杉村英孝がボッチャBC2クラスで歴史的な金メダルを獲得した9月1日、もっとも障害が重いクラスのBC3決勝も行われた。自己投球できないBC3の選手たちはアシスタントのサポートを受けランプという勾配具を使用して投球する。
決勝は、世界ランキング1位前回大会銀メダリスト、ギリシャのポリクロニディス・グリゴリオス(SMA脊髄性筋萎縮症)と、ランキング8位パラリンピック初出場チェコのペスカ・アダム(筋ジストロフィー)の対戦となった。
先攻のペスカ・アダムは、白いジャックボールを左奥9m、サイドライン付近の位置に置く。「とてもリスクはあると感じていた」が、グリゴリオスに挑むための戦術だった。そして1投目の赤球をぴたりと寄せる。ボッチャはジャックボールから遠い位置にボールがある選手が投球するが、どちらが近いのか肉眼ではわからず、キャリバーやメジャーで何度も距離を計測するミリ単位の攻防が続く。その後、ペスカ・アダムが3球を残した段階でグリゴリオスは青球6球を投げ終えてしまい、第1エンドでペスカ・アダムが3点を先制した。
しかしその後、グリゴリオスがじわじわと追い上げる。第2エンドではジャックボールを自らのほぼ正面2mに置き1点を返す。
第3エンド、べスカ・アダムは第1エンドと全く同じ位置にジャックボールを置き有利な展開に持ち込むが、今度はグリゴリオスがジャックボールをコート外に弾き出す。その場合、ジャックボールはコート中央のクロスの位置に戻される。自分のペースに持ち込んだグリゴリオスが1点を返し、1点差に追い上げる。
そして最終第4エンドも、グリゴリオスが2エンドとほぼ同じ位置にジャックボールを置く。するとペスカ・アダムが4投目ジャックボールにピタリと寄せるスーパーショットを見せる。しかしグリゴリオスは4投目、5投目を使ってジャックボールを遠めに押し出す。1投1投目まぐるしく状況が変わり、緊迫感が場内を包む。そしてグリゴリオスの6投目、最後の投球の場面をむかえる。この時点でジャックボールに近いのは赤。このままでは敗れてしまうグリゴリオスが、わずかな隙間を抜けジャックボールにピタリと寄せるスーパーショットを繰り出し、土壇場でタイブレークに持ち込む。
「タイブレークは勝つか負けるか、フィフティフィフティ。特にプレッシャーは感じなかったと」いうペスカ・アダムがタイブレークを制し、パラリンピック初出場にして初の金メダルを獲得した。
表彰式後、ペスカ・アダムは「金メダルは重い」と手にしたものの価値をかみしめた。
一方のグリゴリオスは、個人戦3度目の銀メダル、またしても金メダル獲得はならなかった。これまではファイナルで負けると立ち直るまで翌日までかかったそうだが、今回はアシスタントである妻と4か月の娘を連れてきており、金メダルは娘が成長したパリパラリンピックで獲ればよいと思えるという。しかし質問が試合内容に及ぶと、表情に悔しさが滲みでた。
そして、「20年間ずっとトップにいるのは自分だけだ」という自負も見せた。
銅メダルは3位決定戦でイギリスのマッコーワン・スコットを6-1で破ったオーストラリアのマイケル・ダニエルが獲得。BC3クラスは個人戦が終了、ペア戦が始まる。
(校正 望月芳子)