現役大学生として2度目の冬季パラリンピックに出場した、クロスカントリースキーの川除大輝(日立ソリューションズJSC)。前回の平昌パラリンピックでは、混合リレーで4位、スプリントで7位とメダルには届かず、「前回を超える」と意気込み世界の舞台に挑んだ。
川除の今大会最初のレースは、得意とする20キロクラシカル。「雪上のマラソン」と呼ばれるクロスカントリースキーの中でも最も距離の長い、過酷な種目だ。世界ランキングを元に決められたスタート順で、15人中で後ろから3番目のスタート。ストックを使わない川除は腕を大きく振り、コース序盤の登りでもスピードを落とさず。順調なスタートを切った。「コース前半は登りがきついので抑えて入った」と話すものの、3.5キロ地点のチェックポイント通過タイムはここまでのトップ。レース開始直後から強さを見せつけた。1周目を終えた時点では、2位のマーク・アレンツ(カナダ)に8秒5のリード。徐々に差を広げ始めた。
日差しも強く気温も上がっていく中で、口を開け時折辛そうな表情を見せる川除。しかし、「応援の声を聞いて1段階ギアが入った」。各地点のチェックポイントでは、「大輝いける!」「落ち着いて最後まで頑張るよ!」など川除の背中を押す声が飛び交い、日本チームの絆が感じられた。
いよいよレース後半の3周目に入る時点では、2位と49秒8の差。しかし「後半の失速は自分の中の課題」。苦手な後半では気を緩めることはできない。ここからどこまで自分と戦うことができるかが重要となってきた。今シーズンは後半の失速という面を重点的に見直した川除。距離が長いタイムレースを行い、体力をつけた。また、「最後は精神的な部分」と気持ちの面も見直した。この努力が川除を世界のトップを走る存在にした。レース終盤のきつい登りのコース。他の選手が下を向き力を振り絞って走る中でも、川除はただひたすら前を向いて走っていた。13.5キロ地点では2位と1分11秒8の差をつける。川除の勢いはとどまることを知らない。
最後の4周目に入ろうとするところでは、かぶっていた帽子を投げる場面も。「本当に暑くて、脱いで風に当たって涼んだ方がいいと思った」。このレースの過酷さが感じられた。気合を入れ直し挑んだ最後の1周。きつい登り坂でも先にスタートしていた他の選手たちを、あっという間に抜き去る快走を見せた。ゴール手前の最後の直線では、歯を食いしばりながらもしっかりと手を振り、2分前にスタートしていた選手を抜く。そして勢いそのままに、ガッツポーズを見せてゴール。スタッフから日の丸を受け取り、掲げる川除にはとびきりの笑顔が。「率直にうれしい気持ちが一番。4年前と比べて成長できたところをみなさんに見せることができた」。新たな日本のエース誕生の瞬間だった。最終タイムは52分52秒8。2位の選手には1分41秒の差をつけ底力を見せつけた。
今大会で開会式の騎手を務めた川除。前回の平昌パラリンピックでは同じ競技で活躍するレジェンド・新田佳浩(日立ソリューションズJSC)が騎手を務めていた。大会前の記者会見では、「新田選手の道を辿って旗手をさせて頂くということは、期待されているということだと思うのでしっかり成績を収めたい」と話していた。見事有言実行を果たした川除は、「(新田選手に)これからは自分が引っ張っていきますと伝えたい」と確かな手応えを感じていた。
川除は他の種目にも出場し、1.3kmスプリントフリーで7位、12.5kmフリーで8位、4×2.5kmオープンリレーで7位とメダルには届かなかったが、今大会で圧倒的な存在感を放った。21歳で金メダリストとなった若武者は、この先パラクロスカントリー界を担っていく存在になるに違いない。
川除の北京での大躍進を見て、思わず川除が大学生であることを忘れてしまった。年齢は2つ上ではあるものの、私と同世代。大学生が世界で戦い、金メダルを手にする姿は私に刺激を与えてくれた。北京では川除以外にも岩本美歌(北海道エネルギーパラスキー部)など若い世代の選手も活躍を見せた。パラリンピックだけでなくても、同じ世代の選手の出場を知ると意識して見てしまうし、活躍すれば嬉しい気持ちになる。これからも若い選手の活躍がきっかけで、パラスポーツの面白さを知ってくれる学生が増えて欲しい。
(校正=久下真以子 写真=中村Manto真人 写真提供=OIS)