今回の北京パラリンピックにおけるスノーボード女子の競技は、SB-LL2（下肢の障害・軽度）クラスのみがQualification Guideによると設定されている。前回の平昌では、SB-LL1（下肢の障害・重度）クラスも行われ、3カ国、5名の選手が参加し、ブレナ・ハッカビー（USA)がクロス・バンクドスラローム共に金メダルを獲得した。SB-LL2は5カ国、8名が参加している。こちらはビビアン・メンテル-スピー（NED）が金メダルを獲得している。
2019年1月にIPCは北京においてSB-LL1の競技を開催する条件を2019 世界選手権にて3カ国以上、計6名の選手が参加することとした。しかし実際には2カ国、計2名の選手しか参加しなかったことを理由に、北京2022において女子SB-LL1クラスの競技を実施しないことを2019年6月にIPCが発表した。確かにこの時点でワールドランキングには4カ国、計5名の選手しか登録されていなかった。
これに異をとなえたのが、ブレナ・ハッカビーである。彼女は、上記の発表があった2年後の2021年9月に「男子のSB-LL1または、女子SB-LL2にて北京2022に参加する」旨をIPCに申し入れた。しかし、これはIPCおよび世界パラスノーボードから受け入れられない旨通達された。彼女はこの決定を不服として、（後日、彼女はCBSのインタビューにて、「この決定は正しくなく、また、パラアスリートのインクルージョンと、ダイバシティーというパラリンピックムーブメントにも反する」と語っている）、仮の差し止め請求をドイツの裁判所（IPCの本部はドイツのボンにあるため）に申し立てたが、2021年12月に却下された。彼女は諦めずデュッセルドルフ高等裁判所に上告し、その訴えが2022年1月20日に受け入れられた。
これを受けてIPCの会長のアンドリュー・パーソンズは「我々は、この決定に非常に驚き、また残念に思っている。なぜなら裁判所が、世界パラスノーボードのルールと規則と北京2022の参加基準を無視し、パラスポーツのクラス分けのルールに対する不見識をさらけだしているからだ」と発言している。
ハッカビーおよびもう一人のSB-LL1のアスリート、チェチリ・エルナンデス（FRA）はSB-LL2の競技にに参加できると、ドイツの弁護士はコメントしているが、IPC側は、「我々は裁判所からの文書をまっている」「彼女はSB-LL1への参加資格はあるが、SB-LL2への参加資格はない」とコメントしている。ちなみにワールドカップにおいては、SB-LL1およびSB-LL2を一つにしてレースを実施することは実際に行われている。例えばピハ 2022 WPSB ワールドカップ（FIN）においては、女子のSB-LL1とSB-LL2で併せて順位がつけられており、エルナンデスが1位となっている。
アメリカオリンピック＆パラリンピック委員会が2月16日に発表したTeam USAの参加選手リストにおいてブレナ・ハッカビーはSB-LL2に参加を許可されたとして、名を連ねている。これで決着がついたのだろうか。3月1日現在、IPC側からの公式コメントは発表されていない。3月6日のクロスSB-LL2の予選に彼女が参戦できることを楽しみにしている。
＜参考＞
IPC “surprised” as Huckaby wins court appeal to compete at Beijing 2022 Paralympics
IPC surprised and disappointed by court’s Para snowboard decision
U.S. snowboarder Brenna Huckaby allowed to compete in Paralympic Games in Beijing
MEET THE 2022 U.S. PARALYMPIC SNOWBOARDING TEAM
（編集校正・佐々木延江）
Author: 地主 光太郎
東京在住。TOKYO2020の言語サービスボランティアを通じて主宰の佐々木さんと知り合う。「伝えること」に改めて興味をもちBEIJING2022よりパラフォトに参加。普段はJ3 SC相模原のホームゲームボラ、市民オペラの合唱や端役、勤め先では再エネ関連技術の事業化に携わる。サステナビリティ、コミュニティの再生に興味。
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