元日本代表・斎藤あや子に聞く! 車いすカーリングの魅力と北京パラリンピックの注目は?

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斎藤あや子選手が出場した2010年のバンクーバー大会以来、日本はパラリンピックに出場を果たしていない。注目選手はカナダのフォレスト選手と中国のワン選手。カーラーは敵を貶めるのではなく勝つために戦う。

先の北京五輪では銀メダルを獲得し、日本中を沸かせたカーリング。実は、パラリンピックにも「車いすカーリング」があるのをご存じだろうか。今回は、2008年北京パラリンピックと2010年バンクーバーパラリンピックの2大会にアーチェリーと車いすカーリングで二刀流出場をした元日本代表・斎藤あや子選手に、車いすカーリングの魅力と北京パラリンピックの注目ポイントについて話を伺った。

新しいチームウェアで次の大会に挑む斎藤あや子 写真:田中勝吾

車いすカーリング日本代表は、2010年バンクーバーパラリンピックに初出場して以来、今回の北京パラリンピックも含め出場を果たせていない。

斎藤選手は「信州チェアカーリングクラブ」に所属。2022年北京パラリンピックを目指し、日本代表として昨年の世界選手権Bに出場したが、残念ながら参加資格のポイントを取れず、北京への切符は得られなかった。しかし、すでに世界選手権や次のパラリンピックに向けてスタートしている。
4月には、国内のNo.1を決める「日本車いすカーリング選手権大会」が北海道稚内市で開催予定だ。

ーー2008年北京パラリンピックでは、アーチェリー代表として出場していますが、なぜ車いすカーリングを始めたのでしょうか?

(斎藤)身近にカーリング場があったことと、トリノパラリンピックの頃に車いすの皆さんと集まる機会があり、「成績が良ければパラリンピックに出場できるかもしれない」と言われたことがきっかけですね。車いすカーリングは男女混合でチームを組まなければならない競技なんだけれども、その時集まった人は、女性が私1人だったの。

それに、体験をしてみても氷が初めてだったし、最初は道具も持っていなくて、コーチのお手製の物を使ったり、力の加減も分からなかったりで本当に大変でした。アーチェリーは「引く力」が必要で、車いすカーリングは「押す力」が必要なところも真逆でしたね。でも、みんなに誘われて、和気あいあいと出来ることがいいところで続けてこられたのかもしれないですね。

ーー夏と冬、両方のパラリンピックに出場して、印象はどうですか?

(斎藤)夏季北京パラリンピックでは、沢山の競技のアスリートが選手村に一堂に会しました。バンクーバーでは、スキーやノルディックなど山間部の競技と選手村の場所が違うんですね。パラアイスホッケーと車いすカーリングだけの選手村だったので、なんだか少なく感じましたね。

夏の北京大会の時は、中国の応援団が両サイドにたくさんいて凄かったですよ。私たちパラスポーツは、世界選手権なんかだと観客も少なくて静かなんですけど、パラリンピックになると観客も増えて応援も増える。やはりそんな違いを感じました。バンクーバーパラリンピックの予選では、銅メダルのスウェーデンなどの上位チームに勝利したけれど、下位チームには上手く勝つことが出来なかったんです。

ーーカーリングと車いすカーリングの違うところとしてコミュニケーションの仕方があるのですか?

(斎藤)健常のカーリングにはスイープがあって、声を掛け合ってコミュニケーションを取りながらゲームを進めることができます。車いすカーリングは、実はスイープがないのでそれができないんですよ。声もあまり出すことはないですね。でも、エンド終了時などに集まってコミュニケーションをとることはできます。

車いすカーリングでは、ストーンをデリバリーする選手と車いすを支える選手がいます。もう1人の選手は話すことが出来るため、その都度コミュニケーションを取って、氷の滑り具合などを会話の中で作戦も立てたりしながらスキップの指示を仰ぎます。

ーー試合中や試合前後で印象に残ってることなどはありますか?

(斎藤)バンクーバーパラリンピックでは、試合の前や試合の後に、英語ですが「良いゲームだったよ」とカナダの選手に言われたことが心に残っていますね。

ーー2022年北京パラリンピックでは、どの国に注目していますか?

(斎藤)北欧の国ですね。やはり、試合経験が違う国同士が陸続きであるため、練習試合なども頻回に行われていて強くなっていっている印象がしています。

ーーカーリングの魅力としてコンシードということも一つだと思いますが、みなさんは初めから出来ているのでしょうか?(※コンシードとは、すべてのエンドが終わる前に相手の勝ちを認めて試合を終えること。カーリング精神からだと考えられる。)

(斎藤)だんだん試合をやるにしたがって身についていくものだと思います。初めから試合のノウハウは教えてもらえないから、いろいろと対戦してそういう心も覚えていくものじゃないかと思います。

ーー今後車いすカーリングは、どうしていけば競技人口が増えていくと思いますか?

現在は本州でもチーム数が少ない状態です。専用のカーリング場が少ないこともその理由で、北海道・青森・岩手・長野しかないのが現状なんです。埼玉や新潟にもあるんですが、専用のカーリング場ではなく、アイススケートのサブリンクを変えて行うなどして練習しています。また、各練習場には遠方から車で何時間もかけて通うことが今の現状なんですよ。

さらに、選手としてプレー出来るのは障害が脊髄損傷・脳性まひ・ポリオ・多発性硬化症・両足切断など、「下半身に障害がある人」に限られていること。若い選手などは車いすテニスなどの激しいスポーツを好まれることもあり、車いすカーリングに触れる機会はなかなか少ないですね。これから車いすカーリングに興味を持って体験して、「自分に合っているスポーツ」だと思ってもらえることがとても大切だと思います。そして、いろんな地域でカーリングできる場所が整えられることが、まずこれからの一歩だと感じています。

練習に打ち込む斎藤あや子 写真: 田中勝吾

多くの質問に熱い思いを語ってくれた斎藤あや子選手。次の試合のチーム練習になると和気あいあいと話す中にも、ストーンをステックからデリバリーする時の鋭い眼は心に残った。元日本代表として、すでに次のステージへ向かっている。

インタビューを通して感じた車いすカーリングの魅力は、個人それぞれのデリバリーしたストーンがどこに滑っていくのか、スイープがない分、デリバリーした瞬間からのハラハラドキドキが大きいことだ。また、不安定な車いすを支える車いすのチームメイトがいるという点で、すでにチームコミュニケーションが始まっているのである。

北京パラでは、各国が「コミュニケーションをどう取っていくか」にも注目だ。斎藤選手が注目をした北欧チームでは、バンクーバーパラリンピック銅メダルのスウェーデン、平昌パラリンピック銀メダルのノルウェーなどの活躍も楽しみなところだ。

注目選手としては、上述のインタビューの中で「お互いを尊重しあい声をかけてくれた」と斎藤選手が話す、カナダのアイナ・フォレスト。フォレストは2004年から車いすカーリングを始め、その後カナダの全国大会で活躍し、代表として活躍している。主にセカンドの選手であり、2010年と2014年のパラリンピックでは金メダルを獲得している。今回の北京パラリンピックでは正確なショットをどれだけ多く決めるのか。

そして今大会もやはり注目ナンバー1は、開催国の中国。4年前の平昌大会では延長戦を制してノルウェーに勝利し、金メダルを獲得した。中国は、2015年に冬季オリンピック・パラリンピックの開催地として決定して以来、冬のスポーツの強化に本格的に取り組んできた。その最初の結果として、平昌では中国のパラリンピック競技史上で初めてのメダル獲得で、金メダルという大活躍となったのだ。

中国チームの強さは、素晴らしいコミュニケーション力とショットの正確さ、作戦の組み立て方だ。注目選手は、ワン・モン。車いすでの卓球から車いすカーリングまで、夏冬の二刀流で10年以上プレーし成長し続ける選手の1人である。「平昌パラリンピックの優勝を通じて、車いすカーリングがもっと多くの人たちに注目されることを望んでいる。パラリンピックの目的の一つは、私たちの世界に対する見方を変えることです」と語っている。ワンの声かけは存在感を放っており、コミュニケーション力に加え、正確なドローショットにも注目だ。

まだまだ出場国12チームには注目すべき素晴らしい選手がいるので、パラフォトでは、試合の経過や注目選手を取り上げていく予定だ。いよいよ明日開幕する北京パラリンピック。車いすカーリングの予選は、3月5日から始まる。

【※カーリング精神とは】
競技の基本理念。また、これを述べた文章。すべてのルールやジャッジを支えるものとして、競技者の間で尊重されており、カーリング競技規則の冒頭に前文として掲載されている。カーリングは、技量と伝統のスポーツである。うまくいったショットを見ることは喜びであり、カーリングの真の精神が実践されているこのゲームの由緒ある伝統を目にすることは同じく素晴らしいことである。
カーラーは勝つためにプレイするのであって、決して対戦相手を貶めるためにプレイするのではない。真のカーラーは、決して相手の気をかき乱そうとはせず、また相手が最善を尽くそうとすることを妨げようとせず、そして不当に勝つくらいならむしろ負けることを選ぶだろう。
カーラーは決して故意にこのゲームのルールを破らず、またその伝統のどのひとつをもを見下さない。万一、不注意にもそのようなことを為してしまったと気づいたならば、誰に言われるまでもなく、自ら違反を申し出るものである。
カーリングというゲームの主たる目的はプレイヤー間の相対的な技量を明らかにすることであるが、一方でカーリングの精神は、善きスポーツマンシップ、温情、そして高潔な振る舞いを求める。この精神は、ルールの解釈や適用のしかたに生かすべきであるのみならず、アイスの上にあるとなきとにかかわりなく、すべての参加者の行動の指針となるべきものである。

(校正=久下真以子)

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