関連カテゴリ: BEIJING 2022, インタビュー, クロスカントリースキー, 冬季競技, 取材者の視点, 国際大会, 地域, 知り知らせる — 公開: 2022年3月3日 at 11:11 AM — 更新: 2022年3月13日 at 8:44 PM

富山・雄山高校から北京へ。若きスキーヤーが世界に挑む!~恩師が語る日本代表たち~

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北京に出場する川除大輝選手の恩師、富山県立雄山高校スキー部監督の大畑賢寛氏を取材した。クロカンは自分で考え責任を負う主体性が鍵を握る克服スポーツ。環境が過酷でつらいほどゴールの瞬間が醍醐味になる。雄山高校スキー部のスキーとの向き合い方を聞いた。

北京パラリンピックがいよいよ開幕する。日本からは29人の選手が参加する今大会で、日本選手団の旗手を務める川除大輝(日立ソリューションズJSC)。今回私たちは、川除の母校・富山県立雄山高校のスキー部で監督を務める大畑賢寛氏に取材を行った。

北京パラリンピックには川除に加え、今大会最年少18歳で出場する岩本美歌(北海道エネルギーパラスキー部)、先の北京オリンピックには団体10位と個人43位の結果を残した廣瀬崚(早大)を送り出した雄山高校。同校スキー部やクロスカントリースキー日本代表の素顔に迫っていく。

1月の旭川合宿での川除大輝 写真・今野征大

大畑氏が雄山高校の教員となったのは30年前にさかのぼる。大畑氏が富山県でスキーを指導する際に気掛かりだったのは、日本にある他の降雪地域と比べて富山県は滑走日数が少ないこと。そんな中でも「富山は富山のやり方がある」。そう信じてスキーを実際にする前から、筋肉の動きを意識した陸上トレーニングを夏の間から毎日繰り返す。選手にとってやらされる練習ではなく、自分がより強くなるように考えて練習する。それが大畑氏、そして雄山高校スキー部のスキーに対する向き合い方だ。

スキーヤーとしては、小さく細い体でありながら心肺機能や筋力がとても高かった川除。「日本の軽四自動車にアメリカの大排気量エンジンを積んだような選手」。大畑氏は川除に対して「彼にだけ障害者だから手を差し伸べるということは、一切しなかった」。確かに指が3本しかないことは一般的ではない。だが、人は身長が違ったり性格がさまざまだったりと多種多様な存在だ。指が3本しかないことも「彼の個性」。そう言い切った大畑氏の言葉には、障害は決してハンデではないとの思いがにじみ出ていた。

川除の印象を質問すると「うっかり忘れ物が多かったりもした」と話した大畑氏。しかしひとたび練習になると、川除はチームメートと競い合いながら真剣に取り組む。そして練習が終われば、普通の高校生として周りの部員たちと話に花を咲かせた。オンとオフの切り替えがはっきりしている。これだと思ったことには全力で打ち込む。そうしたスキーへの向き合い方は、川除の大きな魅力の一つだ。日大進学後は練習環境の質も高まり、一層の成長を遂げている。

川除は廣瀬について、「身近な人が五輪で活躍しているのがいい刺激になった」 写真・今野征大

一方、小学生の頃から川除と常に競い合ってきた廣瀬。「小学校の頃はかなりやんちゃだった」と大畑氏は話す。そんな廣瀬が高校2年次に語った夢は「オリンピックで日本人初の表彰台に上がりたい」。五輪のクロカンでメダルを取った日本人はまだおらず、当時、周囲の誰もが夢物語だと思っていた。北京五輪では表彰台にこそ上がることはなかったが、五輪出場は夢への大きな一歩となった。「次の大会では夢を実現してもらいたい」。大畑氏は〝スキーの親〟として廣瀬を見守り続ける。

そして、現在高校生の岩本も雄山高校から北京2022パラリンピックに出場する。心肺機能や筋力が弱く、まだまだ未熟な部分も多い。それでもジュニアからスキーをやり続けてきた蓄積が、今回の北京行きにつながった。「まだまだ努力は足らない」と、より主体的な練習を重ねることを大畑氏は願っている。春からは青森大学に進学しスキーを続けていく予定の岩本。北京での滑り、その後の彼女の成長も含めて期待のルーキーに注目だ。

「クロカンは間違いなく克服スポーツ」。鼻水やよだれを垂らし、息を絶え絶えにしながら、寒い中で苦しいことをやろうとする人はなかなかいない。しかし、長い間作り上げてきた体を武器に戦い、ゴールした時の達成感は何物にも代え難い。試合環境が過酷であればあるほど、自分がつらい思いをすればするほど、ゴールの瞬間の感情は頂点に達する。選手、そして見る人にとってもゴールの瞬間は、クロカンの醍醐味の一つである。「今回たまたま3人が一気に出場ということになり、僕自身もとてもびっくりしているし、光栄なことだとも思う。出るからには結果が何位になるとかではなくて、自分でやってきたことができるような試合にしてほしい。そして納得したゴールを迎えてほしい」と大畑氏は語る。

川除と岩本。雄山高校から注目の若手が北京2022パラリンピックに挑む。コロナ禍は継続し、少なからずアスリートたちに影響を与えてきた。それでも長いトンネルの先に明るいゴールが待っているのがクロカンだ。期待のホープたちは、この舞台に立つために数々の苦難を乗り越えてきた。大会は3月4日に開幕する。知名度はまだまだ低いパラスポーツではあるが、人々の関心が広がりつつあることも確かだ。まずはパラリンピックを一目でも見てほしい。あなたもきっと、熱戦から目が離せなくなる。

(校正=久下真以子)

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