東京パラリンピックまで半年を切る中、各競技が葛藤する国内大会の開催と感染対策。
そんな中、今回の緊急事態宣言期間中にいち早く国内大会の開催に踏み切った競技が、パラ・パワーリフティングだ。
1月30日から31日にかけて、「第21回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手権大会」が東京・千代田区立スポーツセンターで無観客で開催された。
男子72㎏級では、アテネ・ロンドンと2回パラリンピックに出場している47歳・宇城元(順天堂大学)が176㎏の日本新記録を樹立したほか、合わせて4名の選手が日本記録を更新。多くのアスリートがコロナ禍で満足な練習ができない状況が続く中、健闘を見せた大会となった。
大会はライブ配信されたほか、競技会場でプロジェクションマッピングのような演出が行われたり、遠隔でもリアルタイムで応援を届けられるシステム「リモートチアラー」が導入された。リモートチアラーは、スマートフォンの画面に「ファイト!」「自信もって!」などのボタンが表示され、押すと会場のスピーカーからその声援が流れる仕組みだ。無観客試合でも選手と応援の一体感や、その場にいる臨場感を感じ取ることができた。
感染拡大への不安の声が聞こえる状況で、どのようにして開催に踏み切ったのか。連盟の吉田進理事長の言葉に、そのヒントが見えた。
ーー今大会の開催を決めた経緯は何だったのでしょうか。
吉田:色んな意見はありましたが、室内スポーツであり接触が少ない競技であること、競技における動きがバーベルの上げ下げに限定されていることから、コロナ対策がしっかり取れていれば、試合はできるということを考えていました。PCR検査はもちろんのこと、選手の会場入りの時間がかぶらないように、一人ずつずらして入ってもらいました。徹底して密を避ける発想で突き進んできて、ここまで来たというところです。
ーー選手が競技を行うのをメディアが映像で見たり、オンライン配信での実況や解説も別室で行うなど、徹底されていましたね。
吉田:最高のパフォーマンスを出すためには、やはり心理的なものも考慮しなければなりませんよね。選手周辺の感染対策や、競技の合間の換気に加え、競技をする部屋に入る人間も絞りました。私もその部屋には入っていません。
ーー選手たちの中には、マスクをしている選手としていない選手がいました。
吉田:最初はやっぱり選手の顔を見せたいなと思っていたので、PCR検査をしているんだからマスクを外してもいいんじゃないかと悩みました。でもやっぱり緊急事態宣言の中でそれはやりすぎかなと思ったので、マスクをすることを「強く勧める」という形を取りました。クリーンな状況を作ったうえで、最終判断は選手に任せました。
ーー2020年10月の「チャレンジカップ京都」が開催できたということも、今回につながっているのではないですか。
吉田:はい、つながっていますね。「フェイスシールドやマウスシールドは競技においては有効ではない」というドクターの知見をいただいたり、色んな対策を積み重ねて進歩してきていると思っています。どんな競技においても気を付けないといけないことには変わりありませんが、正しく恐れて、選手たちに多くのチャンスを与えてあげてほしいなと思っています。
1都3県の緊急事態宣言が延長される中、3月に開催されるパラスポーツの大会が目白押しとなっている。いくつか挙げてみるだけでも、「第37回日本パラ水泳選手権大会」(静岡・3月6日~7日)、「第32回日本パラ陸上競技選手権大会」(東京・3月20日~21日)、「2021ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」(東京・3月20日~21日)など大きな大会が並ぶ。
選手たちの思いと、コロナ対策。どのようにバランスを取って、開催の無事につなげていくのか。「できるできないではなく、どうできるか」が今、試される時が来ている。
(校正=佐々木延江 撮影=秋冨哲生)