを目指す選手をはじめとするトップアスリートがいる。出場には指定の大会などで標準記録を突破している必要がある。
1日目、注目を集めたのは知的障害の高校生・木下あいら(個人・大阪出身)で、女子200m自由型S14の予選と決勝で日本記録を更新、100m背泳ぎS14でも大会記録を更新した。日本記録について本人は「別の大会でもっと速いタイムで泳いだ」と言う。
窪田・荻原、切磋琢磨するS8の二人
S8(身体障害)クラスでは、ライバルどうしの窪田幸太(NTTファイナンス)と萩原虎太郎(セントラルスポーツ)が、男子100m背泳ぎS8を巡って一戦を繰り広げた。3ヶ月前になる6月の神戸での大会で、それまで窪田が保持していた日本記録を塗り替えるタイムで泳いだ萩原は、同時に窪田へも泳ぎのヒントを与えることになった。
「6月に荻原がバタフライのキックをいれて背泳ぎするっていうのをやっていたんです。6月、僕はふつうに泳いでいたんですけど、それもいいんだっていうのを知って真似をしたんです。そういう泳ぎってありか、と気づき、自分の得意なバサロを生かして取り組んだら速くなった」と、窪田。
この日、二人は背泳ぎのスタート後にドルフィンキックを続けて進む新たなスタイルで泳ぎ、窪田は荻原の日本記録に迫る2秒の自己ベストを伸ばすことができた。
「(今日は)最後のタッチが甘かった。来年3月の選考会を目指していく」と、課題を振り返る窪田。
荻原は「(窪田さんが)今回ベストタイムより2秒速くなっていたんで、この泳ぎが片腕で泳ぐ選手にとっては正解に近い泳ぎなんじゃないかと、自分でこういう泳ぎをみつけられたのは嬉しい。今後は、背泳ぎに優先順位を高くしていく。明日、明後日の(自由形、バタフライの)結果をみてスプリント種目にどう力をいれていくのか、考えたい」と、話していた。
世界で活躍するデフ・アスリート
パラリンピックに含まれない聴覚障害の競技はまだあまり知られていないかもしれない。しかし、実際の歴史はパラリンピックより古い。今年5月にはブラジルでのデフリンピック(聴覚障害者のオリンピックと言われる)が開催された。
水泳では、女子100mバタフライで金メダルを獲得した齋藤京香など、聴覚に障害のあるトップアスリートがジャパンパラ水泳にエントリーしている。
ブラジルでのデフリンピックは現地でコロナ感染者がふえ試合日程を残したまま日本選手団は全競技途中棄権した。このような経験を経た聴覚障害の選手たちだが、この9月10日、国際ろうあスポーツ委員会で2025年のデフリンピックの東京開催が決定されている。
そのほか1日目は、7月に男子200m平泳ぎS14で世界記録を更新した山口尚秀(四国ガス)が背泳ぎに出場し自己ベストを更新し、2日目の世界記録を持つ100m平泳ぎへの期待を感じさせた。
また、地元横浜から東京パラ、ポルトガルでの世界選手権にも出場し、伸び盛りの日向楓(宮前ドルフィン)は、同じクラスの両上肢欠損の選手らとともに男子50mバタフライS5を泳ぎ、パラリンピアンの落ち着きある様子をみせた。
2日目は山口の100m平泳ぎを含め、窪田・荻原による対決もまた楽しみな100m自由形には、多くの選手がエントリーしている。
大会は、無料で観覧できるほか、YouTubeでも配信されている。
<参考>
ジャパンパラ水泳競技大会オンライン配信
https://www.parasports.or.jp/japanpara/news/220914_005256.html
(写真取材・秋冨哲生、編集協力・中村和彦、そうとめよしえ)