9月3日、アーチェリー、男子個人リカーブ オープンが行われ、上山友裕(W2/三菱電機)が登場。KOSTAL Vaclav(ST/チェコ)に0-6のストレート負けを喫し、まさかの1回戦敗退となった。
弓を引いては戻すシーンが、何度もあった。4点に外した瞬間、「あぁっ」という声も漏れた。
首をかしげる表情から、自分のプレーにしっくり来ていないように見えた。
試合後、上山は自身のTwitterを更新。「頭の整理が全くできていない状態なのですが、1回戦で負けたことは受け入れました。何回言っても足りないですが、本当に応援してくださったみなさん申し訳ございませんでした。明日に向けて練習始めます」とコメントした。
明日9月4日には、重定知佳(W2/林テレンプ)とのミックス戦が控えている。
「ウエシゲペア」は2018年のアジアパラ競技大会(インドネシア)で銀メダルを獲得するなど実績十分。息の合ったプレーに期待したい。
上山は、大阪出身の34歳。高校時代に友人に誘われてアーチェリーに出会い、大学ではアーチェリー部に入部。大学卒業後に原因不明の下肢の麻痺が起こり、2011年にパラのアーチェリーを開始した。
2016年のリオデジャネイロパラリンピックでは初出場で7位入賞し、「地元の応援の力」を目の当たりにした。
コロナ禍の影響で満員の会場でのプレーは叶わなかったが、テレビやネットでの応援を背に、悲願の金メダルを目指している。
上山のプレーを後押ししているのは、2021年2月に60歳で亡くなった、東京パラリンピックに同じく内定していたアーチェリーの先輩、仲喜嗣の存在だ。親子ほど年が離れているが、遠征や合宿でいつも隣にいた「数少ないふざけ合える仲間」だった。
仲は31歳で筋萎縮などが生じる難病「AAA症候群」を発症し、46歳でアーチェリーに出会う。2012年ロンドン、2016年リオと出場を逃し、東京への切符はようやくつかみ取った「3度目の正直」だった。
コロナによる延期がなければ叶っていた、仲にとっての夢舞台。
葬儀に出席した上山は、涙がこぼれ続けた。
天国にいる仲にLINEを送ると、返事がかえってきた。
妻の奈生美さんが本人に代わって、天国の声を届けてくれたのだ。
「天国で見とくけど、全部10点入れると面白くないから、たまには外してな。上山くんはスターやけど、俺はスーパースターやからな」。
「仲さん、何やってるんですか。Yahoo!トップ、先に取られたじゃないですか……」とつぶやく上山。
先輩の分まで、東京で活躍する。心に誓った瞬間だった。
上山は「仲さんをフィールドに連れていきたい」と、仲が使っていたクイバー(矢を入れる筒)を預かり、試合で使用している。
亡き先輩の思いを胸に、ミックス戦でのリベンジを誓う。
(校正 望月芳子)