パラリンピック陸上競技の花形競技の1つ、義足アスリートたちの100mの予選が始まった。近年の競技用義足の技術の進歩もあり、ここ数年の義足アスリートたちのパフォーマンスも向上はめざましく、今回の大会でもどこまで記録が伸びるのかが注目される。
本日は義足アスリートを含む2クラスの100mの予選が行われた。
1つ目は、T44,62,64のクラス。このクラスではT44(下腿部に機能障害を持つ)、T62(両足下腿切断)、T64(片足下腿切断)のアスリートが一緒に走ることになる。
予選一組では、スタート直後パラリンピック初出場で決勝を狙う大島健吾(T64)が素晴らしいスタートダッシュをみせ、その後にアメリカ代表ジャリッド・ウォレス(T64)が続く展開。その後、コスタリカ代表のシェルマン イシドロ・ギティ ギティ(T64)が大きな体を使った力強い走りで中盤に2人をかわし、先頭へ躍り出る。終盤では、スピードに乗ったドイツ代表ヨハネス・フロールス(T62)がギティをかわし、10.79秒の1着でフィニッシュ。2着は10.88秒の自己ベストでギティ、3位はフロールスと同じ両足下腿義足のアメリカ代表ハンター・ウッドホール(T62)が入り、4位にウォレス。大島は後半伸びず5位に終わった。
予選二組では、序盤からドイツ代表のフェリックス・シュトレング(T64)と南アフリカ代表ムロンゴ・ムプメレロ(T44)が飛び出すが、シュトレングが徐々に差を広げ、10.72秒で1着。中盤からは3連覇をねらうイギリス代表ジョニー・ピーコック(T64)がムプペレロをかわして10.87秒で2着。3着がムプメレロ。そして、4着には初出場のアメリカ代表ジョナサン・ゴア(T64)が入った。この時点でゴアが大島のタイムを上回り、このクラス日本人初の決勝進出はならなかった。
大島健吾コメント
「スタート改善してきて、良い入りができた。得意の中盤にかけて義足が(右足の親指あたりに)引っかかってしまった。中盤以降の伸びが出なくて悔しい。義足特有の伸びを身につけていきたい。初めてのパラリンピックですが、緊張感を良い方向に変えることができた。楽しく走れたことに感謝」
ジャリッド・ウォレスコメント
「ブレードはとても良く仕上がったが、レースでは自分がうまく走れなかった。確実にファイナルまで僕を連れて行ってくれるブレード。ここまでブレードをどのように使いこなすか、自分の中ではっきりと分かっていたことが良かった。(なぜサイボーグのブレード選んだか)2016年に出会う機会を得て、自分の望むデザインで作ってくれるということを知った。翌年金メダルを取ることができても、それに満足せずそこからずっと改良を重ねてきた。レースは正直、全体的には良かったと思う。でも久々の大きなレースだった。日本に戻ってくることができて、ここからファイナルに向けて準備したい。
(謙さんにメッセージを)最高のバディです。いつも沢山のサポートをありがとうございます。明日に向けて一緒に頑張りましょう」
決勝では、予選で余力を残して1着だったドイツの2選手、フロールスとシュトレングがどこまでタイムを伸ばすか注目したい。イギリスのピーコックは予選では調子がよさそうに見えなかったが、決勝でどこまで調整し直せるかが勝負となる。そして、今大会で注目が集まりそうなのが、コスタリカから初出場のギティ ギティ。決勝でも力強い走りが見られるか。また、予選では普段の実力を出しきれなかったウォレスも、どこまで立て直せるかを注目したい。
そして、この日2つ目の義足のクラス、T63(片足大腿切断)の100mの予選が続けて行われた。
予選一組目は、日本代表山本篤選手(T63)が登場。スタート後に、オーストラリア代表スコット・リアドン(T63)が足を踏み外し大きく出遅れる。一方するどく飛び出したのがRPC(ロシアパラリンピック委員会)のアントン・プロホロフ(T42)。そのままゴールするかと思われたが、ブラジル代表ビニシウス・ゴンサウベス ロドリゲス(T63)が後半スピードを伸ばし、最後に刺しきり1着。プロホロフは2着。スタートで大きく出遅れたリアドンは後半持ち直し、持ち前のスピードで追い上げたが、南アフリカ代表プセレソ マイケル・マボテ(T63)に次いで4着でゴール。山本篤は前日の走り幅跳びの疲れが残っていたのか、スピードに乗れず5着となった。
予選2組目は、小須田潤太(T63)が登場。その他にも前日の走り幅跳びで死闘を繰り広げたデンマーク代表ダニエル・ワグナー(T63)、ドイツ代表レオン・シェーファー(T63)、オランダ代表ジョエル・デ ヨング(T63)もこの組に入った。スタートからシェーファーとワグナーが前に出たが、徐々にシェーファーがスピードに差をつけて1着。2着にはワグナーが入った。3着にイタリア代表アレッサンドロ・オッソラ(T63)が入り、4位にデヨングとなった。小須田は5位。残念ながら日本人2人とも予選敗退となった。
山本篤コメント
「コンディションが整わない状況だったのかなと思う。13秒切るタイムで走りたかったのですが、悔しい。でもこの舞台を思いっきり楽しんで走れたのかなと思う。コンディションが整わないのは、やっぱり「歳」ですね。年齢だと思います。以前であれば全く問題なく回復できていたのですが。この日一日に向けて合わせることはできるのですが、何日も続くと厳しいなというのは、もともと分かってはいたが、無理だったということですね。
無観客について。走り幅跳びでは『観客いないけどテレビの前でぜひ手拍子してください』と色々なところで伝えていた。100mも全力で走って、テレビの前の義足の子供たちが色々なことに挑戦するきっかけになってくれたら」
決勝は、予選でも調子が良かったビニシウス・ゴンサウベス ロドリゲスとプロホロフの勝負に、予選では走り幅跳びの疲れが残っていたシェーファー、デヨング、ワグナーたちがどこまでくらいつけるかを注目したい。そして、スタートで踏み外して予選では大きく出遅れたリオパラリンピック金メダリスト、リアドンの決勝での快走に期待したい。
<参考>
・観戦ガイド
義足エンジニア・遠藤謙による「東京パラ注目の義足アスリートの見どころ!」
https://www.paraphoto.org/?p=29084
・観戦会インフォメーション
https://www.paraphoto.org/?p=29198
・Facebookページ
https://fb.me/e/2LNNPvSgl
(編集・校正、佐々木延江、望月芳子)