東京パラリンピック5人制サッカー初日、29日の第4試合スペインvsタイ戦の雌雄が決したのは、残り時間1分を切ってからのことだった。
5月30日「Santen ブラサカグランプリ 2021」で相まみえた際は、3対2と点の取り合いとなりタイが勝利したが、この試合は終了間際までスコアレスのまま進んでいった。しかし決定機がなかったわけではない。タイのギッティコーン・パウディは右サイドからカットインして強引なシュート、ギッティタッ・ウィモンワンも迫力ある縦への推進力でスペインゴールに迫るが、GKセルヒオ・ロドリゲスがゴールを許さない。スペインのセルヒオ・アラマール・ガルシアも強烈なミドルシュートを放つが、タイのGKボーンチャイ・ガジコーンウドムバイサーンが懸命に右手を伸ばし指先でコースを変え、ポストを直撃する。
しかしタイは徐々に、スペインの攻撃をファールでしか止められなくなる。そして後半の累積ファウルが6つを超え、スペインに第2PKが与えられた。
ペナルティエリア内の反則に対するPKはゴールから6m地点からキックするのに対し、第2PKは8mの位置から蹴る。距離が長い分、決めるのは容易ではない。ファールが6つを超えてからはその都度、第2PKが与えられる。
そして残り時間1分を切ったところで、三度目の第2PKがスペインに与えられる。蹴るのはアントニオ・マルティン・ガイタン。5分前は大きく枠を外してしまった。一方のGKは再三の好守を見せているガジコーンウドムバイサーン。
見えざる者と見える者が8mの距離で向かい合い、ガイドがポストの位置を教える金属音が無観客の夜空に響き渡る。キッカーのガイタンは「最後のチャンスだから決めたい」と思っていたが、「プレッシャーはなかった」という。「サッカーは決める時もあれば、決まらない時もある」からだ。
ガイタンは先程と同じところを狙い、右足を振りぬく。キーパーは猫のように飛び上がったが、ゴール右上のネットが大きく揺れた。その瞬間、スペインチームとスペインメディアの雄叫びが響き渡った。
日本代表のキャプテン、フランス戦で2ゴールした川村怜は、ブラインドサッカーの魅力を問われた際に「見えない者と見える者が真剣勝負をして、見える者からゴールを奪うこと」という意味合いのことを答えた。まさにそれが可視化された瞬間だった。
その試合に先立って行われたアルゼンチンvsモロッコ戦は、前半3分アルゼンチンのマキシミリアーノがドリブルで持ち込んでゴールを決め先制。モロッコが前半9分ズハイール・スニスラのゴールで同点に追いつくが、前半15分に再びマキシミリアーノがゴールをあげ、アルゼンチンが初戦を制した。
試合後アルゼンチンのキャプテン、フロイラン・パディージャは「いい試合ではなかったが、勝ち点3はアルゼンチンにとってすごく重要だ」と振り返った。
5人制サッカーの初日は、結果として、いずれの試合もランキング上位のチームが勝ち点3を得ることとなった。
グループB アルゼンチン vs モロッコ
グループB スペイン vs タイ
(校正 望月芳子)