7月2日の東京2020パラリンピック日本選手団発表をうけて、7月7日、東京都港区の日本財団で、一般社団法人日本障がい者乗馬協会(JRAD)による東京2020パラリンピック馬術競技の代表決定記者会見が行われた。
代表に選ばれたのは下記の選手。過去のパラリンピックでは、日本の馬術の出場は1人馬だったが、今回は開催国のため出場枠は4が割り当てられ、初めて4人馬で挑むことになった。
【日本代表】
グレードⅡ 宮路満英 リファイン・エクインアカデミー/セールスフォース・ドットコム
グレードⅡ 吉越奏詞 アスール乗馬クラブ/日本体育大学
グレードⅢ 稲葉将 静岡乗馬クラブ/シンプレクス
グレードⅣ 高嶋活士 ドレッサージュ・ステーブル・テルイ/コカ・コーラ ボトラーズジャパンベネフィット
【リザーブ】
グレードⅠ 鎮守美奈 明石乗馬協会/コカ・コーラ ボトラーズジャパンベネフィット ベテランの鎮守は、馬の体調や怪我など万一人馬で出場できない組が出た場合出場する。
上記5人は強化指定選手として、5月下旬から1ヵ月弱オランダで強化合宿を行った。そして6月11・12日、より強い日本チームを作るため、最適な人馬の組み合わせへのトライアルも含め、オランダのクローネンベルグで行われた最後の選考対象となる国際大会(CPEDI3★)に出場。
その結果、同大会で高得点を出した高嶋活士が国内ランキングを上げ、代表4選手が決まった。
日本代表監督は三木則夫氏(明石乗馬協会)。宮路はリオパラリンピックに続き2回目の出場だが、ほかの3選手は初出場で、いずれも20代の若手選手だ。
パートナーとなる馬については、今現在、出場最低基準をクリアしている馬は、宮路は3頭(海外に2頭、日本に1頭)、吉越も3頭(同)、稲葉は4頭(海外に1頭、日本に3頭)、高嶋は3頭(海外に2頭、日本に1頭)、鎮守は3頭(海外に2頭、日本に1頭)いる。東京パラに出場する人馬の組み合わせについてはこの中から選考し、7月中旬から下旬に決定する予定。
JRAD会長の嘉納寛治氏は、
「どの選手もどんどん上向いている状況、と報告を受けています。パラリンピックでは日本一丸となっていい成績を収めることにまい進していきたいと思っております」
と挨拶。
監督や選手たちも、それぞれ東京パラへの意気込みを語った。
日本代表監督・三木則夫氏
「馬術は2000年から6回目のパラリンピック。コロナがあって、こういうふうに閉塞の中でパラリンピックを迎えるのは初めてで、それなりの苦労が選手にもあったと思っています。2000年のシドニーの時だけは3人の選手で貸与馬で臨みましたが、それ以後アテネ、北京、ロンドン、リオ、全部自馬で、1人の選手がただただ頑張ってくれて、灯を絶やさないようにしてくれて今日を迎えています。4人の選手で迎える初めてのパラリンピック。当時とは隔世の感があり、馬の質がまったく違うし、若い選手が相当数増えました。支える我々の団体も一定の強化費用で、できるだけ応援する、という大会になりました。コロナのことがありましたが、その範囲でやれるだけのことはやった、という思いがあります。一人の努力で、各選手の努力で連綿と続いてきたこの活動を、ぜひ4人の選手が受け継いで、東京でしっかりとした成績を残してもらいたいと思っています」
宮路満英
「前回、リオの時はあまり動きがよくなかった。その時よりも今回の東京でいい成績が出るように頑張ろうと思います」
吉越奏詞
「僕の指導やコーチに関わったアスール乗馬クラブの方や皆さんに感謝しています。2018年の世界選手権の決勝のフリースタイルでは6位だったんですけど、その気持ちを糧に今回の東京パラリンピックでは、メダルを狙えるような演技ができるように頑張ろうと思います」
稲葉 将
「まず、無事にこの場にいられることを嬉しさというより、ほっとした、というのが正直なところです。たくさんの方からサポートがあったり、応援していただいて、今この場に立てているので、パラリンピックでは自分のベストな演技をして、また競技のことだったり、今後の活動にもつなげていけるような、そんな時間にできたらいいなと思っています。東京パラまでの残りの期間、人馬ともに体調管理をし、無事に本番で、見ている人に何か感じてもらえるような演技ができて、少しでも恩返しになるような時間にできればいいなと思っています」
高嶋活士
「今回の大会までランキングは一番下だったので、いろいろなたくさんの方、オランダの方方々や協会の方々がサポートしてくださって、なんとかここまでくることができました。本当に、東京は頑張りたいと思います。
とりあえず馬がすごくいい動きをしてくれるので、敏感でちょっと神経質なところもありますが、競走馬に乗っていた経験(高嶋は落馬事故で引退した元JRA騎手)を生かして強気で乗れるので、その辺は強みかな、と思います」
パラリンピックでの具体的な目標については、吉越は「メダルを獲りたい」。宮路は「自分自身今まで取ったことがない得点率70%を出したい。まずは6位、一番行きたいのは3位以内」。稲葉は「メダル獲得。また、チームとしては、2018年の世界選手権以上の結果を出したい」。高嶋「70%以上出したい。入賞できれば」と、それぞれ高い目標を目指している。
三木監督によれば、海外勢もコロナ禍にも関わらず、2年前の世界選手権の時以上のレベルの高さで、魅せる演技をしているという。
「今の段階では、すべての国が上、という認識を選手たちはしていると思います。でも彼らが全然勝負にならないかというと、まったくそんなことはありません。うまくはまれば、そこに(各自の目標まで)いける、と実感として持っていると思います。ただ、安定性がないというのが、今の日本の課題です。もしポイントを守って、ペースを守って、要求されていることをやれば、うまく補ってくれるような馬が(オランダで)スタンバイしていますので、選手の経験不足の部分は少し馬が補ってくれるでしょう。だからしっかり守るべきところを守ると、そこに行けると選手は思っていると思います」
東京パラまであと48日。選手たちの実力がさらに向上し、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれることを期待したい。
<参考>
・FEI(国際馬術連盟)の東京パラリンピックのサイト
https://www.fei.org/stories/sport/dressage/para-dressage-tokyo-2020-ones-watch
・過去の馬術の記事(パラフォト)
https://www.paraphoto.org/?cat=164
(取材・文 望月芳子、編集・校正 田中綾子、佐々木延江)