史上初の延期となった東京2020パラリンピックまで53日となった7月2日、日本代表選手団(第一次)が発表され、河合純一日本代表選手団団長ら4名が登壇、コロナ禍をくぐりぬけて開催されようとする東京パラリンピックへの意気込みを表明した。
また、長野パラリンピック金メダリスト・マセソン美季氏が3人目の副団長として加わった。マセソン氏は、2018年よりIOCとIPCで教育担当委員を務め、東京大会に向け、パラリンピック教育「I’m Possible」のプロジェクトリーダーとして教材の開発と全国への普及に努めている。副団長として渉外を担当する。
日本障がい者スポーツ協会常務理事/東京2020パラリンピック推進本部長・高橋秀文氏により、20競技の選手221名、競技パートナー18名、競技団体コーチ・スタッフ123名、選手団役員・本部スタッフ22名の合計384名の日本代表選手団が発表された。
選手は、選考基準としてつぎの1~3のすべてを満たしているものを各競技団体の推薦を経て決定した。
1東京2020パラの参加資格を満たしているもの。
2医学的観点から日本代表選手として推薦できるもの。
3メダル獲得、または入賞の可能性のあるもの。
また、開催国枠について、1と2に加え、パリ2024パラリンピック競技大会での活躍が期待できる選手として推薦された選手について、日本代表選手として決定した。
なお、選手は今後も追加され最終的に選手250人・スタッフ450人程度まで拡大し、過去最大規模の選手団となる予定で、7月中にはJPCウエブサイトに掲載される。
日本選手団・主将には、車いすテニスの国枝慎吾が選ばれ、副主将にはロンドンパラリンピック・ゴールボールで女子団体チームを初めて優勝に導いた浦田理恵が選ばれた。
旗手には男女一名ずつとして、男性は岩淵幸洋(卓球)が選ばれた。女性旗手については引き続き検討し後日発表される。
河合団長は、記者たちに次のように話した。
「本日、マセソン美季副団長にも加わっていただくことを発表することができた(本日は欠席)。
世界で初めて、2度目の夏季パラリンピックを開催する都市、東京。その日本選手団団長という重責をひしひしと感じている。
日本代表選手団が目指していくべき方向性について3点お話しさせていただきたい。
1点目は「感染症対策の徹底」。先日、東京2020大会のプレイブック(ルールブック)3が公表された。競技団体関係者、選手に向けての説明会を開催し、検査体制や健康管理、厳格な行動管理について、説明をしっかりていねいに行っていきたい。
アスリート・大会関係者だけの安心安全ではなく、国民の皆様の安心安全を守るために、われわれスポーツ関係者がルールを守るということをしっかりと貫いていきたい。
2点目は「感謝」。医療関係者含め多くの方々にこの社会を支えていただいているという現状がある。そのおかげで大会の準備も進んでいることを十分に理解している。心から敬意を表するとともに、お礼を申し上げ、その思いを、パフォーマンスを通じてお届けしたい。
3点目は「最高のパフォーマンスの発揮」。私が団長に就任して以来、貫いてきた思いであります。最高のパフォーマンスを発揮することを究極の目標とし、選手団としての取り組みを進めていきたい。アスリートたちは自らのパフォーマンスを通じて、役員やスタッフはそのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮するためのサポートを全力で取り組むということだと考えている。
万全の準備なくして最高のパフォーマンス発揮はありえない。心身のコンディションを整え、しっかりと実力を出し切れる準備を進めていきたい。
今回、主将、副主将を発表しましたが、経験、実績ともに十分な国枝主将、および浦田副主将を中心として、「超えろ、みんなで!」というチームスローガンのもと、一丸となって大会に向かっていきたいと思っている。人間の可能性の祭典、というパラリンピックまであと53日。オリンピックからのバトンを引き継ぎ、東京2020大会のゴールテープを切るのはわれわれパラリンピックの日本選手団であると思っています。9月5日の閉会式まで全力で駆け抜けていきます。皆様からの熱い声援が、選手たちの大きな支えになります。どうか、日本代表選手団へ向けて温かいご声援をお願い申し上げます」
国枝主将から寄せられたコメントを高橋氏が代読した。
「この度は、日本代表選手団の主将の重責を担わせて頂くことを、大変光栄に感じています。ホーム開催として今回のパラリンピックに参加できる日本選手は、おそらく全員が人生で一度きりのとても貴重な経験となることと思います。
また、東京パラリンピックは、障碍者スポーツの枠にとらわれず、純粋にスポーツとしての魅力を伝えられる最高の舞台でもあります。一人一人の選手が、この世界最高峰の場で全力を尽くすべく、準備をしてきたと思いますし、また、そのパフォーマンスが、日本の皆さまの障がい者スポーツに抱くイメージを、いい意味で上回ってくれると思います。
今回の東京パラリンピックは新型コロナウイルスの影響により1年延期となり、その開催に至るために、様々な意見があることは選手も承知しています。それでも、選手としては、開催のためにご尽力いただいた皆様への感謝の気持ちを忘れず、また、コロナ禍により様々な制約があることを理解し、順守して、試合に臨んでいく所存です。そして大会が成功するよう、選手一同頑張りますので応援宜しくお願い致します」
会場に集まった記者からの質疑応答
Q 最高のパフォーマンスの発揮ということもあるが、現段階でのメダル数の目標は。(フジテレビ・イヌイ)
A 河合「一年前(パラリンピック200日前)の2月に発表した数字(7位・金メダル20個)があるが、新型コロナウイルス感染症のさまざまな状況により国際大会やランキングが止まった状態で、判断するエビデンスが十分にないので、変える議論は十分していない。今日お話したように、最高の準備をし、パフォーマンスを最高の舞台で発揮することの先に、そういった結果がついてくると思っているし、安全安心にこの大会をやりきるということを通じて、誰もが本当の意味での勝者になっていけると思う。そういう思いで、選手団の皆さんにもメッセージを伝えて取り組んでいく。そういう決意です」
Q コロナ禍で賛否両論あったが、パラリンピックだからこそ開催する意義等あるか?(フジテレビ・イヌイ)
「パンデミックのこうした状況の中で、パラリンピアンだからこそ伝えられるものがあるのではないかと常々思っています。まさに、多くのパラリンピアンが、中途障害の方々が多くいらっしゃる中で、あたりまえだったものを失ったという喪失体験を持っている方々が多くいます。その中でトレーニングに取り組み、自分自身の中の障害に向き合ったり、それを受け入れる、そういった姿勢や考え方というものが、きっとコロナ禍のさまざまな場面で皆さんの参考にもなるのではないか。それらを伝えるのもパフォーマンスだと思っているので、選手にはぜひとも本番でよいパフォーマンスを見せていただくことによって皆様へのメッセージになると思っている」
Q どんな特徴のがある選手団か?(共同通信・テツヤ)
A 河合「まだ384名が決定した段階で最終決定でまた考えるべきと思うが20の競技から様々な選手が集まっている。(パラリンピック)初出場から出場5回以上出場まで、経験、年齢、男女幅広い。女性の団体競技も入ってきている。今まで以上に多様性が選手団の中に存在する。我々が一丸となって取り組んでいくことが、今後の日本や世界の皆さんに対しても、よりよい方向性の一つのヒントを提供できたらいいなと思う」
Q パリを見据えて、ということも選考基準とのことで、初出場や若手選手が多い印象ありますが。(共同通信・テツヤ)
A 河合「まだ評価があるわけではないが、2019年に示した編成方針にのっとり、競技団体から推薦してもらった。まさに本番でしか学べない、気づけないものがある、というのは私自身も(選手として)痛感しています。体験し、出場した選手たちが次にもつなげていけると思う。自身の経験としてつないでいく、ということもあれば、(後輩たちに)語り継いでいくこともあると思う。 国枝主将のコメントにもあるように一生に一度しか訪れない自国開催で選手として出場できるという機会をどう生かすかというのは、われわれJPCにとっても貴重な財産。先般発表したJPSA2030ビジョンに基づくJPC戦略計画を柱に、こういったものにも積極的に関わっていただけることも含めて、持続可能な勝ち続けられる仕組み作りにしっかり取り組まなくてはならないと考えています」
Q 主将、副主将、旗手を選んだ理由。JOCのほうでも副主将選ばれてますが必ずしも男性でなくてもいいのではないかと思います(東京新聞・カミヤ)
A 高橋「やはり今の世の中はジェンダーバランスが重要。主将、副主将という形でジェンダーを意識して配置した。旗手も同様に考えている。おっしゃるとおり主将が女性でもよかった。 自国開催ということで、日本を代表する選手は誰なのか。国民がよく知っている選手。パラスポーツは知名度が低いが、そうしたなかでも彼なら、彼女なら、という選手を、男女関係なく考えてみて、二人がふさわしいと。国枝選手は四大大会で最高の優勝回数を誇る、フェデラーを上回る、日本が世界に誇れる選手。浦田選手はロンドンで、女性で初めて団体競技で金メダルを獲ってくれた競技(ゴールボール)の主将。実績もすばらしいし、人格、実績もふさわしいと、二人を選んだ。 旗手は少し若手がいいという気持ちがあった。将来を担ってくれるであろうという意味で。今大会でも大いに期待しているので、人格にも旗手として堂々とおしていけるという観点から岩渕選手を選んだ。
Q 旗手をもう一人ということですが(東京新聞・カミヤ)
A 高橋「女性の旗手については、二次、三次と今後選ばれる選手も含めて幅広く選びたいので、もう少しお時間頂戴したい」
Q 男性旗手の卓球・岩淵選手(金メダル以上を目指すという言葉が印象的)に期待することは?(テレビ東京・マツモト)
A 河合「若手を旗手に選び今後にもつながっていく。自分自身が中心となりながら、パラスポーツ全体を盛り上げていこうという取り組みなども承知し、高く評価している。そういった自分のパフォーマンス、プレーで引っ張る部分と、さまざまな言動や活動を通じて貢献していく、という部分も大いにある選手と思って、この場を経験をし、さらに飛躍してくれることを願って今回決定した」
A 高橋「大会で岩淵の活躍を見ていると、幅広い層のファンがいる。子どもから年配まで。企業のいろんな応援も受けている。これから共生社会を目指していくうえで、幅広い人に支えられている選手は魅力的だと思う。また、卓球は全国どこでもやりやすい競技。健常者の卓球も広く普及していて、パラの卓球も岩淵選手を通じて全国どこでも楽しめると、パラ卓球をより注目していただきたいという気持ちもあって選んだ」
Q 今月中に選手団の最終決定とのこと。最終的な規模は? またこの段階でマセソン副団長を選んだのはジェンダーバランスなども考慮したのか?(NHK・ナカノ)
A 高橋「正確ではないが、選手は250名程度だと思う。団として全体450名程度になるかな、と思う。約9割今日発表した。 副団長マセソン美季の追加は、副団長のアクレは選手団数に応じて発行が認められる。当初はわからなかった。また今後の見通しで副団長アクレは3名認められそうなことがわかった。 井田が総務と渉外、櫻井を競技とやっていましたが、井田と分けて渉外担当をやってもらうことにした。ここにいる5名はすべて男性で女性がいない。41%女性、今までの大会より女性比率が高い。マセソンはパラアスリートでもあるので、女性選手の気持ちがよくわかる人を選んだ」
Q 河合団長への質問。メダル目標 結果の先にあるものを重視とのことだが、20個の金メダル、コロナ禍で下方修正の議論はあったか? また海外選手は行動制限などあって、自国選手が有利な大会になるという懸念があるか?(毎日・イワカベ)
A 河合「議論は特にしていない。万全の準備をし、最高のパフォーマンスをしてもらうことができればメダルにつながっていく。と思い、感染症対策もしていく。 リオ大会でも国内と国外の選手で差があったが、それは、日本だけが有利という話ではないと考えています」
Q 金メダル20個の目標、JPCはそれにこだわっている?(日経新聞・セッタイ)
A 河合「こだわっているわけじゃなくて、目標は変えていない。最高のパフォーマンスをする。その結果であるということ」
Q 水泳のタッパーのアクレは調整したのか?(日経新聞・セッタイ)
A 井田「調整が終わっていない。選手の数に応じてアクレディは変わる。これから選手が増えていく中で全体を調整しながら必要な枚数を割り当てていく。個別に誰がどうということは言えない」
Q 残りの種目は?(日経新聞・セッタイ)
A 井田「パワーリフティング、トライアスロンがまだIF(国際競技団体)から日本に数の指示が来ていないので決められない」
Q ジェンダーバランスの比率は?初出場の割合。それがわかればデータでください、(日経新聞・セッタイ)
A 高橋「男子129・女子92名、男子59%、女子41%になります。今までのパラでの男女比、ロンドンの選手134名、男子89・女子45名、リオ132名、男子86・女子46名。(東京は)今日だけで221名なので圧倒的に過去最高です。 あと、セッタイさん、金メダル20個、世界7位、それを目的として鼓舞することはなくて、安心安全な大会の中で、最高のパフォーマンスをした結果そう(7位、20個に)なればいい。そうならないからどうこう、とは考えていない。それがJPCの考え方で、JOCの山下会長とも同じと思っています。目指しているが目的化はしていない。達成することだけを考えているわけではない。状況は変わった」
Q 選手数過去最高、女子選手も過去最高、この5年間のJPCを中心とした強化についてはどう考えるか?(読売新聞・アゼカワ)
A 櫻井「私から。コロナの影響で一年延長。この間、多くの選手がなかなか練習できなかった。しかしその間に、今まではもっぱら競技の技術の練習をいろいろな所でやっていたのが、自宅で身体の基礎的な練習をしっかりやる、というのが一年間行われた。その結果、多くの選手の基礎的なパフォーマンスが逆にできてきた。各競技団体から推薦があがってきた選手をみていると、コロナ禍を乗り越えて成長してきた、と感じている。今回の大会を経て、また次を目指していける若い力が育ってきていると感じている」
Q 事務的なことだが、ゴールボールのゴールキーパーはメダル対象ですか?(読売新聞・アゼカワ)
A 井田「メダルの対象になる。自転車のパイロットと同じ」
Q 観客が目の前でみるということがパラリンピックにとってレガシーを築く上でも大事だと思いますが、選手団で決められないことではありますが、選手団としてはどういう想いがありますか?(パラフォト・ササキ)
A 高橋「せっかくの機会なので、やはり多くの方々にパラ競技を知って欲しい、感動を現場で感じてほしい。そういうことが可能であれば、と思うが、観客の方がどのぐらいか、というのは今のコロナの状況の中でそういう理想的なことを言っていられるか?と正直思う。したがって観客数の上限については、安心安全な大会、これが大前提です。そうした中で関係者の皆様がいろいろ悩んで話し合いをされている状況だと受け止めている。JPCとしてはその結果、観客数がどういう状況になろうと、観客を見送ろうと、パラリンピックの舞台で選手が最高のパフォーマンスを発揮してくれる場を用意していただけるということに感謝しながら、精一杯われわれとしてできることをやっていきたい。
A 河合「佐々木さんと同様に思うが、我々としては、決められた状況(有観客・無観客)になったところで、その場でできる限りの最高のパフォーマンスを選手たちに出してもらえるように準備をする、これに尽きると思っている。それに向けてやるべき準備を粛々とやる、情報を伝えていく、ということを継続して残り53日取り組む」
(編集サポート・望月芳子)