東京パラリンピック開幕まであとわずか。開会式の翌日の8月25日からは、水泳が10日間の日程でスタートする。このうち、メダル候補の1人として期待されているのが、24歳の辻内彩野(視覚障害クラス/三菱商事)。パラ水泳日本代表「トビウオパラジャパン」の副キャプテンに任命され、選手たちの柱としての役割も期待されている。
辻内は東京都江戸川区出身。スイミングスクールの指導者として働く父、高校時代に水泳選手としてインターハイや国体に出場した母のもとに生まれ、妹も大学で水泳選手として活躍している、「水泳一家」だ。
辻内は中高6年間を通して水泳に打ち込んだが、高校3年の時に次第に視力が弱くなり、進行性の「黄斑ジストロフィー」という診断がおりる。弱視となった後は一度水泳を離れたものの、高校の同級生でリオパラリンピックにも出場した森下友紀の誘いを受けて競技に復帰した。
パラ水泳選手としてはじめて試合に出たのは、2017年9月の「ジャパンパラ水泳競技大会」。まだ4年前のことだ。健常の水泳での経験のある辻内は、あっという間に頭角を現し、2018年にインドネシアで開催された「アジアパラ競技大会」では4つのメダルを獲得。2019年にロンドンで開催された世界選手権では100m平泳ぎ(SB13)で日本新記録を更新して銅メダルを獲得し、一躍注目を浴びる存在となった。
2021年6月に行われた「ベルリンワールドシリーズ」でも2種目でアジア記録を更新し、順調な仕上がりを見せている辻内。その後行われた日本代表合宿の直前に、上垣匠・代表監督から副キャプテン任命のメールが届いた。
「家でメールが届いて、母に見せて2人で驚きました。だってまず、まとめる側に一度もたったことがないですから」と笑う彼女。任命の理由は、世界選手権で日本女子唯一のメダリストという実績に加え、健常者時代の水泳経験、そして持ち前の明るさがあったようだ。
キャプテン鈴木孝幸、同じく副キャプテンの山田拓朗といった経験のある選手を見ながら、「若手選手や知的障害クラスの選手とコミュニケーションをとって、日本水泳チームをとりまとめるのに貢献したい」と辻内は話す。普段からメディアにも笑顔で対応するなどコミュニケーション能力が高いだけに、期待大だ。
東京パラリンピックで水泳のレースが行われる会場は、東京オリンピックと同じ「東京アクアティクスセンター」(東京・江東区)。江戸川区出身の辻内にとっては「自宅から自転車で行ける距離」で、「最寄り駅が1つ隣」という身近な場所だ。
「近くにたくさん知り合いもいるし、結果を見てもらえると思う。少しでも恥じないような結果を出せたら」と意気込んだ。
辻内が出場するのは、8月27日の400m自由形(S13)、8月29日の50m自由形(S13)、8月31日の49ポイントリレー、9月1日の100m平泳ぎ(SB13)の4種目。専門は自由形で、大きなストロークを武器に50mでは26秒台を目指す。”ホームゲーム”での彼女の躍動に注目だ。
(校正・佐々木延江 写真協力・安藤理智)