関連カテゴリ: COVID‑19感染対策, Tokyo 2020, イベント, コラム, トラック・フィールド, 周辺事情, 夏季競技, 新着, 東京, 東京パラムーブメント, 横浜, 義足, 義足アスリート, 陸上 — 公開: 2022年3月24日 at 1:12 AM — 更新: 2022年4月2日 at 8:56 PM

為末大、遠藤謙、栗栖良依がランスタ活動報告会を開催。3人が描いた東京パラ後の風景と新しいスタートライン〜新豊洲Brilliaランニングスタジアム〜

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東京2020のレガシーといえる「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」でのパラスポーツコミュニティ。中心となった3人が活動報告会を開催した。ランスタの活動の継続とあらたなスタートラインの課題と方向性をよびかけた。

パラスポーツで東京の景観を変えようと2016年にオープンした「新豊洲Brilliaランニングスタジアム(以下ランスタ)」で3月22日、活動報告会が開催され、オリンピアンで400mハードル日本記録保持者の・為末大氏(Deportare Partners)と義足エンジニアの遠藤謙氏(Xiborg)、そして地域社会を拠点に活動し東京パラリンピックではセレモニーのステージに「多様性との調和」の表現をもたらした栗栖良依氏(SLOW LABEL)の3人が活動の成果と現状、今後の展望にむけて報告会を行った。

(左から)為末大、栗栖良依、遠藤謙の3人がランスタ活動報告会を開催

経緯の説明 為末 大

2016年、国産カラマツを骨組みに使用したドーム状の空間に60m×6レーン、IAAF(国際陸連)公認のトラックが完成すると、陸上競技やトライアスロンなどトップを目指す義足アスリート、パラムーブメントの担い手やダンサー、クリエーターも訪れ、陸上のタータントラックが役割を飛び越えてクリエイティブな体験や交流が新豊洲の街の一角に生まれた。

<参考>
新豊洲Brilliaランニングスタジアム
https://running-stadium.tokyo/

史上初の延期のすえ2021年に開催された東京大会期間中は、コロナ対策で試合は無観客となったが選手村にも近く、陸上だけでなくホッケー代表チームなど、世界の選手がトレーニングに訪れたという。障害のあるなしによらず世界のトップスポーツ選手が交流を深めコミュニティとして貴重な時間を過ごすことができた。

サーカスを障害のある人と一緒につくり上げるスローレーベルのプロジェクト「ソーシャルサーカス」を展開する金井ケイスケ氏

「(2013年に)東京開催が決定して、遠藤さん、栗栖さんとともに豊洲に未来を先取りする場所をつくろうと『多様性』をコンセプトに”豊洲会議”が始まった。それが、夢物語でしぼんじゃうのか?というとき、東京建物の平成27年度サステナブル建築物等先導事業としてネーミングスポンサーが決まり資金提供を受けながら、車いすや義足の選手が使うシャワールーム、多様な人がくることを想定したランニングスタジアムを作ることができた」と、館長の為末大は経緯を語った。

義足エンジニア・遠藤謙が求める風景

遠藤氏が思い描く「一般の学校で、障害のある子どもたちが運動会や体育の授業にふつうに参加できる」という日常の風景は徐々に現実になりはじめている

義足エンジニアの遠藤謙氏を中心にした義足アスリート支援プログラムは館内に「義足の図書館」を設置し、選手の近くに義足製作スペースを置き競技力アップへの貢献を目指した。その先には、「一般の学校で、障害のある子どもたちが運動会や体育の授業にふつうに参加できる」という日常の風景を思い描いていた。
実際にサポートした日本の佐藤圭太は東京の代表に入れなかったが、アメリカ代表のジャリッド・ウォレス、オランダ代表のキンバリー・アルケマデが東京パラリンピックに出場した。二人ともメダルを獲得し嬉しい成果を残してくれた。

2021年9月4日、東京パラリンピック男子200mT64決勝 写真・秋冨哲生

さらに遠藤氏は、コロナ対策で無観客のレースというところで、サポート選手の出場を応援しようと「オンライン観戦会」を呼びかけ、現地取材中のNPOメディア(=弊誌)とともに義足アスリートと競技の魅力を満載した詳しい観戦ガイドも作成した。ランスタの仲間たちが呼びかけに応じて大勢集まり、コミュニティの力を発揮した応援を実現した。

<参考>
義足エンジニア・遠藤謙による「東京パラ注目の義足アスリートの見どころ!」

https://www.paraphoto.org/?p=29084

「日本には6万人足のない人がいるが、スポーツ用義足を使用する人は1%に満たない。値段が高い、保険適用外となっているのが原因だ」と課題に向き合った遠藤氏は、ランスタ内にスポーツ用義足=ブレードをたくさん用意して、実際に履いてもらいながら、月1でクリニックを行った。

「義足の図書館」でのラボ活動ではたくさんのブレードを用意して、走る体験がいつでもできる
報告会当日も用意されていた義足を初めてつけて走ることができた

「走り方を練習したところで15人のブレードランナーが生まれました。彼らは体育の授業とか部活でも普段の義足を外してブレードで走っています。まだ15人ですが、日常的な風景が変わりました」とスタートラインとしての成果を実感していた。

バスケットボールが好きな遠藤氏はランスタ内にバスケットボールのシューティングマシンを設置した。ボールを拾いにいく人がいなくても車いすの選手が一人で練習に専念できる。

遠藤氏は他にも「ロボット義足の研究=乙武プロジェクト」をソニーコンピュータサイエンス研究所と共同で行い、四肢欠損の人が歩くプロジェクトを主導した。
大ベストセラー「五体不満足」の著者・乙武洋匡さんの協力を得た取り組みで、テクノロジーとスポーツが混じり合うコミュニティづくりがさらにすすんだ。

栗栖良依「2030年はオリンピックを変える!」

東京2020クリエイティブディレクターとして障害のある人のアートでパラリンピックのセレモニーを指揮した栗栖良依氏は、2016年、リオパラリンピック閉会式のフラッグセレモニーで「多様性」の表現を披露し4年後の東京大会のセレモニーのあり方を示した。
つねに「オリパラのセレモニー」に注目したアートプロジェクトを準備しつづける彼女は、最終的に2030年に向けた未来への想いを描いて語ってくれた。

ポジティブ・スイッチ
リオパラリンピック閉会式・フラッグハンドオーバーセレモニーが終わり、数多くの多様な障害のあるダンサーが一堂に会し東京2020へ向けてパフォーマンスを演じた。 撮影日:2016年9月18日 写真・中村 Manto 真人

地域社会を障害のある人とのスローな社会にしようと横浜で「SLOW LABEL」として活動していた栗栖氏は、一昨年はコロナ禍での横浜パラトリエンナーレ、東京2020セレモニーチームがまさかの解散という危機のただ中で予定通りにパラリンピックの開閉会式のステージアドバイザーとしてやり遂げた。
感染対策による計画変更と上層部の不祥事の影響で目まぐるしいなか、パラリンピックムーブメントのみの課題に集約し共有するランスタのコミュニティをベースに多くの仲間をあつめ「東京パラリンピックのレガシー」を体現する計画をブレることなく着々と進めてきた。

2012年8月30日、ロンドンパラリンピックの開会式に出現したマーク・クインの巨大彫刻「アリソン・ラッパーの妊娠」モデルのアリソン・ラッパーは先天性四肢欠損で幼少期から周囲の人を驚かせないため義足等を装着し、介助なしで生活する術を学んだ。口と足の絵画で国際的に活動するアーティスト 写真・森正

「2012年ロンドンパラの開会式ではまんべんなく障害のある人が活躍していたが、当時の日本ではワークショップにすら参加する人がいなかった」と栗栖氏は当時を振り返る。
この現実のもと「日本ではできないのでは?」と感じていたが、森田かずよさんら身体に障害のあるダンサーが、1日2回のケアを必要としながらもプロとして舞台に立ちたいと願う様子をみて、「障害のある人が舞台に立つことは、誰もが障害を理由にあきらめなくていい環境を作る」と決心したという。

2021年8月24日、開会式での森田かずよさんのパフォーマンス。二分脊椎症・側湾症で生まれ身体表現の可能性求めてダンスの門を叩くが正面から拒まれた経験をもつ、世界で活躍するパフォーミングアーティスト。 写真・中村 Manto 真人
2021年8月24日、東京パラリンピックの開会式での「翼」をテーマにしたパフォーマンスで「片翼の小さな飛行機」の主人公を演じたのは13歳の和合由依さん 写真・中村 Manto 真人

東京大会では、障害のあるダンサーの活動を支える「アクセスコーディネーター」「アカンパニスト」鑑賞を支える「コメンタリーガイド(=障害の有無にかかわらずセレモニーを楽しむための字幕と声によるガイド)」の役割を定義して実践した。

2021年9月5日、東京パラリンピック閉会式を終えた栗栖良依氏 写真・中村 Manto 真人

最後に栗栖氏は「東京パラリンピックの開会式でみせた多様性を2030年の札幌ではオリンピックでの当たり前にしたい」とビジョンを示した。

為末氏、遠藤氏、栗栖氏の3人で目指した「日常の風景を変えよう」という豊洲会議で形づくられた想いや議論はランスタを中心としたパラスポーツのコミュニティを形成した。東京2020の貴重なレガシーといえるが、この報告会では新たなスタートラインも確認された。ロンドン2012がそうであったように東京大会後の日常をさらに変える働きかけとして続いていく。

(左から)為末大、栗栖良依、遠藤謙

<参考>
Deportare Partners: デポルターレパートナーズ
https://www.deportarepartners.tokyo/

Xiborg: サイボーグ
https://xiborg.jp/

SLOW LABEL: スローレーベル
https://www.slowlabel.info/

<オンライン配信>
新豊洲Brilliaランニングスタジアム報告会
https://youtu.be/bV9x_3UOhmo

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