森宏明(朝日新聞社)は、3月9日北京パラリンピック5日目のクロスカントリースキー男子900メートルスプリント座位に出場、31位に終わり、上位12人で争う準決勝進出を逃した。スプリント競技は一番得意としてきた種目であっただけに悔しさが残った。
森は野球に明け暮れていた高校2年生の夏、自動車事故に巻き込まれ両足を切断。そこから6カ月にも及ぶリハビリを乗り越え、もう一度グラウンドに立った。野球を引退した後も「スポーツが好きだったので、何かしらの競技に関われたら」。さまざまなパラスポーツを経験していく中で、明大在学中にクロスカントリースキーと出会った。現在は新聞社で働く傍ら競技に励んでいる。仕事と競技を両立しながらパラリンピックという夢舞台をつかみ取った。
森が取り組む座位の競技はストックで漕ぐことにより推進力を得る。しかし上半身だけではなく、下半身の力も非常に大事になってくるのだ。野球で培った上半身の強さに加え、下半身を強化してきたことで、森はスタートダッシュという武器を手に入れることができた。強くなった森はさらに成長を続けている。
昨年12月にカナダで行われたワールドカップでは自身初のセミファイナル進出を決めた。そして「数年前からずっと目指してきた北京パラリンピック」の代表に内定した。また森は今大会日本勢の中で唯一の座位、シットスキーヤーだ。「これからのシットスキーヤーがこれから始めようとか頑張ろうというきっかけになれたら」。さまざまな思いを胸に初めてのパラリンピックに挑んだ。
決勝トーナメント出場を目標に掲げ、レースに臨んだ。「スタートで思い切り元気よく飛び出していこう」。勢いよくスタートを切り、力強い滑りを続ける。しかし後半のカーブで転倒。「コースが予想以上につらく、スキー操作がうまくいかなかった」。分厚い世界の壁が森の前に立ちはだかる。結果は2分49秒22で31位に終わった。準決勝進出まで22秒22足りなかった。
「感謝の気持ちを忘れないで滑りたい」。そう語っていた森は続く3月12日(土)のクロスカントリースキー男子10キロ座位に出場した。30位でのフィニッシュとなったが、今後につながるレースになったことは間違いない。この経験を糧に、また世界と勝負する姿に期待したい。
(編集校正・佐々木延江)