2022年8月12日(現地時間)、デンマークのHerning(へルニング)にあるSutteri Ask Stadiumで、2022年馬術世界選手権のパラ馬術競技団体戦初日演技が行われた。
団体戦は各国4人馬までが参加可能(3人馬の国もあり)。今回はそのうち上位3人馬の成績の合計でメダルを競う(2020年東京パラリンピックでは、団体は3人馬のみ登録可能、すべてのスコアをカウントする形式が取られた)。
今回は、個人競技で使用されたチームテスト経路より難易度の高いインディビジュアルテスト経路が団体戦に使用された。選手が最初に体験するのは難易度がやや低いチームテストからというのは従来と同じだが、メダルの配分が今回はチームテストで個人メダル、インディビジュアルテストで団体メダルという形式に変わった。
注目は、前回世界選手権金メダルで東京パラリンピック銀メダルのオランダ、過去2連覇をし、常にトップ争いに絡むイギリス、そして目覚ましい成長を見せる地元デンマークの金メダル争い。東京パラリンピックで国際大会初の団体銅メダルを獲得したアメリカにも注目が集まる。
また、この世界選手権は2024年パリパラリンピックの出場権もかかっており、8位までのチームがどの国になるかも見逃せない。
グレードIV、オランダが1、2フィニッシュ
団体競技第1グループはグレードV。16か国(イギリス、オランダ、ドイツ、日本、ベルギー、フランス、アメリカ、ブラジル、スウェーデン、オーストラリア、スペイン、ラトビア、ポーランド、アイルランド、オーストリア、ノルウェー)から18人馬が参加した。
このグループ、強豪国のうち、まず最初に登場したのは5番手、本大会個人金メダリスト、オランダのSanne Voets&Demantur RS2 N.O.P.(14歳/セン/KWPN)。入場から終始7.5点以上がつく好演技。途中の半巻きで6.5点が2審判からついたほかは乱れもなく、後半は9点も含む高得点が続く。最終的に総合得点は78.415%と、これまでの最高得点を記録した。
Sanne Voets&Demantur RS2 N.O.P.(オランダ)
日本のトップバッターは7番手に登場した高嶋活士&Huzette BH(10歳/牝/KWPN )。入場から停止、発進は6点が4つと5点が1つとまずまずのスタート。その後は6.5点、7点がつく順当な演技。途中、ターンオンザホンチス(後肢旋回)で馬が停止したために4点がつく項目があったが、その後は持ち直して6.5点から7点の演技を続ける。残念ながら途中、駈歩から斜めに手前を変えながら、常歩をはさんで駈歩の手前を変える運動でくずれて4点がつくも、最後に8点を2つ含む停止で演技を終了。65.463%を記録し、パリパラリンピック出場の最低条件(2022年1月1日から2024年6月19日の間にFEIパラエクエストリアン3*以上の競技会の個人または団体競技で最低1回64%以上の成績を収める) をクリア。日本が出場枠を獲得した場合、出場選考対象になる権利を得た。
高嶋活士
「インディビジュアルの経路は、チームテスト経路より苦手な部分が多い経路でしたので、その意識で臨みましたがターンオンザホンチス(後肢旋回)で止まってしまったことと、駈歩発進でミスが出てしまいました。この先ももっとパラ馬術選手として上手になりたいですし、この先、健常者のほうの経路も踏んで、健常者に負けない乗り役になりたいです」
続いて10番手に登場したのは個人競技4位、アメリカのKate Shoemaker&Quiana(牝/8歳/RHEIN)。最初の項目から7点、8点の高得点を記録。停止から後退がやや崩れて6.5点がついた以外は終始7点台から8点がつく安定した演技を見せ、75.415%という高いスコア。アメリカの団体メダルへ向け上々のスタート。
17番手に登場したのは個人競技銀メダリスト、オランダのDemi Haerkens&EHL Daula(牝/14歳/KWPN)。最初の演技項目は6.5点から8点と審判の評価が分かれる。その後は停止を含む項目で6.5点がつく以外は、7点から最高8点の演技。総合観察の「騎手の馬術的理解力と演技力、正確さ」は9点を含む評価。総合得点76.024%を記録した。
グレードIV終了時点で、オランダは2人馬が76%を超える高得点を記録、前回王者らしい発進で幸先良いスタートを期した。
Kate Shoemaker&Quiana(アメリカ)
Demi Haerkens&EHL Daula(オランダ)
なお、先日の個人競技と今日の団体戦の合計得点により最終日フリースタイルに進出した人馬はこちら
Sanne Voets&Demantur RS2 N.O.P.(オランダ)
Demi Haerkens&EHL Daula(オランダ)
Rodolpho Riskalla&Don Henrico (ブラジル)
Kate Shoemaker&Quiana(アメリカ)
Anna-Lena Neihues&Quimbaya (ドイツ)
Manon Clayes &Katharina Sollenburg (ベルギー)
Vladimir Vinchon & Fidertanz For Rosi (フランス)
Monika Bartys& Caspar (ポーランド)
リプレイ:https://www.youtube.com/watch?v=iTu2G1LnIi4&list=PLfqDYhc2wjP5YTkG5dYwm1cAGAknsi_S-&index=61
全人馬の成績はこちら(各選手ジャッジペーパー詳細は画面一番右のTOTAL欄、DETAILSをクリック)
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P2-IV.html
個人総合ランキング:https://results.hippodata.de/2022/2124/docs/r_pd_qualification_for_freestyle_grade_iv.pdf
経路表
https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Ind_4.pdf
グレードII、デンマークがトップ、アメリカも好成績
団体戦第2グループ、グレードIIは10か国(日本、フランス、イギリス、デンマーク、ブラジル、オーストリア、スウェーデン、アメリカ、ドイツ、スペイン)・14人馬が参加。
トップバッターは個人競技5位、イギリスのGeorgia Wilson&Sakura(牝/8歳/オルデンブルグ)。前半は順調に7点、8点のつく演技。途中速歩や方向転換などでややばらつきを見せ、6.5点から7点の評価がつく項目がいくつか並ぶも、最後のほうは持ち直し、最終成績は72.971%。
続く2番手に登場したのは、個人銀メダリスト、ベテラン、オーストリアのPepo Puch&Sailor’s Blue(セン/14歳/ハノーバー)。最初の入場から停止をしっかりと決め、途中の2倍係数の停止では4審判が8点、1審判が10点をつける高得点。手前を変えながら伸長速歩の項目でやや減点があり6.5点がついたが、その後は順調に経路を踏み、最終成績は75.441%。
Pepo Puch&Sailors Blue(オーストリア)
日本の宮路満英&Flylight(セン/18歳/KWPN)は4番目に登場。最初の入場から停止をしっかり決め、常歩運動へ。6点から7点がつく演技を続ける。しかし停止、後退の項目で馬が反抗し、2点から4点がつく。この項目は2倍係数がついたものだったため総合成績に大きく影響。しかし経験豊富な宮路は耐えて、常歩、速歩と移行を何度も繰り返す演技を順当にこなす。ところが、速歩の歩度を伸ばす箇所でやや前進気勢が強くなっていたためか駆歩が出てしまい、項目不実施のため1点から2点の評価。その直後の移行にも影響し0点から3点の評価がついてしまう。この後はバランスが肝心の3湾曲。ばらついたあと見事に馬を落ち着かせ、6点から6.5点の評価がされる運動に戻る。その後、常歩を伸ばす項目で馬のエネルギーを少しセーブしたためやや点数が下がったが、最後までしっかりと経路を間違えることなく演技しきった。総合観察を含めた最終成績は53.294%、実力は出し切れなかったが最後まで演技しきる素晴らしいスポーツマンシップを見せた。
宮路満英
「今日はなぜだかわかりませんが右足の感覚がなく、馬を常に刺激してしまいテンションを上げてしまいました。馬にも応援してくれている皆さんにも、申し訳ない気持ちで一杯です」
そして、続く5番手に登場したのは個人競技金メダルコンビ、デンマークのKatrine Kristensen&Goerklintgaards Quater(セン/14歳/DWB)。最初の入場から停止の項目で6点がつく評価もあったものの、その後はすべて7.5点から8点の評価がつく演技。途中の係数2倍の停止から常歩で6.5点を含む評価がついたものの、その後は再び7点以上の評価が続く。最後の停止もしっかりと決め、わずか5か月のパートナーシップとは思えない77.176%の好成績を収め、地元開催の団体メダルに向けての期待が高まる。
そして休憩後、8番手に日本の吉越奏詞&Dueto(セン/14歳/LUS)が登場。終始落ち着いて、6.5点から7点が多くつく演技を見せた。後半の2倍係数の停止でやや乱れて5点がつくも、総合観察の2倍係数項目「騎手の馬術的理解力と演技力、正確さ」で5人の審判中4人から7点の評価がつく好演技、総合得点63.735%の結果に終わった。
吉越奏詞
「世界選手権に出られるかなというところがあったので、正直、まず出られたことを嬉しく思っています。今日は少しリズムブレイクをしてしまったなと乗りながら感じた時があり、常歩ではちまちま歩いてしまい、そこが悔しかったです」
競技も後半に差し掛かる中、12番手に登場したのは東京パラリンピック金メダルコンビ、Lee Pearson&Breezer(セン/11歳/BWS)。イギリスがメダルに絡むために高い得点が期待される。最初の入場から停止と、途中の2倍係数の停止で6.5点の評価が複数ついたものの、後半は7.5点以上が並ぶ。隣で開催されている障害飛越会場の音で少し落ち着きをなくした馬をたてなおし、難関の3湾曲の項目ではすべての審判から8点がつくさすがの演技。最終合計は73.529%と団体成績に貢献する良い結果を残した。
Lee Pearson&Breezer(イギリス)
直後の13番手は東京パラリンピック5位で本大会個人競技4位、アメリカのBeatrice De Lavalette&Sixth Sense (セン/12歳/オルデンブルグ)。個人戦で高得点を上げて勢いに乗るコンビは、入場を含む最初の項目から8点が2審判からつく好スタート。途中の停止でやや評価が下がるも、全般的には7.5点か8点の多くつく演技。最終成績は73.235%とKate Shoemakerコンビに続き好成績。アメリカチームのメダルの可能性が見えてきた。
Katrine Kristensen&Goerklintgaards Quater(デンマーク)
「感激です。今日は本当にいい演技ができました。Quarterは火曜日よりずっと調子が良くて呼吸が合い、落ち着いていたので様々な場面で実力を出すことができました。私も落ち着いていてベストをつくしました。一度優勝すると次に演技するときはまだ自分がナンバー1だと証明しなければならない気がして、プレッシャーを感じました」
全人馬の成績はこちら(各選手ジャッジペーパー詳細は画面一番右のTOTAL欄、DETAILSをクリック)
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P2-II.html
経路図 https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Ind_2.pdf
個人戦との合計得点により決定したフリースタイル進出人馬は以下の通り
Katrine Kristensen&Goerklintgaards Quater(デンマーク)
Pepo Puch&Sailors Blue(オーストリア)
Lee Pearson&Breezer(イギリス)
Beatrice de Lavalette & Sixth Sense (アメリカ)
Georgia Wilson&Sakura(イギリス)
Heldemarie Dresing&La Boum(ドイツ)
Celine Gerny&Rhapsodie IFCE (フランス)
Gianna Regenbrecht & Fuerst Sinclair(ドイツ)
https://results.hippodata.de/2022/2124/docs/r_pd_qualification_for_freestyle_grade_ii.pdf
グレードI、アメリカが3番目の人馬も好調でメダルに近づく
団体戦第3グループ、グレードIは12か国(ノルウェー、カナダ、アイルランド、ポーランド、ギリシャ、オーストリア、イタリア、ポルトガル、フランス、ブラジル、シンガポール、ラトビア)・14人馬が参加。なお、今回この競技と個人戦の合計得点がフリースタイル進出人馬を決定するため、団体成績には関係しない個人参加の人馬も含まれている。
個人競技メダリストの中で最初に登場したのは、個人戦でラトビアにとって馬術競技初の金メダルを獲得したRihards Snikus&King Of The Dance(セン/14歳/LWB)。最初の停止から、終始7.5点から8点の評価がつく演技。総合観察の「騎手の馬術的理解力と演技力、正確さ」は3審判が9点をつける高い評価。本大会初の80%を超える80.393%を記録した。
Rihards Snikus(LAT)
「演技はとてもよく、すべての運動がスムーズで、ほかの人馬よりも良い項目もありました。でも、もっと上達できると思います」
Daria Tikhomirova(LAT、監督)
「ラトビアは今回団体の人数を満たすだけの人馬が出場していませんが、Rihardsのここ数年の活躍でこれも変わるかもしれません。Alise MuiznieceというグレードIVの期待の新人がいます。彼女はまだ17歳で、Rihardsが前回の世界選手権で成功を収めたのを見て、私のところに来て『わたしもやってみたい』と声をかけてきたんです。そして練習を始めて、世界選手権に出場というところまできました。もしかしたら今回の世界選手権後も、彼女のような若者がやってみたいと思ってくれるかもしれません」
Rihards Snikus&King Of The Dance(ラトビア)
9番手には、東京パラリンピックの団体銅メダル以上を狙うアメリカのRoxanne Trunnell&Fortunato H2O(牡/6歳/OLDBG)が登場。今回は東京パラリンピックのパートナーをパリパラリンピックに向けて温存するため、6歳と若い後継の馬で挑戦。最初の停止を含む項目で6.5点が2つついたものの、その後は順調に活発な演技を続ける。運歩の質を審査するペースの総合観察項目は5審判すべてから8点がつく好印象の演技。75.214%という高いスコアでアメリカの団体成績に貢献、メダルの可能性が近くなった。
15番手に最初に登場したのは銅メダルコンビMichael Murphy&Cleverboy(セン/15歳/KWPN)。最初の入場を含む項目から8.5点が複数つく好スタート。後半の常歩演技のなかでやや評価が下がる6.5点台がつく項目もあったものの、最終成績は76.072%という高いスコアを記録した。
続いて最後に登場したのは個人戦銀メダルコンビ、イタリアのSara Morganti&Royal Delight(牝/17歳/RHEIN)。常歩で巻き乗りをする項目で1人の審判が6点をつけた以外はすべて7点以上。総合観察の「騎手の馬術的理解力と演技力、正確さ」は3審判が8点、2審判が8.5点をつける高得点。ベテランコンビならではの総合得点77.250%を記録した。
Michael Murphy&Cleverboy(アイルランド)
Sara Morganti&Royal Delight(イタリア)
全人馬の結果はこちら 各選手ジャッジペーパー詳細は画面一番右のTOTAL欄、DETAILSをクリック)
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P2-I.html
経路表(日本語版)
https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Ind_1.pdf
先日の個人競技と今日の団体戦の合計得点により最終日フリースタイルに進出した人馬はこちら
Rihards Snikus&King Of The Dance(ラトビア)
Sara Morganti&Royal Delight(イタリア)
Michael Murphy&Cleverboy(アイルランド)
Roxanne Trunnell&Fortunato H2O(アメリカ)
Laurentia Tan&Hickstead(シンガポール)
Carola Semparboni&Paul(イタリア)
Jene Lasse Dokan&Aladdin(ノルウェー)
Julia Siancalepore&Heinrich IV(オーストリア)
個人総合結果https://results.hippodata.de/2022/2124/docs/r_pd_qualification_for_freestyle_grade_i.pdf
以上で初日の団体戦競技は終了。トップは4人馬の演技が終了し、合計213.755%を記録したオーストリア。続いて2位は3人馬によって構成されるチームの演技が終了、188.143%を記録したスペイン。3位は3人馬の演技が終了し、150.629%を記録したアメリカ。4位はドイツ、5位はフランス、6位はブラジル。この3か国も3人馬の演技が終了している。オランダとイギリスは2人馬を2日目に残している。
なお、日本は高嶋、宮路、吉越の各コンビの演技が終了しており、129.198%で9位につけている。
本大会ではドロップスコア形式が採用されており、4人馬出場したチームはそのうち一番低い得点がカウントされず、チームの上位3人馬の成績で団体成績が決まる。
メダル争いは2日目の人馬の成績に大きく影響されるので、出場人馬に期待がかかる。はたしてメダルはどの国に? パリパラリンピック出場権を得る7位までに入賞する国はどこになるか? 2日目の競技からも目が離せない。
初日終了時点の団体成績https://results.hippodata.de/2022/2124/docs/r_pt_1.pdf
(取材協力:Herning World Equestrian Games Media Center Team、一般社団法人 日本障がい者乗馬協会、JEF、画像提供:FEI、Britt V Golstein Brouwers、US Equestrian & Shannon Brinkman Photography、編集・校正:望月芳子、佐々木延江)