2022年8月11日(現地時間)、デンマークのHerning(へルニング)にあるSutteri Ask Stadiumで、2022年馬術世界選手権のパラ馬術競技個人演技2日目が行われた。
この日はライダーの障害の度合いによる5つの種目分類(グレード)のうち残り2種目(グレードV,III個人演技)が実施された。
グレードIIIは、デンマークのTobias Thorning Jorgensen & Jolene Hillが東京パラに続いて金
日本からはグレードIII、14番目に稲葉将&Exclusive(セン/13歳/KWPN)が登場。この人馬は東京パラリンピックでコンビを組み、この経路で70.118%を収めている。しかし今回は緊張が表れ、最初の停止で2審判から5点の評価。その後の速歩運動で持ち直し6.5点から7点台の評価が続くも、再びややリズムが乱れ、常歩の旋回運動で5点台がつく演技。後半少し持ち直すも総合得点は伸びず64.735%、15位の成績に終わった。
稲葉将選手コメント
「この試合に限らず今までの試合でもそうでしたが、緊張感が出てしまった演技となってしまいました。2回目のターンオンザホンチス(後肢旋回)以降、人馬のリズムが合っていない感覚があり、馬との調和が出せず、馬の動きに影響を与えてしまったと感じています。
明後日は、やるしかないので、今まで言われてきたことを最大限行い、点数を上げていきたいと思います」
競技全体では、前回銅メダリストコンビで東京パラリンピック5位、アメリカのRebecca Hart&El Corona Texel(セン/13歳/KWPN)が登場。73,147%と東京パラの自己記録を上回る高いスコアを収めてメダルの可能性をうかがわせる。続いて休憩の前、最後の12番手で東京パラリンピック個人金メダリスト、デンマークのTobias Thorning Jorgensen & Jolene Hill(牝/14歳/ダッチウォームブラッド)が登場。一番人気で、かつ開催国の代表としてプレッシャーがかかる中、悠々とした演技。途中伸長速歩で9点台がつくなど高評価を受け、この時点でトップの78.676%を収めた。
残るは5人馬。最後から2番目に登場したのはベテラン、イギリスのNatasha Baker&Keystone Dawn Chorus(牝/11歳/ハノーバー)。東京パラリンピックで銀メダルに輝いたときと同じ馬で上を目指す。途中の停止で乱れて6.5点台のスコアがついたほかは7点台から8点のスコア。最後までJorgensenコンビに届くか期待される中、落ち着いた演技を続け、最後の停止は7.5から8点がつく。あとは総合観察の得点次第でどうなるか、息をのんで待つ中発表されたスコアは73.970%。この時点で銀メダルの位置につけた。
そして最終コンビの演技が終わり、金メダルはデンマークのJorgensenコンビ、銀メダルはイギリスのBakerコンビ、銅メダルはアメリカのHartコンビと東京パラリンピックと同じ順位でメダルが確定した。Jorgensen選手にとっては嬉しい地元での金メダル。スタジアム内にあがる歓声に、大きな笑顔を見せていた。
Tobias Thorning Jørgensen, DEN
「このような場で演技するには経験が重要です。ようやく僕たちも経験が充分あると言えるようになりました。速歩運動にとても満足しています。すごく滑らかでした。もう少し馬に要求してもよかったのですが、やりすぎないよう今日はここまでにしました」
Natasha Baker, GBR
「こういう天気は好きなので厚さは気になりませんでした。私の馬とLottie(本大会馬場馬術競技で圧巻の個人2冠を達成したCharlotte Fry選手の馬)が昨晩話し合いをしていたのではと感じます。今日は使命感をもって演技している感じがしました。こんなにスピードの速い演技は初めてです。ぎりぎりの状態で乗っていましたが、馬自体は何かを怖がっているというわけではありませんでした。私が病気のため6週間休んで、2週間前からしか練習をしていないのもあまりよくないことでした。これは今年2度目の競技参加なので、演技の結果には満足しています」
Rebecca Hart, USA
「とてもいい演技ができたと思います。Texは時々すごく緊張してしまうことがあるので馬場に入場する前の周回中に充分リラックスするよう練習してきました。少し本拠地に戻って変えたところがあります。その後それを試す初めての選手権大会です。中間速歩とそこから戻る演技は気持ちよく、楽しかったです。座っていれば連れて行ってくれるという感覚でした。細々したことを気にせず演技全体を楽しめたので本当に良かったです。Texが元気でハッピーなアスリートであるという証拠だと思います」
グレードIII経路図
https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Team_3.pdf
グレードVは、Michèle George&Best of 8が待望の復活優勝
個人競技を締めくくるのはグレードV。ベテランと新星の入り交じる17人馬が出場した。優勝したのはベルギーのMichèle George&Best of 8(牝/12歳/ハノーバー)。馬の名前が語るように過去8年で76.419%とベストのパフォーマンスを見せ、2014年フランス・Caen馬術世界選手権以来の金メダルを獲得した。
Michèle George, Belgium
「私の馬は少し緊張していましたがなんとか落ち着かせることができたので、よく頑張ってくれたと思います。この馬場は(観客に近く、雑音が聞こえるので)難しい馬場だと思います。こういう馬場は初めてだったので、馬にとっては良い経験でした。カメラマンが柵の横を行ったり来たりしていたので少し馬が怖がっていました。それでも楽しく、本当にこの結果には感激しています。過去の経験にはあまり執着しません、メダルはそれぞれ違ったものです」
銀メダルは東京パラリンピック個人銀メダルコンビ、Sophie Wells&Don Cara M(セン/13歳/NRPS)。ライバルGeorgeコンビが演技した直後だけにプレッシャーがかかる。順当に最初の入場から停止は7点と7.5点がつく演技からスタート。その後も着々とスコアを伸ばしながら演技を続ける。途中、停止と常歩ピルエットなどで6点台が付き、やや演技が乱れたが、さすがのベテランコンビ、その後は落ち着いて巻き返し、7.5から8点が並ぶ停止で演技を終えた。緊張感につつまれた会場で待つ人馬とサポーターたち。結果、スコアは75.279%。1%の差で2位につけた。
銅メダルはFrank Hosmar&Alphaville N.O.P.(セン/17歳/KWPN)。国際大会でライバル争いを続ける3人馬のなかでは最後の14番手に登場。前回世界選手権、そして東京パラリンピックはGeorgeコンビとWellsコンビに続く銅メダル。今回こそはという気持ちを抑え、落ち着いて演技を開始。常歩ピルエットや後退で6点台がみられたものの、全般的には7点、8点とまずまずのスコア。最後の停止は最高得点が8.5としっかりと決めて演技を終えた。会場すべてが注目する中、発表されたスコアは75.256%。わずかにWellsコンビに及ばず、今回も銅メダルに終わった。
Sophie Wells, Great Britain
「少し変な雰囲気の会場で、ざわざわしています。速歩が今日はとてもよかったです。そこで間違えるとは思いませんでしたが、馬が緊張するとこういうこともあります。その後集中力を取り戻してくれてよい駆歩をしてくれたので、これだけ馬が協力してくれたことに満足しています」
Frank Hosmar, Netherlands
「今日Alphavilleとここにいることは奇跡のようなことです。この冬彼は病気でひどく体調を崩し、獣医には安楽死も薦められました。でも彼は僕の親友なのでなんとか守ろうと頑張りました。彼のために一生懸命戦いました。馬が4、5歳だったころからコンビを組んでいて、今は17歳です。今日の演技は彼にとってきっと長く感じたでしょう。今日の結果はすごく嬉しいです。馬場の中で一番良かったことは、Alphavilleが復活して今日、僕と一緒にいてくれることです」
グレードV経路図
https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/Team_5.pdf
明日からはいよいよ団体戦。優勝経験を持つイギリスかオランダが金メダルを獲得するのか、それとも新たな王者が誕生するのか? すべてのグレードの競技から目が離せない。
なお、これまでの個人演技と明日からの団体戦演技の合計得点で各グレード上位8人馬が音楽に合わせて演技するフリースタイルに進出する。
結果速報はこちらのサイトの各競技右、リボンのマークをクリック。
グレードIII
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P1-III.html
グレードV
https://www.longinestiming.com/equestrian/2022/ecco-fei-world-championships-herning/resultlist_P1-V.html
(各選手ジャッジペーパー詳細は画面一番右のTOTAL欄、DETAILSをクリック)
リプレイ:YoutubeFEIチャンネル
グレードIII : https://www.youtube.com/watch?v=duvdIKW5HCw&list=PLfqDYhc2wjP5YTkG5dYwm1cAGAknsi_S-&index=58
グレードV: https://www.youtube.com/watch?v=GVmxzrXhTt4&list=PLfqDYhc2wjP5YTkG5dYwm1cAGAknsi_S-&index=57
参考
Para Dressage Rules https://inside.fei.org/fei/disc/para-dressage/rules
2017:https://inside.fei.org/system/files/PED%202017_rules_Nov_2016_Final%20Clean.pdf
2022:https://jrad.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/02e0886e1fb7ed8787c81e1ae9c2f858.pdf
(取材協力 一般社団法人 日本障がい者乗馬協会、JEF、画像提供 FEI、編集・校正 望月芳子、佐々木延江)